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熱気に当てられて

大観衆。

そして大歓声。

すみません、甘く見ておりました。



すごいわ、魔術オリンピック。


================================


今回も、スバルロボを連れて街へ。この街の名前はリンプス。前よりも

さらにオートマータの数が多いね。ここまで来ると、注目もされない。

そんなわけで、オリンピック会場へいざ行かん。割と街の正面の門から

すぐの所でした。そして、デカイ。ローマのコロッセオよりもデカイ。

下手すりゃ現代の競技場よりずっと収容人数が多そうです。


どうしてこれほどの規模で?と一瞬思ったけど、古代の建造物が現代を

規模的に凌駕する事は珍しくない。ピラミッドなんて最たる例だろう。

何事も、謙虚な気持ちで見聞きするのが大事だよね。


チケットはそこそこ高かったけど、さすがに社長は迷わずお買い上げ。

ちなみにオートマータは半額です。どういう基準の割引なんだろうな。


通路を歩いてる時から歓声が凄い。何と言うか、普通にドキドキする。

スポーツ観戦なんて社会人になって縁がなかったけど、別に嫌いだった

訳じゃない。甲子園だって行った事ある。熱中症一歩手前だったけど。


やがて、競技場が見える観客席へ。


おお、懐かしいなあこの感覚。

頭上には抜けるような青空。そして見渡す限りの人、人、さらに人。

すぐ隣にいる人も遠くの席で豆粒になってる人も、等しく盛り上がる。

これぞスポーツ観戦だ。


何か、たぎってくるなあ!


================================


『あ、やってますね』


ドォォォン!


あいちゃんの言葉と同時に、眼下の競技場から大きな爆発音が響いた。

黒い爆炎が上がり、歓声も上がる。うおぉ、やっぱり魔術だねあれは!


…とは言っても、別に使い手同士が死闘を繰り広げてるわけじゃない。

ここで行われているのは、あくまで個人の技量を計る系の競技だ。

走り幅跳びとか棒高跳び、重量挙げなんかに近い種目だね。そう言うと

地味に聞こえるかもしれないけど、やっぱり魔術ぶっ放すビジュアルは

遠目に見ても迫力満点だ。見世物としての充実感は、申し分なく高い。

魔術がシステム化されて生活の中に組み込まれている世界だからこそ、

それを規格外の規模で扱える存在はプロとしての魅力があるんだよね。

うん、非常に納得。


ドォン!ドォン!ドォォン!!


おっと、あっち側ではもっと派手な種目が始まってる。おそらく防壁の

強度を計るやつだね。審査員らしき術者数人が、選手の展開した防壁に

火炎弾を撃ち込んでる。もちろん、選手自身は別の安全な場所にいる。

そりゃそうだね。これで怪我したり死んだりしたら目も当てられない。

代わりに、何だかカワイイマネキン人形が設置されてるよ。要するに、

あのマネキンが壊れるまでの攻撃の回数を記録にするって事なんだね。

…標的がアレって、ちょっと特殊な嗜好を感じてしまいますけど…


ドッガアァァァァァン!!


おおっ、マネキンが吹っ飛んだ!!…って、えらく派手に吹っ飛ぶな。

なるほど、その点も見世物の一環として楽しめって事なのね。いやはや

エンタメですねえまさしく。人気があるのも限りなく納得できますよ。

と、ひときわ甲高い嬌声が響いた。女性の観客たちの上げた声らしい。

見てみると、おお、実に観目麗しい女性選手が登場したんだね…って、

そこは美青年じゃないんだ。何だかちょっと意外。カッコいいけどね。

それにしても、宝塚の男役もかくやという美形っぷりですね。アレだ、

アイドル配信者とかそういう感じ。ビジュアル重視で人気を稼ぐという

発想は、この世界にもしっかり存在しているらしい。何だか親近感。


んで、あの人は…おお、的を何発で破壊できるかって種目に出るのね。

見た目に寄らずパワー系ですねえ。とりあえずはお手並み拝見…


ドォオン!ドォオン!!


おお、中型の的を2発で貫通だね。そして起こる大歓声。人気だなあ。

何て言うか、映えてるね。そして…


「いかがです、丑三ツさん?」

「…大した事ないですね」

「やっぱりそう思いますよねえ」

「え、あ、はいっ!?」


不意打ちの質問に、ついつい本音を漏らしてしまった。振り返ると、

意味ありげに社長が笑ってる。その傍らでは、あいちゃんも興味深げに

こっちを覗き込んでる。いやその、そうじゃないんですって!


「正直、私もそう思いますよ」

「ど、どう思われるんですか?」

「あの程度なら、柳橋さんはおろか丑三ツさんにも遠く及ばないとね」

『ですよねー!』


いや、変な合いの手入れないでよ!あいちゃんだけど!


…ここだけの話、出場選手の力量にそれほど驚けかったのは事実だ。

もっと凄いのかと思ってた。だけど別に、それで自分がどうだとか…


「丑三ツさん」

「は、はい?」

「チケットを購入する時に確認しておきました」

「な、何をですか」

「この大会、途中の飛び入り参加も歓迎らしいですよ」

「へ?」

「せっかくだから出てみましょう。きっと上位を狙えますよ」

「いや、あの」

『おーすごい智華ちゃん!見たい!活躍するとこ見せてっ!!』

「いや……」


どう言えばいいんだ、この状況?


「大丈夫ですよ、丑三ツさん」


笑いながら社長が言った。


「ああいった使い手たちは、みんな意外とアバウトな存在なんですよ。

国籍だとか経歴だとか、そういった社会的保証が無くとも立ち回れる。

本当の実力者にのみ許されている、自由な立場です。だから飛び入りも

名前と年齢の開示だけでできます。もちろん偽名でも構わないんです」

「…お詳しいですね」

「前に見た事あるんですよ。だから心配はいりません。…どっちみち、

用が済めば二度と来ない世界です。旅の恥は何とやらでしょう?」


いや、恥って。

まあ、社長の言う事ももっともだ。別に過去の世界に来てるわけじゃ

ないんだから、あたしたちの存在が世界を脅かすって事もないだろう。

ならばちょっとくらい、自分たちの爪跡を残すのも悪くないと思える。

だったら、ひとつだけ確かめたい。


そのために必要な、もうひと押しの言葉があるんです。


「社長」

「はい」

「これも仕事の一環ですか?」

「もちろんです」

「了解です!」


そう、そのひと言が聞きたかった。

仕事で来たこの異世界で、やっぱり仕事のために借りものの力を使う。

社長に言ってもらえたなら、もはや躊躇いも遠慮も無用って事ですよ!



んじゃ、行ってきまぁす!!


================================


………………


何だろう、やっぱアホだあたし。

どうして簡単に乗せられて、こんな訳の分からないとこに立ってんだ。


当たりを見回せば、まさに大観衆。そっちから見下ろすのとは違うな。

声の響き方も圧倒的だ。と言うか、そんな中に何しれっと参加してる?

自業自得なんだけど、あたしは一体何をやってるんでしょうか。


挿絵(By みてみん)


………………………………


まあいいや。



どうせなら上位狙ったるわ!!

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