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倭王年代記  作者: 水前寺鯉太郎
神殺し戦記(上)

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神殺し戦記第1話

『巻の二:神殺し戦記(上)』

第1章:マカツ滅亡編

【第一石板:マカツの悲劇】

【原文(古写本)】

 ――カムヤマト九年、卯月の半ば。

 その朝、空、裂く。

 大和の火矢、赤黒き煙となりて天を割る。

 西の邑、灰燼と化す。

 大和の兵、五十、来たり。

 鉄の兜、鉄の甲、鉄の矛。

 村人、動けず。

 「供物を受け取りに来た」

 十五人、泥より引き出される。

 その先頭、タカクラジ。

 彼、国を護るため己を差し出す。

 王、欄干を握り、血を流す。

【現代語訳(前野)】

『――カムヤマト九年、卯月の半ば。その朝、空が割れた。雲一つない晴天を、大和の放った無数の火矢が赤黒い硝煙となって引き裂いたのだ』

『――マカツの西にあるコトシロヌシの豊かな邑が灰燼に帰したという報が城に届いた直後、彼らは現れた』

『――大和の兵はわずか五十。しかし、それはマカツの四百人を完全に無抵抗にさせるに十分な絶望の質量だった』

『――彼らは衝角付兜で頭部を覆い、革紐で編んだ鉄板の短甲を纏い、鍛鉄の直刀と長矛を携えていた。木と石、あるいは脆い青銅しか持たない辺境の村にとって、それは物理的な鉄の壁であり、抗うことの許されない絶対的な掟そのものだった』

『――村の広場に鉄甲の兵たちが陣形を組み、村長が泥に額をつけて跪く。鉄兜の奥から、感情のない声が告げる。「今期の供物――大和の造営部民を受け取りに来た」』

『――間もなく十五人の人間が連れ出されてきた。その先頭に、マカツ百人隊長タカクラジの姿があった』

「……タカクラジ、なぜだ」

 私はルーペを握りしめ、石板に刻まれた彼の悲痛な決意を読み解く。

 タカクラジほどの男なら、大和兵に一太刀浴びせることなど容易い。だが、それをすれば――大和の背後に控える数万の鉄甲軍団が、日向を跡形もなく焼き尽くす。

 タカクラジは、国を、首長を護るために、自ら大和の巨大墳墓を築き、製鉄や兵器の管理を行うための「最良の技術奴隷」として肉体を差し出したのだ。

 タカクラジは城の方向を――イワレビコがそこにいると気づいて、じっと見上げていた。

 その眼光は親友を責めるものではなく、ただ「生き延びろ、そして力を蓄えろ」と言葉なき叫びを伝えるように深く、静かだった。

 次の瞬間には一切の生気を押し殺し、大和の冷徹な鉄の隊列の中へと吸い込まれていく。

 親友の背中が硝煙の向こうに消える瞬間、イワレビコは城の木の欄干を握りしめた。

 指の骨が砕け、爪が剥がれ落ちそうなほどに――強く、強く。

 夕方、城の一室でイワレビコは一人佇んでいた。扉が静かに開き、老臣オオクメが入ってくる。

「殿」

「わかっている。何も言うな」

 オオクメが今から何を言おうとしているか、痛いほどわかる。「これが現実だ」「大和の鉄と兵力に逆らえば国が滅ぶ」と。

 すべてが正論だった。だからこそ、今は聞きたくなかった。

「タカクラジの子は」

「生後八ヶ月にございます。母親も健在です」

「城から十分な手当を出せ。絶対に飢えさせるな」

 イワレビコは血の混じった鉄の味のする唾を吐き出し、昏い炎を宿した目でオオクメを振り返った。

「今日で、何度目だ。俺が物心ついてから――大和に、我が民の命を『掠奪』されたのは、一体これで何度目になるんだ!」

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