ロボットはアリかナシか
「…単調ですね、やっぱり」
「でしょうねえ」
覚悟したよりは若干広かった車内。おなじみ次元跳躍の道に入る。
前回の玉見さんの時と同様、単調なグレーの壁が延々と続いている道。
はっきり言って退屈です、今回も。
「まあ、誰もいませんからね」
「え?」
「どんな世界であれ、人がいるからどんどん複雑になっていくんです。
次元跳躍の道なんて、せいぜい数回通る程度です。そんな空間ならば、
適当なのは当然ですよ」
「なるほど」
『そうですよねー』
身もフタもないけど、納得した。
確かにそうだね。特定の世界同士を繋ぐ道なんて、存在している事自体
おかしいんだから。贅沢を言うのはやめましょう。
「そろそろ着きますよ」
「『はあい!』」
あたしとあいちゃんの声が被った。同時に、目の前にトンネルの出口を
思わせる丸い光が見えてくる。
さあ、どんな世界なんだろう。
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『いいお天気ですねー』
「ねー」
思わず深呼吸したくなる青空。
どこの異世界も、緑の豊かさと空の蒼さは変わらない気がするなあ。
くねくねと続く道の向こうに見えるのは、かなり大きな城塞都市だ。
「あそこへ行くんですか?」
「………………」
「社長?」
「え?…あ、はいそうです。まずはあの街で情報収集をしましょう」
珍しく物思いにふけっていたらしい社長が、街を見やりながら答えた。
何だろ、来た事あるのかなここに。話の流れでそうは思えないけど…
『で、どうするんですかこの車?』
屋根の上で器用に逆立ちしながら、あいちゃんロボが疑問を口にする。
うん、あたしも同じ事を訊きたい。前のトラックより若干マシだけど、
やはりこの中世ファンタジー世界にスバル360は違和感バリバリだ。
けっこう開けた場所だし、このまま置いとくと目立ってしまうだろう。
かと言って、乗り入れるってのは…
「大丈夫、一緒に連れて行きます」
「へ?」
『連れて行くって…?』
「まあ見てて下さいって」
あ、ドヤ顔。そして取り出される、おなじみ社用のスマホ。嫌な予感…
ピコン!
『ぅわッ!?』
ガシャガシャガシャガシャン!!
何かしらのアプリの起動と同時に、スバル360は変形を始めていた。
さっきガレージで見たあいちゃんの変形とほぼ同じイメージだけど、
やっぱり大きいと迫力が違います。屋根の上にいたあいちゃん、危うく
巻き込まれそうになり跳び下りた。
ほどなくスバル360は変形完了。…トランスフォームっていう形容は
いろんな意味でマズいんだろうな。うん、やめておこう。
しかし、ハッキリ言って物理法則を無視した変形だ。細すぎるって!!
2m超えのロボ巨人になったけど、タイヤとかどこ行ったんですか!?
いや、そもそも…!
『わーカッコいい!』
「でしょう?苦労したんですよ!」
また盛り上がってるよ、この二人。
「あの社長、もしかしてこれを…」
「ええ、同伴させます。これならば目立ちませんから」
ホントかよ、おい。
確かにスバル360よりはアレかも知れないけど、それでも見た感じは
まるっきりロボットだ。こんなのが街を闊歩したら大騒ぎになる気が…
「ちなみに、友永さん」
『はい?』
「このままでも自律行動できる設計ですが、乗って運転もできますよ。
もちろん、サイズ的にあなた限定という事になるんですが。いかがで」
『乗ります!!』
食い気味に即答するあいちゃん。
いや本気ですか!?
口を挟む間もあればこそ、背中側の一部分がパカッと開くのが見えた。
躊躇なく中に飛び込むあいちゃん、とことんまで怖いもの知らずです。
さすがは元・闇夜の魔女ですね。
体感的にかなり長い、数秒ののち。
ギュイン!!
何だかヤバい感じで両目のライトが発光し、ロボは唐突に動き出した。
『わー凄い凄い、視点が高ぁい!』
うん、まぎれもなくあいちゃんだ。さっきまでとおんなじ動きだもの。
大きくなった分、可愛げがなくなり違和感が凄まじいけど。
「どうですか?」
『運転っていうより一体化ですね。すっごい思い通りに動きます!』
「おお、期待以上ですねそれは」
「あのう」
「はい?」
盛り上がってるとこ悪いんですが、本当に大丈夫なのソレ?
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と言うわけで、いよいよ城塞都市に入る。賑わってるなあホントに。
もうここまで来たらヤケクソだよ。「心配ありません」って説明だけで
押し切ったのは社長なんですから、しっかり責任も背負ってもらおう。
あたし知らない。
特に怪しまれる事もなく、どデカい城門をくぐる。いや怪しまないの?
このガッシャンガッシャン歩いてるひょろ長いロボットを!?
城門の影を抜けると、パッと視界が開ける。おお、凄い賑わってる!
「…あれ?」
「どうですか、丑三ツさん?」
「いますね…似たようなのが…」
『ホントだー』
確かにいる。街往く人たちの中に、明らかにロボットと思しき何かが。
どれもレトロな雰囲気満点だけど、間違いなく人工的な人型の何かだ。
デザインも質感も、実に多種多様。何より、誰も異物とは見ていない。
ごくごく自然に存在している感じ。
何だか見覚えのあるビジュアルだなと思ったら、不意に腑に落ちた。
あれだあれ、スターウォーズ。あの劇中に登場する異星の街の光景から
異星人だけ省いたら、こんな感じになるんじゃないだろうか。
「なるほどスターウォーズですか。言い得て妙ですね」
思うままを口にしてみたら、社長もいたくピンと来たみたいだ。
認めるのはちょっと抵抗あるけど、嗜好が似てるのかも知れないなあ。
「この世界には魔術が存在します。それも神から与えられるスキルとか
そういった類ではなく、科学以上に体系的に魔術が発展したんですよ」
「ああ、なるほど…」
言われるとあっさり納得できる。
「つまり、この世界の魔術は原則、全ての人が使えるって事ですね」
「そうです。もちろん程度の違いは大いにありますが、魔術でなくとも
それは当然の話ですからね」
「ですよね」
ある種の技能や知識、技術なのだと考えれば、習熟度に差が生じるのは
当たり前だ。物心ついた時から学ぶものならば、怪しくも何ともない。
地に足のついたファンタジー世界…という形容はいささか失礼かなあ。
「まあ、そんな具合ですからね」
言いつつ、社長は背後に佇んでいるスバルあいちゃんに視線を向けた。
「こういったオートマタ―…ロボが同伴しているのは不思議じゃない。
堂々としてればいいですよ」
「そうみたいですね」
『なんか楽しいですね!』
百聞は一見に如かずというやつだ。目の前の光景の説得力は抜群です。
って言うか、実にあたし好みかも。ファンタジーの中に混じるSF味。
こういう世界での仕事なら大歓迎…
………………
ん?
「あの、社長」
「はい?」
「この世界って初めてですよね?」
「ええ。リプネリスさんから連絡をもらって初めて認識した世界です」
「………」
何だろう、ちょっと違和感がある。
「それが何か?」
「いえ、そのう…」
口ごもりながらその顔を見た瞬間、違和感の正体に思い当たった。
思い当たれば、迷わず口にします。
「何だか具体的にお詳しいですね、初めて来た世界なのに」
『あー、そう言えばそうかも』
あいちゃんも顔を向けて同調する。相変わらず声と姿にギャップが…
『この姿、うってつけですよね』
「ハハハ、確かにそうですねえ」
何だか少し詰問口調になったけど、社長は特に怒る風もなく笑った。
…別に思惑はなさそうなんだけど、ちょっと引っかかるのは確かだ。
社用車がロボットに変形するくらい今さら驚かないけど、それにしても
今回に限ればあまりに都合がいい。電話があったのはついさっきだから
受けてから改造したって事もない。最初から分かってたとしか思えない
用意周到さだ。ご都合展開なんて、そんな言葉はあまり使いたくない。
だからこそ納得が欲しいと…
「まあ、少々心当たりがあったのは事実です。この世界にと言うより、
こういう世界にね」
「似た世界を知っていると?」
「そんなところですね。正直な話、今回はそういった意味でも来るのが
楽しみだったんですよ。久し振りにロボ形態を運用できるとね!」
「『へえー…』」
またもあいちゃんと声が被った。
「今は、それでいいですか?」
「はい」
即答。
もちろん、分からない事はまだまだある。だけど今はお仕事の最中だ。
難しい案件らしいから、とりあえず諸々の疑問は後にしましょう。
社長なら、話すべき時にはちゃんと話してくれるだろうから。
「では行きましょうか」
「『了解!』」
声だけでなく、敬礼まで揃ったよ。ついでに言うと、見慣れてきたよ。
我ながら順応性が高いなあホント。
さあ、お仕事!




