08 ドワーフとの同盟
トグ王国にはドワーフ族が住んでいる。全体の人口がおよそ10万人で、そのうちの2万人だ。少数民族であるがゆえに、いわれのない差別に苦しんでいる。
実際は戦士として優れた能力をもっている名誉を貴ぶ種族だ。
彼らを味方につけることができれば、イグザット王国再興の道も開けるというものだ。
さて、私はドワーフ族のボスを水晶で探していた。この少数民族を率いる人物がいるはずなのだ。しかし、水晶の中の映像が次々に入れ替わって安定しない。
「ボスがいるはずなんですけど、はっきりしませんね」
行き詰ってしまって途方に暮れた。
「街にドワーフ族があふれているんだから、直接聞けばいいじゃん」
ターレント王子はそう言うと私の手を取って宿を出て街中を歩き出した。
いきなり手を握ってくるし!夫婦の旅商人という設定なので、仕方ないかもしれないけど。なんか体が火照ってくる。
「はぐれたら大変だからしっかり手を握りな」
そう言うと王子は私をぐいぐい引っ張って進んでいった。王子も少しぎこちないかも。
ちなみにゴワンドは――
「私は宿で留守番しています」
彼は気を利かせてやったぜ的な笑みを浮かべていた。
私たちはすぐに道を歩いているドワーフに声をかけた。
人口の2割がドワーフだからすぐに見つかった。
「ドワーフ族のボスに会いたいんだけど?」
当然ながらそのドワーフはけげんな顔をして足早に去っていった。
見ず知らずの人にいきなりこんなこと言われたら誰だって逃げる。
「次だな、次」
しばらく歩くと、店先で買い物をしているドワーフがいた。ちょうど品物を手に取って店員にお金を払おうかという様子だ。
「見つけた!いくぞ!」
ところが私たちより先に人間の集団が品物を手にして店員のところに向かった。
「こんなドワーフよりも俺たちの会計を先にしてくれ」
ドワーフはおびえた様子で後ずさりし、店員も当然のように「わかりました」と言って人間の接客を始めた。
「それはおかしいだろ!」
ターレント王子が抗議するのをドワーフが止めた。
「慣れているんで大丈夫です。大丈夫です」
「自分から大丈夫とかいう奴、大抵大丈夫じゃないから」
会計を済ませたドワーフを道の端っこに連れて行った。で、王子はそのドワーフに、さっきのは間違ってるとか、人間とドワーフに違いなんてないとか、おれはドワーフの味方だとか熱弁をふるっていた。ドワーフのボスのことを聞くんじゃなかったの?
街を巡回している警備兵がこちらに向かって歩いてきた。
やばい、王子のことがばれた? 目立ちすぎたよ。そう思ったけど、彼らはドワーフの方へと向かった。
「なにか悪さしてるんじゃないだろうな。ドワーフめ」
「いえ、滅相もありません」
ドワーフは必死に弁明していた。
警備兵はしばらくドワーフを小突いていたが、それにも飽きたのか立ち去って行った。
「なんなんだ今のは」
「私はドワーフなので仕方がないのです」
「そんなわけないだろ。だいたいイグザット王国だったら……」
王子が身分がばれるようなことを言いだした。
それになかなか本題にはいらないのでわたしはしびれを切らし、口を挟もうとした。
「あなた……」
いえ、夫婦で旅商人に偽装しているので、“あなた”と呼んだだけですよ。そう呼ぶだけでどきどきするね。
そのドワーフは王子の顔をまじまじと見て、やがて意を決したように口を開いた。
「あなた達に会っていただきたい者がいるのです」
そのドワーフに案内されて街のはずれの密集した住宅街へとたどり着いた。
石の板をずらすとそこには地下へ続く階段があった。
「ここで待っていてください。入ってもらっていいか聞いてきます」
許可はもらえたようで、わたしたちを案内してくれた。
階段を降りてゆくとそこには地下にしては広い空間があった。石造りの壁、床。そして天井も石造りであるが、ドーム状になっている。すばらしい建築技術だ。
壁には棚が据え付けられ、武器や防具が所狭しと置かれている。テーブルや椅子があり、ドワーフたちが座っている。
「我々ドワーフはもともと地下に住む種族でしてな」
そう語りかけてきたのは、トグ王国首都の南西部のドワーフを束ねるリーダー、ビュルクナーであった。
彼の話によると、トグ国内をまとめるドワーフのリーダーはいないらしい。各地区で部族のようなまとまりがあるだけとのことだった。
「殿下がドワーフに同情的だということはうかがいました」
ターレント王子が剣に手をかけた。身分がばれている。私も爪に火を灯し、いつでも魔法を出せる準備をした。
ビュルクナーは緊張を和らげるように笑顔で話をつづけた。
「ターレント王子であることはわかっております。あなたを案内したドワーフも気付いておりました。我々は殿下に害をなすものではありません。イグザット王国では、ドワーフ迫害がなかったばかりでなく、戦士としては優遇されておりましたからの」
「戦争には負けてしまったが、我が王国のドワーフたちの戦いぶりは見事であった」
それからしばらくは、先の戦争の推移やイグザット王国敗因の話になった。
「敗因は傭兵だな」
王子が顔をゆがめてつぶやいた。
「イグザット王国では経費削減のため、傭兵を雇っていたんだ」
軍隊の構成が人間・ドワーフ・傭兵で三等分されていた。
戦争が起こった途端、傭兵が消え失せてしまったとのことだ。
「自分たちの左側を守っているはずの部隊がまるごといなくなっては勝てる戦にも勝てまい」
これは悪魔学校の教科書通りの話なので聞き入った。
「待遇もよかった傭兵たちがなぜ消えたか謎なんだよな」
こんなことを言っているから、思わず口をはさんだ。
「傭兵は最初からトグ王国の回し者ですよ。傭兵を雇うように入れ知恵をした者がいるはずです」
「確かに、砂漠の向こうからきたという商人が、異国では傭兵を雇って軍事力の向上と軍事費の削減をしていると語っていた」
「では、その商人もグルですね」
きれいに悪魔学校の教科書通りの話だった。
「ひょっとしてその商人に祖先を祭るための巨大な建物を建てるようにとか、王族は威厳を保つためにもっと着飾る必要があるとか吹き込まれたんじゃ?」
「どうしてわかるんだ?まるで見てきたかのようだな」
こうやって国の財政を傾かせて国力を削るのが悪魔流のやり方なんだ。でも、わたしが悪魔であることは秘密にしたいので、ここでは伝えることができない。
「よく似た話を聞いたことがありますので」
それだけ言うとわたしは後ろへ下がった。
王子はドワーフたちを見渡しながら訴えた。
「我が国のドワーフ戦士たちは、戦場で敵の刃に倒れるときも背中から刺されたものはいないと聞く。相手に向かった姿勢で死んでいったのだ。名誉を重んじる勇敢な者たちだった。私は名誉あるドワーフたちとともにイグザット王国を再建したいと思う。力を貸してほしい」
ドワーフたちはお互いに目配せをし、うなずきあった。椅子から起き上がり、王子を囲んで円形になった。全員が片膝を床につき、頭を下にした。
「士は己を知る者のために死す、と申します。殿下に志があるなら、喜んでそれに従いましょう」
王子は剣を手に取り、その肩に剣を触れた。
「今日より、そなたは我が騎士だ。我にのみ忠誠を尽くせ」
さて、私はといえば、ターレント王子の行動力、わずか16歳でのこの威厳、そして横顔も整ったかっこよさ、そういったものに惚れ惚れとしていた。ため息がもれる。
だめだめ!私は泣く子も黙る悪魔のリリア。必ずや魂を持って悪魔の園に帰るんだ。
目を覚ませ!頬をパンパン!と軽くたたいてなんとか自我を保った。
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