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あるゲーマーの記憶

「どうかな?丑三ツちゃん」

「………………」


コメントを求められても困る。

正直、ちょっと思ったのと違った。


間違いなく、ここはあのゲームの…バトレリウス・オンラインの世界。

さっきまでずっとプレイしてたから確信がある。実に忠実な再現だ。

…だけど何だろう、この違和感は。前回のサラリーマン転生者を追って

向かった異世界とは、何かが大きく異なっている。それはつまり…


「…仮想現実っぽいですね」

「だよね、やっぱり」



リプネリスさんは、苦笑していた。


================================


そうだ。

現実さながらの世界ではあるけど、現実かと言われれば何か足りない。

それは道行く人たちの顔立ちとか、建物の形とか。何であれ、多様性が

決定的に欠落している。要するに、何もかもが似たような感じなんだ。

世の中のもの全てを一人がデザインした場合、こういう事になるのか。

それがゲーム世界であろうと、真の創世であろうと同じって事なのか。


「まあ、数分前にできたばっかりの世界だからね。まだまだ浅いよ」

「やっぱり、そういう事ですか」

「もちろん、最低限の現実性は担保してる。それも、これから少しずつ

厚みを増していく。まだまだここは出来立ての世界って事よ」

「出来立ての世界…」


パワーワードだなあ、ホントに。

創世のベータ版とでも言うべきか。何にせよ、あのゲームに自分の命を

懸けている人にとっては理想郷だ。それにしても、お手間いりですね。


「いけるかな、コレで?」

「十分だと思いますよ」

「よかった!」


お世辞でも気遣いでもない。むしろこのくらいゲームに忠実な方が、

ヘビーユーザーには受け入れやすいと本気で思うから。



創世のお手伝いがオンラインゲームというのも、ホントに不条理だね。


================================


ジリリリン!


スマホの着信音が小さく響いた。

現在のあたしとリプネリスさんは、キャラメイクした通りの姿である。

それでスマホって違和感凄いけど、こればかりは必須アイテムなので。

案の定、柳橋さんからの着信です。世界を超える電話って何気に凄い。


「はい、丑三ツです」

『リプネリスさんに替わって』

「はい」


あ、直接は話せないんだ。そこは、思ったより不便なんだなあ。


「柳橋さんです」

「ありがと…もしもし?」

『ちょっとマズい感じになってる。モエビトの家の周りの空間全体が、

ほんの少しだけど歪み始めてるよ。多分、もう朝までは持たない』

「そっか、思ったより早かったね」

『そっちの準備は?』

「終わったよ。丑三ツちゃんからのお墨付きももらった」

『分かった。じゃあお願いね』

「はあい…どうもありがと」

「はい」


スマホを受け取りながら、あたしは漏れ聞こえた会話の意味をきっちり

理解していた。理解できる自分が、何だかちょっと怖くもある。


どうやら、モエビトの力が発現し、あの世界が変異しつつあるらしい。

もっとストレートに言えば、世界の終わりが始まろうとしてるって事。

…うーん、実感がついて来ないよ。


「聞いたよね?」

「はい」

「おかげで間に合った。それじゃ、あの世界に戻ろう」

「了解です」


新世界滞在、短かったなあ。

VRゲームの体験版って感じかな。まあ、正直言ってもう十分ですね。

長く留まりたいとは全然思わない。そこまでゲーマーじゃないです。



とりあえず、責任もって見届ける。


================================


キュイン!


戻る際は呆気ない。不思議な感覚は一切なく、一瞬で元の部屋に帰還。

あーあ、食べ散らかしてるなあ。


「さて…さっきの画面、出せる?」

「スコアランキングですよね?」

「そう」

「ちょっと待ってて下さい」


世界の崩壊は近いけど、あわててもいい結果は出ない。確実に行こう。

画面を操作して、さっき表示させたあの歪なランキングを再度表示。

…うわあ、ますます歪んでるなあ。かろうじて読めるけれど…


「ますますスコア伸びてますね」

「ぶっ通しでやってるだろうから、まあ順当な結果でしょうね」


このジンってプレイヤー、いったい何十時間プレイし続けてるんだろ。

そのまま衰弱死…とか、そういった末路も十分考えられる。とは言え、

もうそんなの待ってられない状況になってるんだろうな。という事は…


「今、彼を転生させるんですか」

「そう」

「どうやって…?」


思わず、素朴な疑問が口をついた。

前回のサラリーマンは、テンプレなトラック転生だった。だけど正直、

この人が身を挺して誰かを救おうとするイメージがまったく湧かない。

そんな相手を、どうやって転生まで持って行くのだろうか。まさか…


「ま、見ててよ」

「はい」


今さら、その是非を問う気はない。転生させないと、世界は崩壊する。

プロセスがどうであれ、あたしには見届ける責任がある。ドンと来い。


コントローラーをそっと手に取り、リプネリスさんはそのまま全身を

うっすらと発光させた。と同時に、歪んでいたランキング表示画面が

ゆっくりと正常表示に戻っていく。間違いなく、これってチートだね。

そして…


「悪いけど、ゲームオーバーよ」


ポツリと告げられたそのひと言が、終わりの合図だった。


================================


他を全て圧倒していた、「ジン」のスコアがどんどん減少していく。

凄まじい勢いでカウンターが回り、積み上げた戦績が無に帰していく。


ああ、これ確かに唯一無二の手だ。ゲーマにとっての、事実上の死刑。

女神チートで成されている事なら、リアルタイムで絶望に襲われてる。

ゲームが全てだという人にとって、これは本当に…


カウンターは「10」で停止した。

ゼロまで行かなかった現実に、逆にリアルな残酷さを感じてしまう。

己の全てを懸けたゲームスコアが、何の前ぶれもなくここまで落ちた。


それはつまり…

………………………………


ジリリリン!



柳橋さんから、電話がかかった。


================================


「丑三ツです」

『外まで絶叫が聞こえてきたよ』

「でしょうね」


その意味は分かる。はっきりと。


「それと、空間の歪みが消失した」

「分かりました」

「やっぱり理解が早いね、さすがは丑三ツちゃん」

「目の当たりにしましたから」

「じゃあ、しっかり見届けて」

「了解です」


電話を切り、向き直った瞬間。


「出て来るよ」


リプネリスさんが告げると同時に、テレビ画面が危険な光を放った。


================================


キュイィィィィィンン!!


物理的な力は、特に生じなかった。衝撃を受ける事もなかった。

画面から飛び出してきたその光は、無数の微細な画面の集合体だった。


「…これが、モエビトの魂ですか」

「そう。肉体を離れた真の姿よ」

「…………」


禍々しさはない。かと言って荘厳な気配もない。どっちかと言うと、

無機質な電気的発光だ。あたしは、注意深くその画面に目を凝らした。


それぞれに何か小さく映っている。おそらく、この人の記憶の一編だ。

今日まで生きてきた魂を形成する、本当の意味での走馬灯って感じか。


目を凝らす。

ひとつひとつに。

そこに映るものが、なんであるか。

ひとつひとつに…

…………………………………


………………


「ゲーム画面ですね」

「そうね」

「そればっかりですね」

「そうみたいね」


不意に、何だか泣きそうになった。

悲しいというよりもむしろ、それは寂しいに近い感情かも知れない。

見ず知らずの人物の臨終の記憶に、言い知れぬ寂しさを感じた。


どこを見ても、ゲームばっかりだ。

それ以外の記憶など見当たらない。

この人にとっては、家族も思い出も記憶するに値しなかったのか。

本当に、ゲームの世界にしか意味を見出さなかったのか。


だとしたら。



寂しいなあ、本当に。

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― 新着の感想 ―
ゲーム世界を忠実に再現しながらも、どこか「作られた世界」らしい違和感がある描写が印象的でした。特に、ゲームだけに彩られたジンの魂を見届ける場面は切なく、彼にとってゲームとは何だったのかを考えさせられま…
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