第21話 龍、鉄槌(てっつい)をくだすのこと
ブラスタ様、mar様、誤字報告ありがとうございます。
第二十一話、更新しました。
良かったらお読みください。
峡谷へ向かう途中、一刀くんの義勇軍と戦っている黄巾党の一団から二人が抜け出す気配があった。
一瞬だけ逃げ出したかと思ったが、黄巾党の本体に動揺した気配がなく瓦解する様子もない。
(これは何かあるな・・・・・・)
そう考えた俺は足を速めて峡谷へ向かった。
そして峡谷の入り口付近まで近づいたとき、ちょうど黄巾党から抜け出した二人の気配が大きくなったため速度を落として様子を伺う。
直後、その二人の会話が耳に飛び込んできた。
『兄者! お頭は相当な悪だな!』
『そうだな弟者! そうだな弟者! 俺たちに人質ごと砦を燃やせと命令して――』
『そのくせ敵には自分たちを見逃さなければ、合図で人質ごと砦を燃やすと脅すつもりなんだからな!』
その話が本当なら、二人を見逃せば大変なことになる。
いや、嘘でも関係がないな。
黄巾党の頭も、それに従う二人も悪には変わりない。
俺は長く息を吐き出すと、白狐を鞘から抜いて下段に構えた。
俺が今なさなければならないことはただ一つ、こいつらを殺すことだ。
「ん? 前に誰かいるぞ。」
「問題ない弟者。女だ。それにこちらは二人。何もできはしないさ。さっさと通り抜けるぞ」
「分かった! 兄者」
今から俺は鬼となる。
あの少女にした報いを受けよ、クズども・・・・・・。
**********
「「どけ! 女!!」」
男たちは叫びながら政也の横を通り抜けようとした。
その時、政也の眼が光って身体が動いた。
まず左隣の男(兄)のわき腹を左下から右上に斬り上げたかと思うと、そのままの勢いで半回転してもう一人の男(弟)のわき腹を左上から右下に斬り下げた。
それは数秒の出来事だった。
「「え?」」
男たちが斬られたことに気付いたのは、政也の横を通り過ぎてから数歩進んだとき。
その瞬間、傷口から大量の血が飛沫となって飛び散った。
「「な、何が・・・・・・」」
男たちは自分の身に何が起きたのか分からぬという表情で倒れ込む。
意識が遠のいていく中、最後に目にしたのは凍てつくような眼差しで自分たちを見つめる政也だった。
**********
「ご主人様。敵の動きが妙です」
「妙?」
愛紗たちの活躍により、倍近い数の黄巾党を圧倒して勝利まであと少しというところで、戦況を注視していた朱里が口を開いた。
言われて俺も敵の動きを見つめるが、どこが妙なのか分からなかった。
「どこが妙なの? 朱里ちゃん」
桃香も分からなかったのか、俺が訊きたいことを代わりに朱里に訊ねる。
朱里は戦況を注視したまま、桃香の問いに答えた。
「敵の動きが先程までと違うのです。なんだか時間稼ぎをしているように感じられます」
「時間稼ぎ~? 連中は何を狙ってるのだ? 朱里」
「ごめんなさい。それは分からないの。でも、敵の動きに違和感があるのは確かなんです」
「なるほど。朱里がそう言うならそうなんだろう。桃香、鈴々。敵の動きに注視しながら動こう。何かを狙っているのなら、必ず仕掛けてくるはずだ」
「「うん!(分かったのだ!)」」
朱里の進言を受け、俺は桃香と鈴々に指示する。
ここは朱里を信じて、やるべきことはした方がいいからね。
よし。愛紗たちにも伝えないといけないな。
「ご主人様、大丈夫です。雛里ちゃんも気付いているはずです。私たちが動けば、それに呼応して愛紗さん達も動いてくれます」
朱里は俺が伝令を走らせようとするのを制して進言してきた。
俺は大きく頷くと、桃香と鈴々に目くばせして部隊を動かしていった。
朱里の言う通り、愛紗たちが俺たちに呼応して動いてくれることを信じて。
*****
数十分後、俺たち義勇軍と黄巾党は膠着状態に陥っていた。
愛紗たちが俺たちの部隊に呼応して動いてくれたまでは良かったが、敵の大将らしき人物から発せられた言葉に動きを止めずにはいられなかったからだ。
その言葉とはこうだ。
『おいおい、良いのか! 俺たちを殺しても人質は帰ってこねぇぞ? 砦にはな、仲間が残って火薬をしかけているんだ。合図一つで火の海になっちまうぞ?』
確かに嘘と決めつけて黄巾党を一掃することもできた。本当だとしても、砦には政也さんが忍びこんでいる。
俺たちが黄巾党の賊を引きつけている隙に、政也さんが人質を助けて砦はもぬけの殻かもしれない。
しかし、万が一のことだってある。
迂闊に動いて人質と政也さんを殺すことになったら、桃香が進むはずだった道を踏み外すことになってしまう。
「はわわ」
「あわわ」
「ご主人様。このまま敵を見逃してしまったら、たくさんの人の命が失れてしまいます」
「う、う~ん」
「で、でも愛紗ちゃん。敵を見逃さないと、砦にいる女の子たちが死ぬことになっちゃうよ?」
「しかし、桃香様――」
俺と桃香たちは一か所に集まって、軍議を行っていた。
黄巾党の賊たちは、動きを止めた俺たちをニヤニヤと見つめている。
俺たちが条件を呑まないことを全く疑っていないようだ。
「星。星はどう思う? さっきから黙っているけど」
俺は何も言わずに黄巾党を見つめていた星の意見を訊くべく振り向いた。
「ふっ。主、決まっております。黄巾党の賊どもを一網打尽にすれば良いのです」
「で、でも星さん。それだと――」
「大丈夫ですよ、桃香様。奴らの戯言なぞ訊く必要はありませぬ」
「何? 星、どういうことだ?」
『『『『『ぎゃぁあああああっ!?』』』』』
その時、黄巾党の賊たちから悲鳴があがった。
これはまさか・・・・・・。
「ふっ。あやつが、もう一人の天の御遣い、龍政也がここにいるということは、砦内に賊はいないという証拠。今こそ賊たちを成敗する絶好の機会だ!」
星はそう宣言し、持っていた槍の先を黄巾党の賊たちの方に向けた。
黄巾党の賊たちは全員、こちらを見てはいなかった。
ただ一人の人物を睨みつけている。
その人物、政也さんの姿を見て確信した。黄巾党の賊を見逃さないでも大丈夫であると。
**********
「誰だ! てめぇ!」
「ふん。死にゆくお前たちに名乗る名など持ち合わせていない」
「んだと!? この女!」
クズを数名ほど斬り殺した俺は、戦況を整理する。
どうやら一刀くん達はクズどもの戯言に耳を傾けてしまったらしい。
まぁ、それは仕方のないことだろう。
俺が同じ立場であったら同じように耳を傾けてしまった可能性があるからな。
「威勢がいいな、ねえちゃん。だがお前はしちゃいけないことをしたと自覚しな。これで交渉は決れ(ふっ。笑わせてくれるな)なんだと?」
クズたちの頭らしき男の戯言を一蹴し、持っていたものを男の目の前に放り投げた。
地面に落ちたそれを見た男は驚いて目を見開く。そして、勢い良く俺の顔を睨みつけてきた。
「て、てめぇ! 俺の部下を!」
「ふん。お前のようなクズに加担したのが運のツキだ。そして、お前の命運もここで終わりだ」
「うるせぇ!! 野郎ども! この女を殺せ!!」
『『『『『おう!』』』』』
「別に殺されてもいいが。さて・・・、俺にかまってる暇があるのか?」
「なんだと?」
『関羽隊!』
『趙雲隊!』
『『突撃!!』』
『『『『『おお!!』』』』』
「しまっ!?」
完全に俺に意識を集中していたクズどもは、雲長殿の隊と子龍殿の隊の攻撃を防ぐことが出来ず、次々にやられていく。
それに呼応するように俺も近くのクズどもを葬っていった。
「ちくしょう! こうなったらお前だけでも殺しやる! 覚悟しな!」
「・・・・・・・・・・・・一つ言っておこう。俺はお前のような奴が一番嫌いだ」
「うるせぇ!! 死ねぇ、女!!!!!!!!!」
男は叫びながら剣を振り上げるが、その動きは遅く隙だらけだった。その隙を見逃さず、左足を一歩踏み込んで瞬間的に間合いを詰める。
「なっ!?」
驚愕し目を見開き動きを止めた男の胴に白狐の峰を叩きこんだ。
「くっ!?」
「「がはっ!?」」
男がひるんだ隙に横を通り抜け、近くにいたクズ二人を斬り伏せる。その勢いのまま振り返り、白狐を斬り上げた。
「がはっ!?」
もう一度俺を殺そうと振り向いていた男の胸から大量の血飛沫が飛ぶ。
男は白目をむいて仰向けに倒れ込み、そのまま絶命する。
私はそれを確認し、大きく息を吸って吐き出すと、白狐を鞘におさめて振り返る。
気配で大方の賊が雲長殿の隊と子龍殿の隊によって片付けられているのは確認済みだ。
「龍殿・・・。ご助力いただきお礼申し上げます」
雲長殿が近づいてきて、そう言ってきた。
私の正体を知ったときの威圧感たっぷりの態度とは違う。
どうやら私のことを一応は信頼できる人物であると認識してくれたみたいだ。
「いえ。間に合って良かったです。それでは一旦、砦に戻ります。少女たちを安心させてやりたいので。一刀くんにそうお伝えください」
「はい。伝えておきます。私たちも一度砦に戻ると思いますので、そこでお待ちくださいますようお願いします」
「分かりました」
私は雲長殿に一刀くんへの言伝を頼むと、その場を離れて砦に向かった。
*****
その後、砦についた私は、まず少女たちと貂蝉に賊を倒したことや一刀くん達の義勇軍が砦に戻ってくるまで待つように伝えた。そして、中庭に向かうと木陰になっているところで腰をおろし、息を吐きだした。
≪政也、大丈夫か?≫
「ああ、大丈夫。少し疲れただけだ」
≪少し休め。その間は我が見張っておく≫
「ああ。ありがとう」
私は白狐に甘えることにして休むことにした。
木に体を預けると、すぐに睡魔に襲われ、意識を手放したのだった。
**********
「・・・・・・・・・・・・(スースー)」
今までの疲れを癒すように深い眠りにつく政也。
その時、地面に置かれていた白狐が、少し動いた。
≪出てきたらどうだ? 人ならざる者よ≫
「ちょっと誰が人ならざる者よ! 失礼ね! わたしの名前は貂蝉。ただの踊り子よ!」
政也から死角となるところから筋肉隆々で巨躯の人物、貂蝉が出てきた。
その大声にも眠りから覚める様子がない政也。自分でも気付かないほど、相当疲労していたようだ。
白狐はすっと起き上がり、政也を守る位置に動いた。
≪我の言葉を理解できる時点でただの踊り子ではない。それはそれとして何か用か? 政也に何かしようというのなら容赦はしないぞ≫
「違うわよ~。この子にもう一度お礼を言おうと思ったの。でも、この様子じゃ無理そうね」
貂蝉は熟睡する政也を見ながら、白狐の問いに答えた。
白狐は『そうか』と呟くと、元の位置に戻る。
≪目を覚ましたら我が言っておこう≫
「お願いね。じゃ、私はもう行くわ。またどこかで会いましょう♪」
≪ああ≫
貂蝉は白狐にウィンクすると、その場を後にした。
その数分後、空へと一筋の光が伸びた。
しかし、それを目撃した者はいなかったという。ただ一つ、白狐を除いて。
≪行ったか。人ならざる者よ≫
「・・・・・・・・・・・・(スースー)」
≪政也。存分に休め。政也は我が必ず護る≫
その後、政也は一刀たち義勇軍が戻って来るまで眠りつづけたのだった。
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