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婿嫌いの竜公女は 酸いも甘いも嚙み分ける  作者: 藤 慶


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第2話 多々良と氷室【前編】



「多々良が余所者を連れてきたと聞いて急いで来たつもりだが、何故、俺が来るまで待てんかった?」


「叔父様を呼んでいるなんて、聞いてませんでしたから。大丈夫ですよ。 多々良が、敵意無しって判断したんです。 会っても危険は無いと思ったんです」


社殿できずなと話をしていると

恰幅良く身なりの良い武士おとこが飛び込むように駆け付け

きずなを叱りつけた。


きずなはまるで般若の形相で武士に怒鳴られても、涼しい顔をしていた。


「悪い。きずな、一応、話しとくか?っと思って話したら、怒られちまった」


後から、多々良が申し訳無さそうに手を振って入って来た。


「何処の馬の骨とも分からん輩と、気安く会うな。面倒事は極力避けんか」


「叔父様、お客人の前で失礼です。 この方、身分は肥前からいらした神社の宮司の跡取りさんで、図々しくはギリギリない方でした」



ギリギリは余計では無いだろうか?


まぁ、柑橘片手に無一文で来ていて、他に手土産も無く

着の身着のままでお願いごとをして来た僕に図々しさが無いかと言えば

どちらかと言えば、図々しいと評されて然るべきだから、彼女のその評価は温情に値する。



「肥前の神社の息子が、神木に何の用だ」



突然現れた武士は、僕を見下ろして、睨みつけて来た。


あぁ、鬼って居たら、こんな人なんじゃないだろうか?


腰に脇差が2つ。


肥前の田舎でこんな上等な身なりの人を見る機会は皆無だ。

さすが、博多の街道沿いの場所だ。


「神隠しと柑橘の栽培の不出来で風前の灯火の里を救うべく、神木の噂を聞いて、ここまで⋯⋯参り⋯⋯ました。あ、あの⋯⋯貴方様は?」


いや、まさか、ここ黒田藩の城下の中だけど、まさか将軍様なんて事も無いと思いたいが。


「黒田藩馬廻役頭 筆頭 氷室ひむろ 剛流たけるだ。人に名を尋ねる時は、自分が先に名乗るものだ」


うっわぁ。

将軍様じゃかったけど、びっくりするような高官じゃ無いか⋯⋯。

えっ、叔父さんって言ってたけど。


親戚なのかな?



「申し訳ございませんでした。 私は肥前の七山村の白山神社の息子で柚木崎 簾と申します」


「きずな、話がある。 客人は多々良に任せて、俺と来い」


きずなは氷室にそう言われて、渋々席を立った。




「ひっさしぶりに氷室の叔父貴に大目玉喰らっちまったぜ」


「申し訳ない。僕のせいで」


「へっ、おめぇが謝る事ねえよ。 おめぇをきずなに会わせたのは、俺の判断だ。 ただよ、氷室の叔父貴には話しとねぇと、後がうるせえからよ」


「氷室様は、多々良や彼女とどう言う間柄なの?」



率直に尋ねると多々良は苦笑いで言った。



「俺の母ちゃんが叔父貴の姉で、きずなの父ちゃんが叔父貴の兄だったんだ。二人とも、俺たちが子供の頃に死んじまって、親代わりだったんだあの人が」


「多々良も彼女ももう、親御さんが鬼籍きせきなのか?」


「あぁ、俺の両親はよ、夫婦と兄貴で漁に出て、死んで帰って来てよ。 絆は、母親が身体が弱くて産後の肥立ちが悪くて死んじまって。 親父さんも、10歳になる前にお役目の途中の事故で死んだんだ。 今の叔父貴の役職だったんだぜ」



随分名家の血筋じゃないか。


そう言えば、漁師町の顔役とは言え、名字を持っているなんて珍しいと思っていたが。


多々良が漁師でありながら名字を持ち合わせている事にやっと納得がいった。



「お前、妻とやり直したいのか?」

「えっ、いきなり、なんだ」

「離縁させられたってだろう、お前。事が上手く言ったら、寄りを戻すのか?」

「⋯⋯なんで、そんな事聞くんだよ?」


突拍子無い質問に狼狽えていると、多々良は真剣な顔をしている事に気が付いて、今度は身構えてしまった。


「⋯⋯寄りは戻せない。鬼籍なんだ。 実家に連れ戻されて、三月もせず、夕食の支度しようと台所の下からザルを取ろうと手を入れた時に、潜んでいたマムシに指を噛まれて、その日の晩まで保たなかったんだ」


報せを聞いて、駆け付けたけど、門前払いで死に目どころか、亡骸も見せて貰えず、息子とも会わせて貰えなかった。


実家の玄関で、妻子の実家の者や一族全員に追い返される最中、僅かに聞こえた息子の泣き声がまだ耳に残っている。


思い出すと、蘇って来る。


聞こえる気さえする。


それを、何故か多々良にありのままに話した。



「お前、馬鹿か?」


全部、話してしまった後、多々良は俺を突き飛ばした。


「えっ」

「なんで、お前は、自分の妻子を連れ戻さなかった。なんで、取り返さなかった。 お前、妻子を一番大事にしろって、俺に言ったじゃねえかっ」


多々良の怒りが、正直、嬉しかった。

それが、正しいと自分がその時、思えたなら、そうしていた。


でも、出来なかったから、しなかったんだ。


「お前、なんで、やられっぱなしで、取られたまんまなんだよ。 何考えてんだっ」


何を考えたか⋯⋯。

考えたさ。

ずっと。


生まれた息子が病気をして、医者に観せる金がなくて、妻が実家に泣きついて。


金を出して貰って、息子は助かった。


だが、妻の実家は、僕の甲斐性の無さを理由に妻子を連れて帰ってしまった。


妻は去り側僕に笑って言ったんだ。


「大丈夫、そのうち分かって貰えるから。私や私の家族は、自分の事ばっかでさ……。私も昔はそうだった。 でも、私、ここに来て、幸せって何か分かったの。 利益とか損得なしで、みんなが助け合って暮らしているここが、私は大好き。 仕方ないって。 少し親孝行して来るよ」


三月後、届いた妻からの離縁状は、字を書けない妻がどうやってしたためたものかもわからず、事情を尋ねに妻の実家を尋ねて行けば、正に昨晩息を引き取ったばかりで、これから葬儀の準備を始めようとするところだった。


人伝に、妻の実家の長男夫婦は子が出来ず

僕の息子を跡取りにする

我が家は安泰だと言っていたそうだ。


里が潰れれば、自分が路頭に迷うのは必至だ。


妻の実家は、裕福で立派な舟を持っている。

そんな家で跡取りとして大事にして貰えるのに、自分にこれ以上何が出来るものか。



「妻子を自分の命よりも、心よりも、矜持よりも尊んでいる。それに、嘘、偽りはない。 妻も息子も2度と戻らない」


滔々と事情を話し、そう話をくくった僕に、多々良は何も言わなかった。




「丁度、今は忙しくない時期だ。帰りはムリだが、息子を迎えに寄越す。くれぐれも、単身で帰るような事をするな。もしも、そんな事をするようなら町から出さんからな」


きずなと会った翌日、多々良にきずなが里をみたいと言うので、武士の氷室が護衛を何人も連れて馬を引いて里へと向かう事になったのだが。


身なりの良い部下を率いて、馬車まで引かせて、きずなを馬に乗せ、その轡を握って歩きでの道のりは人目をひきまくっている。


そんななかで着流しできずなののる馬の後ろを連立って歩く僕と多々良も、別な意味で目を引いているであろう事は必至だった。


「馬車は何を載せているんだ?」


気になって多々良に尋ねると、多々良は苦虫を踏み潰したような顔をして氷室に視線を向けて言った。


「叔父貴が、急ぎで用意させた。お前の里に滞在するに当たっての食料や生活に布団に、滞在の謝礼だ」


「はっ、そんな、僕がお願いして来て貰うのに」


「馬鹿か? まだ、受ける気もないのに、押しかけて、やっぱ辞めたっては、言い難いもんだろ。半分は、俺も叔父貴の意見に賛成なんだけどよ」


そう話していると、馬に揺られて海沿いの道行きを物見遊山にいそしんでいたきずなが、徐に氷室に声をかけた。



「叔父様、いくら何でも、仰々し過ぎやしませんか? 私ももう子供じゃないのです、叔父様で来られるなんて、お節介が過ぎやしませんか?」


「ふんっ、今丁度、暫くお役目も無い時期だ。案ずるな」


「いえ、そうではなくて、急拵えでこんなに荷物を用意して下さらなくても⋯⋯。あと、お仕事の方々まで連れて来られなくても。私ももう子供じゃないんですよ」


「阿呆、18にもなって、どれだけ不出来でも、子供と思ってうか。 お前は、だがな、子供では無いなら、お前は嫁入り⋯⋯否、婿取り前の年頃の娘だ。余計に気を遣っても足らんわっ」


きずなは怒鳴る氷室に閉口していた。


その夜は、里にそびえる山々への行きての前に村を構える海町で宿を取り、あくる朝に出発して昼前に里に着いた。


武士の一団の来訪に、里は騒然とした。


里の長である一族と、その一団について現れた僕の家族が震え上がってやって来るから、僕は生きた心地がしなかった。



「七山の里に、一体いかがな御用向きであらせられますか? お召し物に黒田の家紋を着けていらせられますが、我が里の者がなんぞ、致しましたでしょうか?」


里長の言葉に、氷室が顔を顰めた。


「あぁ、おたくの神社のご子息が、わが姫に火を付けおった。 全く、とんでもない奴だ」


えっ、何のことだ。

火なんて付けた覚えもなければ、誓って、そんな事していない。


狼狽える間もなく、両親だけでなく、里長まで膝をがっくりと落とした。


「叔父様、言い方っ。お立ちください。もう、本当に口下手なんだから」


きずなが慌てて、里長と僕の両親の所に駆け寄って宥めた。


「お前の好奇心に火を付けたと言った」

「いや、今のでは、勘違いされて当たり前ですから。 火付けなんて、本当だったら、死罪じゃないですか」


「ん? なぜ付け火に話しが飛ぶ? 俺はお前の話しかしておらんだろう」


「叔父様は、私の事に注力し過ぎです。もっと、周りの人に気を配ってください。もう」





来訪の挨拶を終え、改めて話の詳細は、言いだしっぺのうちの家族で話をする事になり、神社にきずな達を招き入れた。



「思ったより、立派な社と家だな」

「多々良は僕の実家にどんな想像してたんだい?」


「もっと、ボロっちい東屋みたいな。⋯⋯悪いな、あんまり、身なりがみすぼらしいからよ」


「謝るに値するだけ、言いたいだけ言うね」


「あぁ、嘘は好かんからな」


僕の神社は家2件分の大きさの建物で、装飾にもお金をかけたしつらえを施して、渡り廊下を設けて隣接する家が実家だ。


この里では、里長の家以外で、唯一風呂のある立派な家だったのだが。



若い夫婦の多々良の家にも風呂があって、食料も豊富にあった多々良の家を見て、博多の町は裕福なのかとも思ったが、どうやら、多々良が裕福なのだと思い直した。


神木の娘は裕福な事で有名でもあった。


氷室も、漏れなく裕福で権力もある。


噂は、予想以上に本当だった。


『異能に長けた呪われた娘』


でも、あくまで彼女の表面上の噂に過ぎない。




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