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自宅のような安心感

かちゃ。


あ、ちゃんと鍵開いた。

ええっと…間取りも同じなのか。

電気のスイッチも…うん、同じだ。


ぱちっと。


「じゃあその…どうぞ」

「お邪魔しまーす!」


あたしと対照的に、あっけらかんとした様子でリプネリスさんご来訪。

我が家と言えそうな言えなさそうなこの、何とも微妙な家に。



慣れない事が多いなあ、ホントに。


================================


入る前に、リプネリスさんから少し説明してもらえた。


元の世界で「社宅」として保有する不動産物件は、どこの並行世界でも

ほぼ押さえているらしい。つまり、どこの世界に行こうとそこは自由に

使える家になってるって事だ。で、元の世界ではこのあたしがその内の

一軒に住んでる…というカラクリ。いやぁ、全然知らなかったなあ。


「このあたりの街は、どこの世界もほとんど同じ造りになってるの」


周りを見回して、リプネリスさんが事もなげに言った。


「転生に手間がかかる事も多いし、こういう拠点があった方が好都合。

で、まさに今日みたいな時に使う…って話なのよ。お分かり?」

「ええ、まあ大体は」


カラクリは分かりました。つまり、ここはあたしの家と似て異なる家…

という認識でいいんですよね多分。まあ家に行くよりはいいですけど。


それより、もうひとつの問題。



「今日みたいな時」ってどんな時?


================================


「どうぞ。散らかって…はいないか。うん、片付いてますね」

「おおー、いい家ね」

「そうですね」


広く感じるなあ。あたしが住んでる家と、同じ間取りのはずなのに…

うん、理由はおよそ分かってます。散らかってないからですよねハイ。

空き家じゃない。そして、とってもきれいです。…何だこの敗北感は。

まあいいや。とりあえずお仕事を…


「この姿はちょぉっと窮屈なんで、元に戻るね」

「え?あ、はい……えっ!?」


キュイン!!


止める間もあらばこそ、一瞬の間にリプネリスさんは「女神モード」に

戻ってしまいました。…神々しさと仰々しさがリビングに馴染まない。

コスプレにすら見えない違和感が、どうにもなりませんねホント。



慣れるしかないか。


================================


「それで、あたしは何をすれば?」

「オンラインゲーム」

「……」


やっぱりそこは変わらないんだ。

わざわざ並行世界に来て、やる事がソレってのはどうなんだろう。


「やっぱり、転生関連ですか」

「もちろん。何と言うかね、厄介なケースなのよ今回は。」


何となく実感のこもった口調でそう言い、リプネリスさんはソファーに

腰を下ろす。そこで気づいたけど、テーブルの上にゲーム筐体がある。

知ってるやつだけど、何か違和感が凄い。どうしてここにあるんだろ?


「ま、とりあえずゲームやるから。お茶とお菓子もらえるかしら?」

「あっ、ハイただいま!」


反射的にそう答えたけど、果たしてこの家にお菓子があるんだろうか。

あたしの家のパラレル存在ならば、同じようなお菓子があったり?

祈るような気持ちで戸棚を、そして冷蔵庫を開けてみる。


そこには…



おい、何だコレ。


================================


「うーん、豪華だね!」

「そうですね」


嬉しそうなリプネリスさんに対し、何だか投げやりに答えてしまった。


テーブルの上にはお菓子がズラリ。甘いモノ好きの夢の具現化ですね。

とにかくいっぱいストックがある。しかも生菓子が多いこと多いこと。

賞味期限短そうなこれらのお菓子、どうやって用意したんだろうか。


とても食べきれる量じゃないけど、もう開き直って全部出しました。

もしかしたらもう、二度と訪れない家かも知れない。だったら遠慮など

するだけ損。あたしだって甘いモノ好きなんだし、気にしたら負けだ。


「…それじゃあ、始めましょうか」

「よろしくお願いしまーす!」



テンション軽いなあ、転生の女神。


================================


というわけで、ゲームスタート。

『バトレリウス・オンライン』とかいうタイトルだ。アクション主体の

RPGかな。特に好きなジャンルと言うわけじゃないけど、それなりに

似たようなのはやった経験がある。ゲームの開始は特に問題なかった。


「あーなるほど、キャラメイクってそうやるんだ。難しいなあホント」

「慣れないとここでつまづきますね確かに。ちょっと手順も煩雑だし」

「やっぱ分かるんだそういうの」

「まあ、並程度には…」


称賛の根拠が心許ないので、あまり調子に乗らないように心がけます。

完全に最初からだから、それなりに時間がかかるだろうなと腹を括る。

ドンとこいだよ。


「よーし始まりの街だ。いいじゃん可愛いプレイヤーになったじゃん」

「そのままでいいですか?今なら、も少しカスタマイズできますけど」

「いいよいいよコレで十分!じゃ、冒険の旅に出ましょう!」

「はあい」


挿絵(By みてみん)


テンション高いなあ女神様。

多くの世界を管理しているであろう存在が、ゲームで満足できるんだ…

いやいや、偏見は良くないだろう。これだってひとつの創世なんだし。

とりあえず疑問は後回し。目の前のゲームをきっちり楽しみましょう。



うん、ホントに久々だね。


================================

================================


気が付けばすっかり暗くなってる。けっこうな時間ぶっとおしだなあ。

もちろんゲームをしてるんだから、この程度の時間経過は普通だけど。

さすがにあたしはちょっと疲れた。


「ちょっと休憩しません?」

「ん?そうね、そうしましょう」


よかった、あっさり通ったよ。

まだまだ若いと自負しているけど、やっぱり無理はよくないよね。


それにしても女神様、よく食べる。

あれほどあったお菓子が七割以上、彼女の口というブラックホールに

吸い込まれてます。やはり超越した存在だという事か…


「そうかなあ。普通じゃない?」


そうですね、失礼しました。

スイーツ好き女子の胃袋をナメちゃいけない。当然の話でしたね。

とにもかくにも、ゲームはそこそこ進んでいる。まあそれほど効率的に

こなせてるとは思わないけど、割と楽しめている気はしてます。でも、

本当にいいんだろうかこんなので。


「いいよいいよ、理想的だよ」

「そうなんですか?」


変に気を使われてたらどうしようと思うけど、ホント大丈夫なのかな。

って言うかそもそも、何でゲームのお供があたしだったんだろうか。


「適任だと思ったからよ。あたしも柳橋ちゃんもね」

「他の人たちよりもですか?」

「そう。社長と剛守君は見ての通りゲームには縁のないカタブツだし、

柳橋ちゃんはそもそも他の方面でのサポートをお願いしてるしね」

「じゃあ、玉見さんは?」

「あー、彼はねえ…」


フッと苦笑したリプネリスさんは、チョコをつまんで口に放り込んだ。


「スゴイよホント。ゲーマーとして超一流。詳しくは聞いてないけど、

世界大会とかでも常連だったって。それだけで食べていける系の凄腕」

「え、じゃあどう考えてもそっちが適任だったんじゃ…?」

「いやあ、過ぎたるは何とやらよ」


思わず詰問口調になったあたしに、リプネリスさんは笑って手を振る。


「それだけゲームに精通した人は、とにかくプレイに無駄がなくてね。

攻略までがもう速いのなんのって。一度だけお願いした事あったけど、

全然ついて行けない。ただポカンと見てるだけ。それじゃ意味ないの」

「あーーー…分かる気がします」


うん、ゲーマーあるあるですね。

初心者とガチ勢が一緒にプレイして楽しめるかと言えば、否でしょう。

何も、ゲームに限った話じゃない。得てしてこういうのは、それなりに

モタモタ遊ぶのが楽しいものだし。


そういう意味で、今のあたし程度の習熟度はちょうどいいんだろうね。

慣れてるし操作には問題ない反面、初見プレイはたどたどしい程度が。

実際、二人して楽しめている自覚はあります。気付けば長時間なんて、

それだけ集中できてるって事だよ。


ようやく、自分が今ここでしている事への自信が少し持てました。



さあ後半戦だ。


================================


「んじゃ、続きやろっか」

「はい!」


心機一転でソファーに座り直して、再びゲーム開始。ここまでで結構、

スコアも伸ばしている。あそうだ、ちょっとランキングを見てみよう。


「現状を確認してみますね」

「そうね、いい機会だからちょっと見てみよう」


何だろいい機会って。まあいいや。えーっと、ランキング表示はと…

あ、出た出た。


…うわー低いな。予想通りだけど、まだまだザコプレイヤーですね。

上位ランカーなんてケタが違う……

………………………………


ん?

何だコレ?


「どうかした?」

「いえその…このトップランカーの表示がおかしいような…歪んでる?」

「やっぱり分かるんだ、さすがね」

「え?」


ハッと視線を戻すと、画面の表示を見るリプネリスさんの表情がどこか

厳しくなっていた。…何だろうか?

このぶっちぎりトップランカーが、何か関係してるんだろうか。


「あなただから気づけたんだろうと思うけど、それだけ影響が出てる。

もうあんまり時間がないかもね」

「え、それってつまり…」


そこまで言って初めて気が付いた。

目の前の事象が示す、その意味に。


「このケタ外れのスコアを出してるプレイヤーが、モエビトですか」

「そういう事。やっぱ分かってるね丑三ツちゃん。」


厳しい顔を緩めたリプネリスさん、そこであたしに二ッと笑いかける。


「とりあえず、今日はこのあたしとじっくりこのゲーム楽しんでね」

「分かりました!」


ようやく、何かが腑に落ちた。

今過ごしてるこの自堕落な時間に、大きな意味があるって事も察した。


よおし、楽しみつつ目指せクリア!



…その前に、ピザでも取ろうかな。

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