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前も後ろも不穏だけど

「おお…」

『壮観ですねー』


思わず見入ってしまう光景だった。

よもや街の中心部で、こんな規模の動物の群れを見る事になるとはね。

ずらっと行儀よく並んでいる様は、文字通りの家畜って感じだけど。

印象としては…


「あれ、牛ですか?」

「マカウという魔獣ですよ」

『「え、魔獣!?」』


声が被るの何回目だろうか。

しかし、こんな街中に魔獣がこんなたくさんいていいのだろうか!?

あたしの動揺を察したのか、社長は小さく肩をすくめて笑った。


「大丈夫ですよ。魔獣というのは、ツノさえ落とせば無害化できます。

まあ、例外もいますけどね」

「ツノを落とす?」


そんな奈良公園の鹿みたいな処置でどうにかなるの?


鉄柵越しにしげしげと見てみれば、なるほど確かにツノの跡が見える。

この世界の魔獣って、こんな簡単な処置ひとつでおとなしくなるんだ…


『じゃ、こんな風に無力化してからまとめて殺処分するんですか?』

「いえいえとんでもない。これらは家畜として重宝されてるんですよ」

「え、家畜?」


じゃ本当に牛みたいな存在なの!?


「魔獣は、体内で魔源素と呼ばれるエネルギーを常に生成しています。

それがツノとして凝結するんです。しかしこのツノを落としてしまえば

魔源素は体外へと排出されるようになるんです。それを搾取する事で、

魔源素を安定したエネルギーとして得る事ができるって仕組みですよ」

「搾取って…どうやってですか?」

「あ、あそこでやってますよホラ。見えます?」

「『え?えーっと…』」


並んで伸び上がって目を凝らす。

確かに小屋みたいな建物の前で何かやってる。あれはつまり……

………………


『牛の乳しぼりと似てますね』

「まるっきりアレですね」

「やっぱりそう見えますよねえ」


社長が可笑しそうに笑い、つられてあたしたちも笑ってしまった。

第一印象の通り、マカウってまさにこの世界における牛だったらしい。

いやあ、こんな異世界もあるんだと目からウロコです。それにしても、

何でも知ってるんだなぁ社長って。


わいわい騒いでいるあたしたちは、気付いていなかった。



何だかよく分からない連中が、後をつけてきているという事に。


================================


しばらく歩くうちに、少し人通りが少ない区画まで来ていたらしい。

左右の石壁が高く、反して道の幅が狭くなってきてる。文字通り路地。

どうしてまたこんな場所を…


と、その刹那。


『社長』


しんがりを務めるあいちゃんから、小声で通達があった。


「はい?」

『後ろからついて来る人がいます。全員男性で、人数は4人です』

「え?」

「振り向かないで丑三ツさん」

「あっ、はい」


反射的に振り返ろうとしたあたしに向けて、社長の鋭い声が飛んだ。

何だ何だ、緊急事態かしら!?


「やっぱり食いついてきましたね」

「へ?」

「彼らの目的は友永さんでしょう」

『え?あたしですか?』


驚きの声を上げて、前かがみになるあいちゃん。もといスバルロボ。

チラッと視線だけ背後に向けると、確かに来てるよ4人の男。もはや、

尾行を隠す気もあまりないらしい。明らかにあいちゃんの背を見てる。


「ま、そこそこ目立ちますからね」

「……」


あたしは返す言葉に窮した。多分、あいちゃんも同じだろう。


これだけあちこち歩けば、さすがに察する。いくらオートマータという

存在が一般的になってるとしても、スバルロボのデザインは先駆的だ。

総合性能も段違いなんだろう。で、欲しがる輩も湧いてくるって話か。

要するに、あいちゃんという存在をエサに使った、という事になる。


そんな事が許されるのだろうか。

社長だからこそ許されているのか。こんな見知らぬ異世界で…


「ちょっと待てよ、お前ら」


葛藤に答えが出る間もなく、そんな言葉が背後から投げかけられた。

考えるまでもない、あの4人組だ。いよいよ人通りがなくなってきた。

格好のチャンスと思ったんだろう。見回せば、本当に誰もいないよ。

少し広くなってはいるけど、四方を壁に囲まれた完全な街の死角だ。

どうしてこんな事に?


ほどなく、社長は足を止めた。

やむなくあたしたちも足を止める。と同時に、前方からも別の4人組が

現れたのが見えた。うそ挟み撃ち?完全に狙われてたって事じゃん!


「丑三ツさん、友永さん」

「『はい』」

「説明不足で申し訳ありません」

「……まあ、そうですね」

「ですが、これも必要な事ですのでご了承ください」

「了解です」


即答した。

どういう訳か、疑念の気持ちも既にほぼ消えていた。

おそらくあいちゃんも同じだろう。何となく感じていた不安の気配が、

いつの間にか消えていたから。


そうだ。

安っぽい疑念で目を曇らせる前に、そもそもの大前提を思い出せ。

隣に立っているこの人は、転生管理会社TKKの社長だ。そしてあの、

柳橋さんの上司でもある人なんだ。見た目で判断できるはずがない。

転生の女神直々に依頼された件で、無意味な事をするワケがないんだ。

スバルロボが仕込みだったのなら、この状況はむしろ前進なんだろう。

まだまだ新人研修気分のあたしたち二人が、とやかく言う時じゃない。


だからこそ、ひとつだけ確認だ。


「万が一の時は、あたしなりに本気出して対処してもいいですか?」

「ええ、もちろんですよ」


若干不敵な言い方になったあたしの質問に、社長は嬉しそうに笑う。

何だかんだ言って、やっぱりどこか柳橋さんに通じるなあ、ホントに。


「ですが、今はまず私にお任せを」

「『お任せします』」


予想通り、また被ったよ即答が。


さあて、今のこの状況はどのくらいヤバいのか。または好都合なのか。

いささか不謹慎だけど、ほんの少しワクワクしながら心中で呟きます。



まずは社長のお手並み拝見だ。

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