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漆黒のイカスミパスタ  作者: 島流しパプリカ


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問題編

「見た目は子ども、味覚は大人!」


多摩川コナ美は、そう言いながら、駅前のイタリアンに入ってきた。


誰に言ったわけでもない。

ただ言いたかっただけである。


場所は阿佐ヶ谷。

商店街のはずれにある、やたら黒板メニューが多いイタリアンレストラン、トラットリア・ネーロネーロ。


本日のおすすめ。


漆黒のイカスミパスタ

〜闇より深く、歯より黒く〜


「なんやこのメニュー。食欲を削る詩か」


コナ美の隣で、百合ねーちゃんが眉をひそめた。


百合ねーちゃんは強い。

空手も強い。

思想も強い。

そしてなにより、注文の決断が早い。


「私はカルボナーラ」


「黒を避けた!」


「服についたら終わるから」


そこへ、白衣を着た老人がヨロヨロと現れた。


「おお、コナ美くん。待たせたのう」


「阿佐ヶ谷博士!」


阿佐ヶ谷博士。

発明家である。

ただし最近の発明は、だいたい商店街のポイントカードアプリと干渉する。


「今日は新発明を持ってきたぞい」


博士はポケットから、小さなフォークを取り出した。


「その名も、どこでもアルデンテ判定フォークじゃ」


「用途せまっ」


「パスタに刺すと、茹で加減を音声で教えてくれる」


博士がフォークをテーブルに置くと、フォークが喋った。


『ヤワメデス』


「まだ刺してないのに?」


「ワシを見るな。こいつは性格が悪いんじゃ」


そのとき、店内の照明が一瞬、フッと暗くなった。


次の瞬間。


「キャアアアアア!」


厨房から悲鳴が上がった。


コナ美は立ち上がった。


「事件や!」


百合ねぇちゃんも立ち上がった。


「また?」


博士は座ったまま言った。


「ワシの注文まだかのう」


三人が厨房へ駆け込むと、そこには倒れているシェフ。


いや、倒れてはいない。


シェフは床に座り込み、両手で顔を覆っていた。


「な、なにがあったんですか!」


コナ美が叫ぶ。


シェフは震える声で言った。


「消えたんです……」


「何が?」


「本日の目玉……」


「まさか」


「漆黒のイカスミパスタのソースが!」


沈黙。


百合ねーちゃんが言った。


「帰っていい?」


「待てや百合ねーちゃん! これは重大事件や!」


「ソースやん」


「ソースを笑う者はソースに泣く!」


そのとき、厨房の壁に一枚のカードが貼られているのを、コナ美は見つけた。


黒いカード。

白い文字。


今宵、漆黒はいただいた。

それを温め直すのは、この私。

——解凍ベント


「出たな……解凍ベント!」


天井裏から、謎の声が響いた。


「フッフッフ……」


全員が見上げる。


「どこや!」


「ここだ!」


ガコン、と換気扇のフタが外れ、黒いマントの男が落ちてきた。


落ちてきた。


普通に落ちてきた。


「痛っっっ!」


黒マントの男は腰を押さえてうずくまった。


「登場ルート、間違えた……」


コナ美が指さす。


「お前が解凍ベントやな!」


男は立ち上がり、マントを翻した。


「いかにも。冷凍された真実を、電子レンジのごとく解き放つ者。怪盗、解凍ベント!」


博士のフォークが言った。


『スベッテマス』


「黙れフォーク!」


解凍ベントは懐からタッパーを取り出した。


中には、黒々としたソース。


「返せ! それは店のイカスミソースや!」


シェフが叫ぶ。


しかし解凍ベントは首を振った。


「違う。これはただのソースではない」


「なに?」


「この中には、黒づくしの組織の秘密が隠されている」


その言葉に、コナ美の表情が変わった。


「黒づくしの組織……!」


百合ねーちゃんが聞く。


「なにそれ」


博士が小声で答える。


「闇の組織じゃ。全身黒ずくめで、黒い食材ばかり食べ、黒い服しか着ず、黒い家計簿をつけ、黒歴史を量産しておる」


「最後だけ普通の人にも刺さるやつ」


その瞬間、店の奥の扉が開いた。


そこから、黒いスーツの二人組が現れた。


一人は髪が海藻のように細い男。

もう一人は肌つやが妙に黒光りした男。


「ヒジキ……」


「イカスミ……」


コナ美がつぶやく。


黒づくしの組織の幹部。


ヒジキとイカスミである。


ヒジキが静かに言った。


「まさか、この店にたどり着くとはな。多摩川コナ美」


イカスミが続けた。


「そのソースは我々のものだ。返してもらおう」


解凍ベントがタッパーを抱きしめる。


「断る!」


「なぜだ」


「これは……まだ解凍が終わっていない!」


全員が黙った。


博士のフォークが言った。


『レンジツカエヨ』


「正論やめろ!」


ヒジキはサングラスを外した。


「そのソースには、我々の極秘計画が記されている」


コナ美が目を細める。


「極秘計画?」


「そう。日本中の飲食店のメニューに、黒い料理を一品ずつ紛れ込ませる計画だ」


「地味!」


「そして最終的には、全国の客の歯を黒くする」


「目的しょぼ!」


イカスミが低い声で言った。


「笑うな。人は歯が黒くなると、写真を撮らなくなる。写真を撮らなくなると、SNS投稿が減る。SNS投稿が減ると、店の集客が落ちる。つまり、飲食業界を影から支配できる」


百合ねぇちゃんが腕を組む。


「いや、最初から料理をまずくした方が早いやろ」


ヒジキが震えた。


「……その発想はなかった」


「組織、大丈夫か?」


そのとき、厨房の奥からもう一人、少女が現れた。


クールな目。

無表情。

妙に白衣が似合う小柄な少女。


「愛原マイ……!」


コナ美が叫ぶ。

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