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社用車それぞれ

勇んで出発の気勢を上げたものの、そこではたと我に返った。


現在、柳橋さんと玉見さんが他所の世界の仕事に赴いている最中だ。

おなじみ転生トラックでの遠征で、当然の如くトラックが会社に無い。

…まさかあいちゃん号で次元跳躍をする訳でもないだろうし、いったい

どうやって行くつもりなんだろ?


「ああ、足が無いと思ってますね」

「ええ、そうです」


あたしって本当に顔に出るんだな。ことごとく読まれてしまいます。

でもまあ、いちいち質問する手間が省けたと思っとこう。


「どうするんですか?」

「ちゃあんとあるんですよ、現在の主力より前に使ってた社用車がね」

「あれ、そうだったんですか」


全然知らなかった。普段ガレージをしっかり見たりしないからかなぁ。

そんなに広いわけでもないけど…。


ああだこうだ言ってても仕方ない。とにかくガレージに下ります。

疑問は尽きないけど、不安はない。むしろワクワクしてます。



あたしも子供だなあ、まだまだ。


================================


と言うわけで、1階ガレージです。味気なさが何ともこの会社っぽい。


『あ、おつかれさまでーす!』


トトトト…と走り寄ってきたのは、他でもないあたしのスクーターだ。

無人で走る様子が異様なんだけど、聞けばこういう機能搭載のバイクは

既にあるんだそうな。あたしも割ともの知らずだなぁ。勉強になるよ。

…まあ、さすがに完全な「自我」を搭載したバイクは無いと思いたい。

いや、あるかなあ…


『智華ちゃん、お出かけ?』

「ええ。ちょっと社長と出張に…」


言いながら、今さらすんごい不安になった。中年社長と若い女性社員。

この組み合わせで出張って、本当にいいんだろうかと。いや、あたしに

「そういう魅力」があるかどうかは議論の余地があるけど、それでも…


「友永さんも同行願いますね」

『え、あたしも行っていいんですか今回は?』

「ええ。これも新人研修ですよ」

『わー、なんか楽しみ!』


あれっ。

悶々と考えてるあたしそっちのけで話が進んでる。何だこの空回りは。

…すみません、自意識過剰も程々にしろって話ですね。お恥ずかしい。

では、気を取り直して。


「それで、どんな車が?」

「はいはい、今出しますから」


何となく嬉しそうに見える社長が、いそいそと壁際にある赤いボタンに

歩み寄る。何だろう、秘密基地感が妙に強まってきたというか…


「危ないから動かないように」

「え?あ。はい」


ポチッとな。


ガコン!

何とも機械的な音が足元から響き、目の前の床部分が四角く沈んだ。

横にスライドすると同時に、大きな穴がぽっかり空く。これ凄い!!

…凄いけど、ここから出てくるならちょっと小さくないですか、穴。

いつものトラックなら絶対入らな…


ヴイイイィィィィィン!!


などと不安を口にする間さえなく、地下から何かがせり上がってくる。


『わー凄い凄いサンダーバード!』


隣でやけに興奮するあいちゃん号。いや例えが古すぎるじゃんよ。

まあカッコいいのは事実だけども、いかんせんサイズに不安が…

………………


ほどなく、せり上がってきたそれは全容を表した。床面上昇が完了し、

リフトギミックも自動で停止する。何もなかった無機質な床に、1台の

自動車が出現していた。全体的に、あいちゃん号やトラックとほぼ同じ

アイボリーカラーの塗装が施されたその姿は…


…そのう…


「あの、社長」

「はい?」


「これ確か…てんとう虫ですよね」

「愛称をご存知とは、さすがですね丑三ツさん。博識に感服ですよ」

「いえあの…」


褒められても嬉しくないなあ全然。


「その通り。てんとう虫の名で広く親しまれた、スバル360です」


挿絵(By みてみん)


社長、ちょっとドヤ顔。

何をドヤってるのか分かりません。


『わーカワイイ車!』

「でしょ?このデザインがいい!」

「いや、そのう…」


盛り上がってるところを申し訳ないけど、ちょっと言わせて下さい!


「何でまたこんな古い車を?」

「クラシックカーと言って下さい」

「クラシックでもレトロでも何でもいいですが、とにかくどうして?」


質問せずにはいられませんってば。

そんなに車に詳しいって訳じゃないけど、少なくともこのスバルって、

社長の世代から見ても明らかに古い車種だったはずだ。…って言うか、

日本のモータリゼーションの黎明を支えたってくらい古い車じゃん。

ものすごい昔の特撮番組なんかに、ちょくちょく出てたと思うけど…


「こういうの、好きなんですよ」


ドヤ顔から苦笑に切替えた社長が、ボンネットに手を触れつつ言った。


「車でも家電でも、例外なくいつか必ず古くなります。だったらもう、

開き直って好きなデザインのものを使いたいと思ったんですよ。まあ、

どのみち非常識な機能を搭載させるのは確定ですからね」

「ああ…まあそうですよね」


そうだった忘れてた。

トラックにせよあいちゃん号にせよ「非常識な機能」がデフォルトだ。

どうせなら半端な最新型より、己がいいと思うモノ選びたいって話ね。

言われてみればまあ、納得かと…


「正直に言うと、もう少し違うのが希望だったんですけどね」

「え?これ以外で、どんなのを…」

「アストンマーチンDB5とか」

「007かい!」

「あとはプジョー403とか」

「刑事コロンボかい!」

『わー智華ちゃん物知りー!!』


あいちゃん号のライトが、能天気にパカパカ点滅して眩しい。

ますます褒められても嬉しくない!


ボケかツッコミかと訊かれた面接の意味を、またここで再確認した。



本当に大丈夫だろうか、この社長。


================================


とにかく、もう一回気を取り直す。

もう社長の好みは呑み込むとして、新たなる大きな疑問がまた生じた。


トラックとかワンボックスとかならともかく、こんな小さな軽自動車に

スクーターが積み込めるわけない。物理法則を無視するつもりなのか。

もはや確信できる。今あたしの顔、めっちゃ疑念が浮かんでるはずだ。


「うん、ですよねぇ。丑三ツさんの言いたい事は分かってます」


やっぱり苦笑を浮かべてそう言った社長が、視線をあいちゃん号の方に

向けて告げる。


「友永さん」

『はい』

「機能は把握されてますか?」

『もちろんですよ』


意味深口調で言ったあいちゃんは、軽くハンドルを左右に振った。


『何せ普段、ヒマなもんですから』

「はは、そうでしょうね」


愉快そうに笑う社長。いや、何です機能の把握って?あたし知らない…


「じゃあ、そっちの形態に」

『わっかりました!』


えっ何?ちょっと怖いんですけど!

などと思う間もあればこそ。


ガシャガシャガシャガシャン!


その場で分解、いや変形を開始したあいちゃん号がみるみる「縮む」。

どういう構造なんだとツッコミたくなる謎変形で、あっという間に…


『はーい、完成!!』


挿絵(By みてみん)


ガシュン!


軽快に飛び跳ねるその小さな姿は、まぎれもなくロボットだ。しかも、

見た感じめっちゃ軽そう。


…うん。

こっちはこっちでちゃんと非常識。

まともな常識で悩むの、馬鹿らしくなってきた気がする。て言うか損。


「んじゃ行きましょうか!」


やけくそ気味の言葉が、思いのほか明るい響きだったのが嬉しいね。

スバルのてんとう虫?

スクーターロボット?



いいよ、ドンと来いだよ。

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