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ざんねんな魔物

「そのオートマータを置いていけ」


うわぁ、シンプル極まりない要求。社長の読みがズバリ的中ってか。

治安の良さそうな街と思ったけど、やっぱりいるんだなこういう輩は。

交渉の余地はないんだろうか…


「対価はもらえるんでしょうかね」


あら、社長も交渉する気あるんだ。どうなるんだろ、これ。

テンプレだとこういう場合、相手は問答無用で襲ってくるけど…


「こいつでどうだ?」


あれこれ考えてたら、ずっと会話を担当しているリーダー格と思しき

長身の男性が、何かを取り出した。ええー、本当に交渉するんだ意外。

やっぱりこの世界、ひと味違うな。


ポンと投げ渡されたそれを、社長は器用に三本の指でキャッチした。

見ればそれは、結晶化したツノだ。恐らく何かしらの魔獣から切除した

モノだろう。魔源素が凝固した物質だとすれば、そこそこ価値がある。

スバルロボの対価として十分なのかどうかは、サッパリ分からんけど。


「雄のマリドル成体のツノですか」

「よく分かるじゃないか。まあまあでかい個体だぜ。どうだ?」

「そうですねえ…」


社長は、すぐには答えなかった。

代わりに手首を回して、指で掴んだそのツノをくまなく目視で調べる。


体感的に長い、十数秒ののち。


「…ま、今回はお断りしましょう」


そう言い放ち、社長は手にしたそのツノを男にポンと投げ返した。

受け取った男は、特に感情を顔には出さなかった。…交渉決裂ですか。

やっぱり安過ぎたのかな、ツノが…


「時限式の発動術式が組み込まれているツノなど、おっかないですよ」

「へ?」

『え?』


時限式?…何それ?


言葉の意味が分からないあたしたち二人とは対照的に、相手の男たちの

表情が一気に険しくなった。ああ、何かしら思惑が見破られたんだな。

多分、その思惑はこちらの生命さえ脅かすようなものだったんだろう。

空気が険悪になるのが感じられた。



あたしたちは置いてきぼりですが。


================================


「…そこまで見抜いたのは感服だ。敬意を表してチャンスをやる」


社長を睨みながらも、男はもう一度交渉の言葉を口にした。


「おとなしくオートマータを置いて去れ。そうすればツノの発動だけは

しないで済ませてやる。どうだ?」

「しない保証はありますか?」

「あるかよ、そんなもん」


男の言葉で、場の全員が嘲笑した。何だろう、もうダメって気がする。

平和な解決なんてもう、どこにも…


「ま、もう決まってる事なんだよ」


そう言い放ち、男は手にしたツノを指で強くこすった。

と、次の瞬間。


キュイィィィン!!


出し抜けに禍々しい赤い光を放ち、投げられたツノから何かが現れる。

あっという間に形を成したそれは、地球で言うヒヒのような獣だった。

姿勢を低くした態勢で、あたしたち三人の顔をじっと睨みつけている。

ちなみに、額に配されたあのツノは真っ黒に変色していた。


…何だろう。

怖いけど、それ以上に興味深いな。


「社長」

「はい?」

「もしかして、あれがさっき言ったマリドルって魔獣ですか?」

「さすがに鋭いですねえ」


場の緊迫など意にも介さず、社長は嬉しそうに笑った。


「そう。あれは残念獣です」

「は?…残念?」

「切り取られたツノに残されている体細胞情報と残された「念」とを、

魔術で再構築した再生体ですよ」

「はー…」

『へー…』


何だろう、リアクションに困る。

つまり元の体をツノから創り上げた再生魔獣…って事か。何気に凄い。

ツノが黒くなったところから見て、発動は1回きりって事なんだろう。

言わば使い捨てのカプセル怪獣だ。何ともユニークかつ物騒だなあ。


だけど、そのネーミングはどうにかならなかったのだろうか。

残念獣って…



ああ、ホント色々と残念。


================================


とは言え、状況は切迫している。

男がひと声かければ、あの残念獣はほぼ間違いなく襲い掛かってくる。

目撃者もいない今のこの状況では、かなりまずい事になるのではと…


「分かってると思うが、逃げたって無駄だぜ」


うすら笑いを浮かべて男が言った。


「お前がツノを手に取った時点で、こいつは既にお前の臭いを憶えた。

お前を殺すまで、どこまでも追う。それはもう決まってる事だ」


うわあぁ、限りなく陰湿。さっきの「時限式」の話と併せて考えれば、

自動追尾で襲わせるというのはもう確定なんだな。ホントやり口が…


「まあ、そうしないと危ないという事ですよね、あらゆる意味で」

「……何だと?」


え?どういう意味?

煽るような社長のひと言に、相手の男たちは顔を強張らせる。…何で?


「何を言ってやが…」

「今この場で残念獣を解放したら、たぶん見境なしで大暴れでしょう。

制御などできない。自分たちが先に襲われる危険もある。だからこそ、

先に私の臭いをマーキングさせた。それなら、少なくとも逃げる時間は

作れる。私が殺されるまではね」

「『ええっ!?』」


ホント何度目だろう、声が被るの。ってか、そんな雑な状況なの今!?

あのマリドルって、一度動き出せば誰彼かまわず襲うの!?マジで!?

いくら何でも無茶が過ぎる。たとえスバルロボが高価だったとしても、

そこまで危険を冒す価値あるの!?



やっぱり怖いよ、この世界も。


================================


しばしの、重い沈黙ののち。


「…何もかもお見通しですってか。どこまでも気に食わねえジジイだ」


吐き捨てるようにそう言った男が、それまで以上の敵意を向けてくる。

ああ、もう落としどころがないな。たとえロボが手に入らなくとも、

この男はもう止まらない。あくまで冷静な態度の社長を殺すためなら、

ここを血の海にするのも厭わない。悪い意味でキマっちゃってるなぁ。


たぶん、もうこの場は持たない。

あたしも、戦う覚悟を決めないと。

ふと横を見てみれば、あいちゃんも両拳を握り締めてる。やる気だね。

それでこそ闇夜の魔女。こうなればとことんやったろうじゃん。んで…


「まあ、ご自由にどうぞ。」

「……ッ!!」


うわあ、この期に及んでまだ煽るか社長。相手も青筋立ててるよぅ!

いや、よく見れば後ろの方の面々は既に逃げ腰だ。怖いんだろうなあ。

なら、こんな事しなきゃいいのに。もうダメだ、おしまいだ!!


「だったら死ねやクソジジイ!!」


叫び声と共に、呪文らしきひと言が放たれた。



それが、合図だった


らしい。


================================


「………………?」


予想に反して、場は動かなかった。


マリドルも、威嚇の姿勢のまま全く動こうとしなかった。完全な不発。

何かしら起こると思ってたあたしもあいちゃんも、静寂を持て余す。

ええっと、今の状況はどういう…


「何だ。どうして動かねえんだ!」


やっと口を開いたのは、大きく目を見開いた長身の男だった。しかし、

やっぱりマリドルは何ひとつ反応を示さない。ただだたじっとしてる。

あたしはどうすべきなんだろうか。いや、何もするべきじゃないのか?

どうなんですか社ちょ…


「甘いんですよ、術の構築が」


そこで放たれた社長のその言葉は、丁寧ながらも抗えない響きだった。


「ツノの魔術式は上書きしました。もうそのマリドルは、私の命令しか

聞きません。何をしようとね」

「なっ…!」


「『え、マジで?』」


もう声が被るタイミング、そこそこ予想できるようになったよ。

って言うか上書きっていつの間に?


…ひょっとして、投げ渡されてから投げ返すまでの、あの短い時間に?

そんな素振りは見えなかったけど、やったとしたらあの時しかない。


マジっすか社長。

素振りさえも見せずにあの一瞬で、この獰猛そうな残念獣を……

………………………………


ダメだ。

凄いカッコいい場面のはずなのに、ネーミングが全部台無しにしてる。


何なんだよ、残念獣って。



残念が過ぎるってのよ!!

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