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いい時を過ごそう

「あー、タマミ!」

「ようジューイ。元気だったか?」


あれこれ考える間も、質問する間もなかった。転生者のジューイ君は、

パッと顔を輝かせ駆け寄ってきた。玉見さんも、自然な笑顔を返す。


兄貴?

…この子が玉見さんの、お兄さん?

はっきり言って、全く似ていない。いや、転生者なら当たり前なのか。

魂以外一新された存在なんだから、そもそも似ている道理がない。


いや、本当にお兄さんなのか。

今のこの状況では、目の前の少年がモエビト、あるいは転生者だという

証拠すら何もない。覚醒が10年後とすれば、力の片鱗も過去の記憶も

持っていない…って事なんだから。


ヤな言い方だけど、今の玉見さんの言葉には、信じる根拠が何もない。

あたしをからかってるだけという、極端な推測さえ成り立ってしまう。

どうしてこんな、言葉ひとつで…


「お姉さん、初めまして!」

「初めまして」


今さらあたしに気付いたらしい彼の挨拶に、あたしは迷わず返事した。


まあいいよ。

玉見さんの性格は、短い付き合いの中でもそれなりに知りつつある。



あたしは、信じますよ。


================================


相変わらずどこに仕舞ってるのか、彼へのお土産はオモチャだった。

知ってるぞあれ。ええっと名前は…確かスネークキューブだったっけ。

ゲームもけっこうやり込んだけど、ああいうレトロ玩具も好きだから。

と言うか、あんなアナログ玩具なら異世界に持ち込んでもいいのかな。

想像だけど、明確な線引きは無いんだろう。ケースバイケースってね。


熱心にカチャカチャやっている姿に触発され、あたしも参戦します。

ほら犬。さらに東京タワー。これが経験者の腕だ。おそれ入ったか。

うん、名前?そういやまだ名乗ってなかったね。すっかり忘れてたよ。


ウシミツおねえさんですよ。以後、どうぞよろしくねジューイ君。

さあ、次は何を作ろうか?


こういう時間、ホント久し振りだ。

ブラック企業に勤めていた日々が、本当に記憶の彼方になってるよ。

遠い異世界の酪農の家で、転生者の少年とスネークキューブに興じる。

しかもその子は、同僚のお兄さん。いやはや、不条理のフルコースだ。

フルコースだけど、だから何だって思える自分がいる。そんな自分が、

むしろ誇らしい。


だって、間違いなくいい時だから。

あたしの人生の中で、今この瞬間はいい時ですと断言できるから。


不条理や理不尽は、本来の世界にも当たり前のように存在している。

何もかも納得して生きている人が、果たしてどのくらいいるだろうか。

のみ込みがたい目の前の現実というものを、それでも無理にのみ込んで

みんな生きてるんだ。だとすれば、こんな不条理はむしろ大歓迎です。



玉見さんは、何も言わず笑ってた。


================================


力も前世の記憶も覚醒していないとなれば、それほど今の状況を厳密に

調べる必要はないだろう。要するに簡単な様子見。お見舞いと言っても

差し支えないものだった。


「じゃあ、また来るな」

「うん!ウシミツお姉ちゃんもまた来てね!」

「もちろん」


すっかり懐かれたなあ。自分では、あまり子供の相手は得意じゃないと

思ってたけど…嬉しい勘違いだよ。

見送りに来てくれたジューイ君や、他の女性たちに大きく手を振って。

あたしと玉見さんは帰路に就いた。せいぜい2時間ほどの滞在だった。

そんなに劇的な何かがあるわけじゃない。顔を見せに行っただけかな。

玉見さんが何度も来てるって事は、聞かなくても十分に理解できた。


しばし、黙ってきた道を辿る。

気まずいわけじゃないけど、あまり率先して何か言おうとは思わない。

そのまましばらく、黙って歩いた。


やがて。


「…すみませんね、わざわざこんな遠くまで付き合わせて」

「いえいえ、お気になさらず」

「………………」


あたしの即答が意外だったらしく、玉見さんはまた少し黙った。

何だかいつもと感じが違う。でも、むしろ今が素の彼なのではないかと

そんな考えが浮かぶ。だとしたら、あたし的には嬉しい限りだけどね。

会話らしい会話もなく、隠蔽魔術で隠してあったトラックまで戻った。

今日の仕事の予定は、ここまでだ。後は元の世界に帰って解散ですね。


促される前に、あたしはそそくさとトラックの助手席に乗り込んだ。

玉見さんも、少し遅れて運転席へと勢いよく乗り込む。でも、すぐには

起動させなかった。


短い沈黙ののち。


「…丑三ツさん」

「はい?」

「俺に訊きたい事、ありますか?」

「もちろんありますとも」


マッハで即答する。意外だったのか玉見さんは、キョトンとした表情で

あたしを凝視する。ヤだなあもう。そんなに無関心に見えましたか?


「これからじっくり聞きますって」

「これから…」


怪訝そうだった玉見さんが、車内をぐるっと見回して苦笑を浮かべた。

あ、やっと気づいてくれましたか。そうそう、そういう事なんですよ。


「道中が長いですからね」

「確かに!」


そんな言葉を交わして笑い合う。


そう、異世界からの次元跳躍には、結構な時間がかかるんですよね。

来る途中は話題が尽きちゃったから退屈だった。とにかく長かったよ。

帰りも同じだけ時間を過ごすなら、積もる疑問はそこにぶち込もう。


あたしをからかっていたかどうかについても、じっくりと聞きたい。

そうだったとしても、ここまで来たからには聞ける話はいっぱいある。

少なくともその確信はありますよ。


「話してもらえますよね」

「まあ、大した話じゃないけどね」

「それはあたしが決めます」

「はは、そりゃそうか」


朗らかに笑う玉見さんの表情には、さっきまでの硬さはもうなかった。

普通に本当の事を話してくれると、確信しているあたしも笑う。


ここまで連れてきたんだから、その心づもりはきっと持ってるはずだ。

でなきゃ、わざわざあたしなんかを同伴させる意味がないから。

玉見さんも柳橋さんも、そう思って今日、あたしに声をかけたはずだ。

退屈極まる移動時間に、大切な話を聞くというのは悪くないでしょう。


どうせなら、いい時を過ごそう。

ね?玉見さん。



さあレッツゴーホーム!!

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