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ケルベロスの迷宮

「…これをお一人で?」

「ええ、まあ…ハイ」


…あたし、何かやっちゃいました?


冒険者ギルド受付の女性の表情に、否応なしにそんなテンプレセリフを

想起してしまう。ゴブリン10体を一人で討伐って、そんなに不自然な

戦果だったのかしら。…こないだのロックサイクロプスと比較すると、

かなり雑魚だと思ったんだけど…



難しいなあ、ホントに。


================================


「…まあ、鮮度からして、誰かから買い受けたのではなさそうですね」


骸の状態をチェックしつつ、受付の女性はそんな事を言った。


「そもそもこれらの個体、けっこう難度の高いハイゴブリンですよね。

どうすればここまで原形を維持して絶命させられるんです?」

「それはまあ…威力を絞って。」


レーザービームと言ったところで、理解してくれるわけがない。

そもそもあれとて、本来の意味でのレーザービームじゃないだろうし。


「ハイゴブリンだと?」

「おお、スゲェな。こいつら全部を嬢ちゃんが倒したってのか?」


もたもたしてる間に、背後に大勢の荒くれ冒険者さんが集まっている。

感心半分疑念半分といった視線が、否応なしにあたしの背に注がれる。

…何だろうか、この謎の罪悪感は。


「一体どうやったんだよ。ちょっと見せてくんねえか嬢ちゃん?」

「ああそうだ。ぜひ見せてくれ!」


わぁ勝手に盛り上がらないでよぅ。こんな形で目立ちたくないよぅ…

手続きとしては問題なさそうだったのに、受付さんまで目で「やれ」と

圧をかけてきてる。何だこの窮状。あたしが何をしたってんですか?

…いかん、ちょっと腹立ってきた。


「ちょっと小さな穴開けますね」

「は?」


バシュバシュバシュン!!


受付さんの返答を待たず、横一列に並べられたゴブリンの骸を目掛けて

なんちゃってレーザーをぶち込む。唐突な暴挙に、周りにいた冒険者が

ヒッと声を上げて後ずさった。


一瞬の閃光と、小さく穿たれた孔。そしてそこから微かに立ち上る煙。

百聞は一見に如かず。みな等しく、知りたい事を知って黙り込んだよ。

これぞSSランク。



どうだ、恐れ入ったか。


================================


「スゲェな…」


予想通り、床まで穴が貫通してた。何人かが興味深げに見てます。


「あんな凄腕、いたっけか?」

「聞いた事もねえな」

「まさか、闇夜の魔女とかじゃ…」


「え?」

「あ、いや何でもねえ!」


思わず向き直ったあたしに、会話をしていた数人の男性たちは慌てた。


「闇夜の魔女って…」

「すまんすまん!冗談だよ、冗談!それほど凄腕だってだけだ!!」

「……そうですか。」


いちいちリアクションに困るけど、あんまり食い下がるのはよそう。

変なヤブヘビになったら困るし。


「闇夜の魔女」という謎ワードは、召喚された時にも耳に挟んでいた。

そもそも聖女の召喚は、その魔女を倒すために行われたはずだ。なら、

この世界を脅かす存在なんだろう。正直、今のあたしの手に負えるとは

とても思えないし関わる気もない。まあ、興味ないとは言わないけど。

もしあの子が戦う事になるのなら、健闘を祈るばかりですね。


うん。


================================


「ご確認ください」

「はい。…確かに」


ようやく討伐の報酬が受け取れた。きっちり金額も確認します。OLは

こういうところキチッとするのだ。これにて冒険者の仕事は終わり。

後はご当地グルメをちょっと…


「あの、ウシミツさん」

「はい?何でしょう」

「あなたの腕を見込んで、もう少し稼げるお仕事を紹介したいなと」

「え?」


稼げるお仕事って…

うん、聞くだけ聞いてみましょう。


何事も経験だ。


================================


「トレジャーハントって…つまり、お宝を取ってくるって事ですか」

「そうです。よくご存じで」


いや言葉の意味はすぐ分かるけど。それが魔物の退治より割がいいの?


「ご経験はありませんか?」

「ええ、なにぶん日が浅くって」


浅いというか、まだ数時間ですし。知らない事だらけの世界ですしね。


「公示はしてないんですが、実際は広く知られています。と言っても、

半端な実力の人に斡旋しないという不文律があるものですから」

「ああ、なるほど。…じゃ聞くだけ聞きます」

「こちらになります」


そう言いつつ受付さんが差し出した書類に、黒々と書かれていた表題。


『ケルベロス迷宮の手引』


………………………………

…うん、ケルベロスという名前も、この世界には存在してるんですね。



ファンタジーは世界を超えるのか。不思議だなあ。


================================

================================


そんなわけで、やって来ました。

つくづく展開が速い。何と言ってもタイムアタックだから。場所的にも

けっこう近かったし、まあ行くだけ行ってみようって事で請け負った。


トレジャーハントってのは、地下のダンジョンに眠る「異界の財宝」を

集めてくるお仕事らしい。いわゆる魔物討伐とは、全く異質な内容だ。

途中で魔物と遭遇するリスクもあるらしいけど、それよりも問題なのは

ダンジョン自体が複雑怪奇な構造になっている点。下手に深い地点まで

行ってしまうと、帰り道を見失って力尽きる。とにかく謎の多い場所で

出現する魔物も非常に特殊らしい。…もしかして、異世界の異世界か?


「いかがでしょうか」

「達成ノルマは無いんですよね?」

「ええ、完全な歩合制ですので」

「んじゃ、ちょっと行ってみます」


割と軽いノリで承諾しました。まあ深入りする気は無いし、よっぽどの

強敵でもない限り負ける事はない。だったら社会勉強も兼ねて行こう。

せっかくの機会なんだし。


もちろんソロだ。誰もついて来ないよう、床に孔を穿って言い含めた。

皆、縮み上がって散っていったよ。何か染まってきたなあ、あたし。



てなわけで、現在に至る。


================================


入口は狭かったけど、ほどなくして大きな空間に出た。地下なんだけど

ほのかに壁のあちこちが光を放っているらしく、それなりに見渡せる。

ここがケルベロスダンジョンか。


「………………」


何だろう。

見渡して感じるのは、怖れとかではなく純粋な「違和感」だ。何だか、

空間の構成が非常にいびつである。


天井が高いのは見て分かる。だけどその下の空間が、しっくりこない。

何と言うか、屋外空間を想起させるような構造になっているのである。

例えて言うなら…ええっと…何だ…


「映画のセットだ」


そう口に出した途端、腑に落ちた。ちょっとだけ声が反響している。


そうだ。屋外を表現した、大規模なセットみたいな印象なんだここは。

本来なら空が広がってそうな空間の上が、デコボコの岩肌になってる。

どうしてこんな不自然な空間が…?


まあいいや。

とりあえず今は、トレジャーハントとやらに挑戦してみる。目の前には

緩やかな坂がずうっと下に向かって伸びている。さすがに坂の下までは

見通せないし、坂全体が徐々に右にカーブしてるから余計に見えない。

まあ道幅(?)はけっこう広いし、なだらかだから歩くに苦労はない。

まずはゆっくり下ってみましょう。我ながら肝が据わってるなあ。


いざ、お宝を目指してGO!


================================


「………………」


黙々と歩く。

坂は実に緩やかで、ハッキリ言って歩く人にとっても優しい感じだ。

道なき道を突き進むお宝探しとは、どうにもイメージが合いません。


何なんだ、この拭えない違和感は。

恐怖じゃない。不安でもない。まあ強いて言うなら、困惑だろうか。

間違いなく危険な場所に向かってる肌感が強まる一方、歩けば歩くほど

妙なデジャヴみたいなものが湧く。…あたし、ここに来た事がある?


そんな馬鹿な。いくら何でもそれは飛躍し過ぎている。つい数時間前に

召喚された世界に、どんな見覚えがあるって言うんだ。おかしいって!

いや、それでもあるんだ既視感が。どうしても否定できない既視感が!


予感がある。

この坂を下りきった先に、あたしの困惑に対する答えが待ってる予感。

そして分かる。もう少し行ったら、この下り坂が終わるという事も。


もう少しで…



ほら、予想通りだった。


================================


そこは、さらに開けた空間だった。地下とは思えないほどの開放感だ。

放射状に何本かの道が伸びており、その1本が下ってきた坂だった。

どの道も広い。とにかく広い空間。たった一人でいる事の違和感よ。


ここは…


ドオォォォォォォォォン!!


考える前に、鈍い音が響いた。

目の前の空間の一部が大きく崩れ、そこから巨大な「何か」が現れる。


四つ足の獣だ。つまりケルベロス?いや、頭はひとつしかないけど…

いや、そもそも生物じゃないのか。金属か岩か、とにかくそんな質感の

ゴーレムか何かだ。あの時に戦ったロックサイクロプスは岩の肌を持つ

怪物だったけど、これは「違う」。生物的な存在感を放っていない。

何かしらの力によって動いている、巨大な作りものの獣だ。


ケルベロスと形容するのは、かなり無理がある。元の世界基準だけど。

両目を赤くを光らせつつ、あたしをじっと睥睨している。何と言うか、

歓迎されてないのは肌で感じます。…つまり、お宝の番犬なのかしら?

ここまで来た以上、逃走って選択はない。まずはとにかく戦ってみる。

でないと、先には進めないだろう。


断じてお宝が欲しいわけじゃない。そうじゃない。あたしが欲しいのは

違和感に対する納得だ。おそらく、目の前のケルベロスが答えに繋がる

何かを持っているはずだ。


よおし。



魔術師ウシミツ、推して参る!!

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