第20話 龍、怒り心頭(しんとう)に発(はっ)するのこと
第二十話、更新しました。
良かったらお読みください。
森をぬけて、一刀くん達の気配を追うこと半刻。
私は義勇軍の殿に追いつくことができた。
状況を近くの兵士に訊ねると、黄巾をつけている賊との戦闘の準備が整ったところだそうだ。
頷いた私は、その兵士に一刀くん達がいる本陣に案内してもらった。
「一刀くん、遅れてすまないな」
「いえ。政也さんが一緒に戦ってくれるだけでうれしいです」
「そうかい? では玄徳殿、一刀殿。これからどうするかを教えていただきませんか?」
姿勢を正して、義勇軍のトップである二人にこれからのことを訊ねた。
一刀くんと玄徳殿は姿勢を正すと、そばに控えていた士元殿に視線を向けた。
士元殿は息を整えてから、私の目をしっかりと見つめて義勇軍の動きを説明しだした。
「ここから四半刻程先に、黄巾党にとって重要拠点である砦があります。その砦にいる黄巾党の数は、二千人であると考えられます。これは街の人たちと保護した方の話を基に算出しました。対する私たち義勇軍は、一千人ほどしかいません。数的に不利な状況ですが、決して勝てない訳ではありません」
「何か策があるということかな?」
「はい。敵を道幅が狭いところに誘い込めば、地の利で私たちが有利に立てることができます。幸い砦の先に峡谷がありますので、そこに敵を誘い込むことにしました。そのための陣形は編成済みです」
「なるほど・・・、まずこちらから攻撃をしかけて、敵を誘い込む。時機を見て退却し、敵との距離を一定に保ちながら峡谷まで軍を退却させる。そこで一気に反転して、反撃にでるということで良いかな?」
「は、はい。そうです」
「・・・・・・一刀くん。あの子は大丈夫かい?」
私は少し驚いている士元殿に微笑む。しかし、すぐに表情を引き締めると、一刀くんに助けた少女の事を訊ねた。
「あの子のことなら安心してください。あの街の町長さんに預けましたので」
「そうか。なら安心だな」
「ですが・・・、あの子の話だと、まだ砦にはあの子の姉を含む十数人の少女たちが囚われているらしいです」
一刀くんは苦渋の表情で、砦の方向を見つめる。
私は意識を砦方向に向けた。
しかし、砦内の賊たちの気配が邪魔をして、少女たちの気配が読み取れない。
「一刀くん・・・、砦内にいる賊をほぼ全員、外に連れ出すことはできるかい?」
「可能です。着の身着のままの私たちの軍に対して、黄巾党は最終的に全員で攻撃を仕掛けてくる可能性が高いです」
私の質問に答えたのは、一刀くんではなく士元殿だった。
視線を向けると、士元殿が真剣な目で私を見つめていた。
どうやら士元殿は私の考えが分かったようだ。
いや、最初っからそのことも念頭においていたというのが正解か。
「政也さん、まさか!?」
一刀くんも私の考えが分かったのか、驚きの表情で見つめてきた。
「俺たちが黄巾党を引き付けている間に、砦内に侵入して囚われている少女たちを救出するつもりですか!?」
「ええ!?」
一刀くんの言葉に驚いた玄徳殿も私を見つめる。
私は肯定の意味で微笑むと、一刀くんの肩をポンと叩いた。
「な、何も政也さんがやらなくても」
「この作戦で重要なのは、いかに敵全員を砦の外に引きずり出すかだ。そのためには、君、玄徳殿、雲長殿、益徳殿、子龍殿、士元殿、孔明殿のどれらも欠けてはいけない。だから、ここは部外者の私がいくほうがいい」
納得しきれていない一刀くんの肩を、もう一度ポンと叩いた私は、困惑する玄徳殿と真剣な目で見つめる士元殿に微笑むと、その場を後にした。
そして後衛の部隊で指揮している子龍殿と孔明殿や先陣で指揮している雲長殿や益徳殿にも同じように話した私は、砦内に侵入するべく行動を開始した。
*****
「・・・・・・・・・・・・」
黄巾党との戦闘が開始されてから四半刻が経った。
私は二つの戦力の衝突による混乱に乗じて砦内に侵入し、ある場所を目指していた。
敵のほとんどが砦の入り口に集結しているが、まだ敵が数百人残っているため敵に見つからないよう息を殺して歩く。
『おい。牢の見張りは三人を残して集合しろだとさ! 圧倒的な数で蹴散らしてやるという、頭のお達しだ』
『分かった。残るのは・・・、お前たち三人で良いな?』
『ああ。さっさと片付けてこいよ』
『分かってるさ。今夜はお楽しみなんだからな! ぐはははは』
角を曲った先から十名の男たちの話し声が聞こえてきたため、私は物陰に隠れて様子をうかがった。
意識を集中すると、十数名の気配があった。
どうやら、この先に牢屋があるらしい。
(ん? 二人だけ違う場所にいる?)
その気配のうち、二つの気配が別々に感じられるのに気付いた。
それは他のものと全く違っていた。
(一つは非常に強い気配を感じるが、もう一つは・・・・・・)
『『『『『うぉおおおおおおおおおおっ!!』』』』』
その時、砦の外から大きい雄叫びが響いてきた。
考えを中断して意識を集中すると、先にいる三名以外の敵全員が、後退していく一刀くん達を追っていくところだった。
(策は重畳か。なら私も行動を開始するかな)
私は呼吸を整えると、白狐を抜刀する。
そして、見張りの三人の前へと歩みでて、彼らが得物を手に取る前に素早く間合いを詰め、袈裟懸けに斬りつけた。
『『『『『・・・・・・・・・・・・』』』』』
見張りの男たちが絶命したのを確認し、白狐を鞘におさめる。
顔を上げて少女たちの様子を伺う。彼女らは目を点にして私を見ていた。
私は微笑むと、殺した男の一人が腰に下げていた鍵束を拾い上げ、牢の鍵を開けた。
「助けにきたよ。大丈夫だったかい?」
我に返った少女たちは、歓声を上げて牢から出始める。しかし、すぐに奥にある扉を見つめて黙ってしまった。
少女たちをその場に待機させ、扉を開けて中に足を踏み入れた。
「あっら~? 助けに来てくれたのかしら~?」
「ああ」
そこには筋肉隆々で巨躯の人物がいた。
「怪我はしていないかい?」
「大丈夫よ。けど奥の子はちょっと危険かもしれないわね」
牢の鍵を開けながら指差した方向に顔を向けると、そこには頑丈そうな扉があった。
その扉の奥には、弱々しい気配を発している者がいる。
扉の鍵を開け、意を決して中を覗き込む。
(なっ・・・・・・)
あまりに悲惨な光景に絶句してしまった。
(って、突っ立ってる場合じゃない!)
すぐに我に返った私は、裸でうつ伏せに倒れている少女を抱きかかえる。そして、外に向かって何か拭くものと羽織るものがないかと怒鳴った。
直後、隣にいた巨躯の人物が大きな布を持って入ってきた。
「・・・・・・あなたはこの娘に何があったのか知っているようだね?」
「ええ。その子は、妹さんを連中の隙をついて逃がしたの。だけど、それが連中にばれて、お仕置きだと言って、よってたかって――」
私は布を受け取って、少女の身体を丁寧に拭いていく。
その間、少女の身に起きたことを訊いた。
それは腸わたが煮えくり返るようなことだった。しかし、少女の名誉に関わるため説明を省くことにする。
「その子、大丈夫かしら?」
「身体の傷は大したことはない。だが、心の傷は・・・・・・」
「そうね。あ、名前を言い忘れていたわ。わたしは貂蝉。踊り子よ」
「そ、そうか。ふぅ・・・、貂蝉。この娘とあの娘たちを頼めるかな? 私は行かねばならないところができたのでね」
その名前に、一瞬呆気にとられる。しかし、すぐに表情を引き締めると、少女に服を着せて貂蝉に預けた。貂蝉は、受け取った少女を抱きかかえながら、じっと私の目を見つめてから笑顔になって頷く。
「分かったわ。気をつけてちょうだいね」
「ああ、頼むよ」
私もつられて微笑むと、踵を返して扉の外にいる少女たちに貂蝉と大広間で待つように伝える。
「白狐行くぞ。あいつらを叩きのめす」
≪ああ。存分に我を使え、政也≫
「ふっ。頼もしい相棒だ」
その後、俺は、砦を出て義勇軍と黄巾党がいる峡谷に向かった。
(お前たちは俺を本気で怒らせた。あの少女に対して行ったすべての報いを受けろ、グズども・・・)
**********
(あら? あの子、雰囲気が変わったわ。内に秘めるはなんとやらかしら? この外史は、いくつも存在する外史とは違う流れのようね。ご主人様とは違った結末を辿る気がするわ)
砦を後にする政也を少女たちと見つめながら、貂蝉は一刀を追って行きついた外史が、今までとは違うことを感じながら、この外史の行く末を考えていくのだった。
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