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いざ、魔術オリンピックへ

翌日。


「いいお天気ですねえ」

「眺めもいいですねー」

『…そうですね』


自動車形態に戻ったスバル360に乗り込み、ごきげんドライブです。

通常運転の社長。テンション高めのあたし。そしてちょいムクレている

あいちゃん。



道は続くよどこまでも。


================================


とりあえず、話は昨日に遡る。


「大賢者ラズリ」の手がかりを求め役所などを巡ったものの、予想通り

目ぼしいものはなかった。おそらくあまり公的に評価される系の人では

なかったんだろう…という結論で、その日の業務は終了となりました。

あんまり根詰めても、いい結果には繋がらないもんね。


「で、どうするんですか?」

「少々、アプローチの方向を変えてみようかと思います」


役所に行った時に、何か調べていたらしい社長。別方向のアプローチが

できるなら御の字だ。あたしたちにそんな発想はできませんからね。


『何をするんですか?』

「これですよ」


興味深げなあいちゃんに答えつつ、社長がかざしたのはチラシだった。

この世界って、何気にけっこう製紙や印刷技術が発達してるんだよね。

えーと、なになに?


「魔術…オリンピックですか?」

「そうです。ちょうど今、ここから西へ行った街で開催されてますね」

『ええっ、オリンピック?そんなの異世界でもあるんですか!?』

「もちろん」


興奮するあいちゃんに当然といった態で答え、社長はチラシを丸めた。


「知っての通り、この世界はかなり魔術がシステム化されています」

「ですよね、確かに」

「もし危険な魔獣が現れれば、まず出動するのは警察の専門部隊です。

手に負えない場合は軍隊が出張る。それでも厳しいとなった時、初めて

ずば抜けた魔術を駆使する個人への依頼がなされるわけです」

『何か、イメージ違うなぁ…』


うん、それはちょっと同感だ。


街を巡って分かったけど、ここにはいわゆる「冒険者ギルド」が無い。

この街に無いんじゃなく、概念自体存在していない感じなのである。

社長が言った通り、魔獣討伐などはまず公的な治安維持機関が担当し、

大抵の場合はそれでどうにかなる。ならなかった場合に限り、それこそ

大賢者とか呼ばれそうな強豪たちに声がかかるのである。このあたり、

いわゆる異世界ファンタジーの定番からはけっこう乖離してる感じだ。

良くも悪くも、リアリティ重視。


だけど、その事情とオリンピックがどう関係するんだろうか?


「まあ、オリンピックとは言っても我々の知るものほど世界的規模では

ないんですよ。せいぜい国単位か、何カ国かが参加するって程度でね」

「あ、そうなんですか?」

『なあんだ』

「開催規模がその程度だからこそ、いつでもどこかでやってるんです」

「なるほど…」


国体よりちょっと上、程度のものと考えればいいのだろうか。確かに、

あたしたちが知るオリンピックとはかなりイメージ違いますね。


「そしてこれは、イベントとしての意義が非常に大きいんですよ」

「イベント?…商業的なですか?」

「そのとおり」

『オリンピックの商業化は由々しき問題じゃないかと思うのですが』

「いやいや、それは話が違うよ!」


突然面倒臭くなるなよあいちゃん。それはあたしたちの世界の問題だ!

って、それはさておき。


「じゃあ、どっちかと言うとプロのスポーツみたいなものなんですか」

「まさにそうです。大勢の観客が、お金を払って見に行き盛り上がる。

プロ野球とかJリーグとかと根本は同じですね」

「『へぇーーーー…』」


これまた異世界っぽくないなあ。

娯楽として成立してるなら、それはそれでいいんだろうけど…


「だけどそれって、どういった人が出場するん……」


うん?

ちょっと待って。

この話の流れで考えると…

言葉を切って考え込んだあたしを、社長が黙って見ていた。


あ、そうか!


「さっき言ってた、ずば抜けた力を持つ魔術使いとかが出るんですか。

そういった異能を、エンタメとして提供してるって事なんですね?」

「まさにその通り」


社長、会心のドヤ笑い。


「魔物の脅威も戦争も縁遠い世界において、力を持つ者はそうやって

お金を稼ぐんですよ。我々の知る、プロスポーツ選手のようにね」

「『なるほど―――!』」


すごい納得しました。

確かにそれなら平和的だし、何より食いっぱぐれないのが大きいよね。

魔術イコール戦いみたいな感覚とは根本的に異なる、社会的需要だ。

いやあ、地に足ついてるなあ。


「というわけで、この大会はかなり歴史がありそうなのでね」

「大賢者ラズリが出場してると?」

『え、ホントに!?』

「いや、それはまだ分かりません。調べた限り、かなり高齢ですから」


うーん、そうなのか。

だけど大賢者って言うくらいだし、老練だからこその実力とかあっても

不思議じゃない。期待できるかも。


「じゃあ行きましょう!」

『行きましょう行きましょう!』

「いえ、今日はもう無理ですね」

「え?」


いきなり出ばなを挫くんですか?


「今から言っても今日の分の種目は終わってしまってます。会期はまだ

半分も消化してませんから、明日で十分間に合いますよ」

「あーはい…そうですね」

『じゃあお泊りですか』

「まあ、そうですね」


今日はここまで。また明日。



異世界での出張、初外泊だ!!


================================


「おはようございます」

「…おはようございます」

「体調はいかがですか?」

「すこぶる快調です」


うん、快調です。



テンションはあまり高くないけど。


================================


異世界の宿屋で一拍…などと考えていたのが、遠い過去に思えます。

昨夜あたしが泊まったのは、会社の宿直室でした。慣れ親しんだ社内。

安心感が段違いです。新鮮さも何もないので、爆睡できましたとも。


そう言えばそうだった。

以前、トイレだけ異世界と接続して使った事あったんだった。


トイレとシャワー室、そして今回の宿直室は、どこの異世界に行っても

ドア一枚で「接続」する事が可能。そこだけは現代基準で用を足せる。

このあたりの配慮は、さすが専門の会社という感じで恐れ入ります。


それじゃトイレや宿直室から、直接帰れば早いだろうって?

…残念ながら、そこまでの利便性はないんだよねこのシステム。


どの部屋も入口はひとつしかない。それを異世界と接続しているから、

出入りができるのも異世界だけだ。別の部屋には絶対に移動できない。

ちなみに接続している間、元の世界のその部屋はドアごと消えている。

どっちかと言うと、部屋そのものを異世界に召喚しているに近い感じ。

本当の意味で帰ろうと思えば、あの長いドライブで次元跳躍をしないと

いけないって事なんです。


何でも万能とは行かない。

むやみに刺激を求めるのは、社員としてはあまり褒められませんよね。

って言うか…


「別に宿を取ってもいいですけど、あんまりおススメできませんよ?」

「え?それってどういう意味で…」

「誰が寝たか分からないシーツで、しかもノミやシラミがいる事も」

「すみません宿直室で寝ます」


マッハで要望撤回。

そんな昔のバラエティ番組みたいなロケは嫌だ。まともに寝られる自信

1ミリもありません。ワガママだと言われようと、あたしは現代っ子。

そこまで異世界に思い入れません。


ちなみに、社長は車中泊になった。同じ理由で宿は絶対嫌なんだって。

社員が社長よりいいベッドで…とか言われそうだけど、気にしません。

いいよって言われたんだから遠慮はしません。


そう、あたしは現代っ子なんです。


================================


そんな出勤(?)を経て、競技会が開催されている街へと向かいます。

割と距離はあるらしいけど、そこは我らがてんとう虫の出番ですよね。

のんびりドライブといきましょう。


ちなみにあいちゃんは、自動車形態でも引き続き一体化して動かせる。

元々あたしのスクーターなんだから当然だ。オートドライブですね。

本人もやる気満々。なので、道中の運転を任せる事になった。


しかしあいちゃん、完全に任せるとけっこう運転が荒い。そして雑。

日本の道路は絶対に任せられない。いや、この世界の道路でも危ない。

未舗装の道が多い分、危険度倍増。乗ってるとかなりヒヤヒヤします。

社長の顔も引きつってました。


生け垣をこすった時点で、とうとう社長から運転NGが告げられた。

本人は不本意そうだったけど、正直あたしももう限界でした。

ちびロボに分離したあいちゃんは、大いにふて腐れております。まあ、

こればっかりはしょうがないよね。


さあ、街が見えてきた。


挿絵(By みてみん)


見せてもらおうか、この世界基準のオリンピックとやらを。

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