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ジャンル違いの召喚

休日のお出かけは楽しい。


ブラック企業勤めの頃は、そういう楽しみを感じる心すら削れていた。

仕事に不満などない今だからこそ、休日も当たり前に楽しめている。

と言っても、そんな大した外出じゃない。海沿いの街を散策するだけ。

電車とバスとを適当に乗り継いで、それほど風光明媚でもない海沿いを

のんびり歩く。これが楽しいんだ。地味と言われようと、これが好き。


だけど最近、ちょっと新たな望みも生まれてきたように思う。

せっかく免許を取ってるんだから、こういう海沿いの道をスクーターで

走ってみたいと。お給金もいいし、次の休みに見に行ってみようかな。

アイボリーの小さなスクーターで、晴れた海沿いを走る。…いいなあ。

大いに検討の価値ありだ!


………………


と考えていたのは、わずか数分前。

もはや永劫とも思える過去の話だ。


今のあたしがいるのは

おそらく、召喚の間。

足元の魔法陣は、消失しつつある。



いや何でやねん。


================================


だけどもう、取り乱したりしない。

今の会社に勤めている身としては、この程度でテンパったら恥です。

と言うか、状況自体はテンプレだ。


豪奢な石造りの大広間。足元には、直径数mの魔法陣が展開していた。

もう消えかけてるけど、ついさっき足元に現出していたモノと同じだ。

異世界の相手を召喚するための代物だという事は、すぐに察した。


そして目の前の玉座っぽい席には、いかにもな風体の王と王女がいる。

グルっと周りを取り囲んでいるのはおそらく、召喚士と呼ぶべき人々。

みんな、怪訝そうな目で見ている。このあたしと、その傍らを交互に。


うん、見る前にあらかた察したよ。

ある程度の確信を持って、あたしは自分のすぐ隣に視線を向けた。


ドンピシャだ。


絵に描いたような金髪の美少女が、同じくこっちを見返している。

実に地味なあたしと比べ、明らかに見栄えする年下の日本人少女だ。

同じ魔法陣の上に並んで座ってる、という事は…


「どういう訳だ」


王様っぽい人が困惑の声を上げる。言葉が分かるのもテンプレかな。


「闇夜の魔女と戦う聖女が、まさか二人もいるというのか…!?」


ああ、やっぱり。



これ、聖女召喚だ。


================================


チラと見て、再び確信を抱いた。

あたしは当然として、隣の女の子も状況をそこそこ理解してるらしい。

そういうラノベなり何なりを読んだ経験があるのか、納得の表情。

これをテンプレと理解してるなら、この後の展開も読めているだろう。

あたしと同じように。


「どちらかはまがい物でしょう」


王女っぽい人が、迷いなく言った。困惑していた王様も周りの連中も、

そのひと言に納得する。と同時に、敵意に満ちた視線が一斉に向いた。

そう、このあたしに。


いやちょっと待ってよ。

確かにあたしの方が地味だけれど、それだけで決めつけるのはどうよ。

結果は分かってるけど、だからって失礼が過ぎませんかあなたたち。

まあ仕方ないか。見た目ってのは、全てに優先される判断基準だし。

たぶん、結果も決まり切ってるし。



別にいいんだけどさ、あたしは。


================================


その後も、雑に予想通りだった。


何やら「聖なる力」の測定ができる宝珠ってのが用意され、問答無用で

測定。金髪美少女は溢れんばかりの力を内包しており、あたしはゼロ。


「汚らわしいまがい物めがアァ!」


青筋立てる王様の命令で、あたしはそのまま城から追い出されました。

手厚い歓待を受ける金髪美少女が、あたしを見てクスッと笑ってたよ。

そんなディテールまでがテンプレに忠実だと、もう怒りすら湧かない。

というわけで、見知らぬ異世界にてポツンと独りぼっち。

勝手に拉致っといてこれなのかと、怒りより嘆きの方が心を満たした。



さて、一体どうすればいいんだろ。


================================


雑に放り出されて、逆に助かった。持ち物をあらためられたりする事も

なかったし、乱暴もされなかった。まあこれは僥倖だと思っておこう。

とにかくスマホが無事だったから。


あたしは今、社用と私用のスマホを統合している。別でもいいんだけど

使い分けるの煩わしいし、そもそもあまりスマホを弄る性分じゃない。

社用スマホはある種のオーパーツと呼ぶべき代物だし、こっちメインで

全然かまわないと思ったからです。結果的に、大正解の選択だったよ。


とりあえず、アンテナを確認する。…おお、かろうじて立ってますね。

このまま電話をすれば、柳橋さんのスマホに多分繋がるだろう。


だけど、ちょっと待て。この場合、連絡するのはかなりの悪手である。


以前に説明を受けたけど、異世界と通話すると凄い勢いでバッテリーが

消耗する。わずか数分で力尽きると言われたっけ。通常の使用であれば

1か月は持つというこのスマホが、本当にすぐバッテリー切れになる。


だとすれば、今の時点で電話すれば状況は悪化する。ぶっちゃけこれは

あたしの命綱だ。今、この異世界を正確に説明できない以上、おそらく

無意味な会話と引き換えにリスクを呼び込んでしまうだろう。



…よし、落ち着けあたし。


================================


深呼吸して、まずはアプリを起動。

コレは、いわゆるGPSに相当する発信機能だ。自分がどこにいるか、

世界を超越して信号を送り続ける。これなら消費エネルギー量は低い。

前に聞いた説明では、発信だけなら2ヶ月くらいは維持できるらしい。

とりあえず、今はこれだけでいい。


次に、腕時計で時間を確認する。

召喚されてから追い出されるまで、せいぜい30分前後しかなかった。

今は元の世界時間で、午後1時半。つまり召喚されたのは午後1時だと

考える。明日は月曜日。もちろん、バリバリの出勤日だ。始業の時刻が

午前9時だから、約20時間後って事になる。無断欠勤すれば、確実に

柳橋さんが電話をしてくるはずだ。向こうからの通話ならバッテリーの

残量は気にしなくていい。とにかく受信さえ出来れば何とかなるはず。

今からおよそ20時間、この世界でどうにか凌げば活路は見出せる。


最後に、もうひとつアプリを起動。

今さら言うまでもないけど、これはロックサイクロプス世界で取得した

SSランクの魔術師モードである。とりあえず人目のない所に移動し、

一瞬でお着替え変身を完了します。…よおし、ひとまずこれで行こう。


召喚術が存在する世界なんだから、中世ファンタジー系だと想定しても

差し支えないだろう。正直言って、会社で請け負う異世界とはちょっと

ジャンルが違っている。でもまあ、やる事はそう変わらないはずだ。

「大体の世界で最強ですよ」という玉見さんの見解を信じるしかない。


もちろん、これで無茶な大暴れなどする気は微塵もない。自衛ですよ。

見ず知らずの世界の只中において、物理的な「強さ」は必須だからね。


…さて、やるべき事はやりました。我ながら冷静に行動できてるなあ。

少し距離を取り、追い出された城を振り返る。まあもう用はないよね、

お互いに。失礼はスルーしますよ。


あの子はどうなるんだろうな。割と順応しそうな雰囲気だったけども。

あと何だっけ…そう、闇夜の魔女。この世界の厄災的な存在なのかな。

あの子が聖なる力とやらで討伐するのがセオリーならば、止めません。

はっきり言ってあたしには関係ない物語だし、無闇に首を突っ込むのは

会社の方針にも反するだろうしね。


よし。

それじゃあ、まずは…

何か食べたいなあ。



とりあえず、日銭を稼ぎに行こう。

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