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翌日になってもコーヒーマシンは使えなかった。
「修理はまだか」
「いいじゃないですか。上でいれてくれば」
ピヨは週刊誌から目を離さない。口振りもぞんざいだ。先輩の愚痴につきあうよりアイドルの不倫の記事のほうが大事か。
時計を見た。始業時間の一時間前。同じ部署で出社している社員は橋場とピヨだけである。
熱いコーヒーを飲みながらゆったりと経済新聞を読むつもりだったが、ピヨが目障りだ。だいたい、なんでいるんだ。こんなに早く。
「面倒くさいじゃないか」
「アラフォーになると足腰が弱くなるんですかねえ。運動だと思えばいいじゃないですか。あー……、ラブラブじゃねーか、ちくしょー」
珍しくイラついているピヨにはそれ以上かまわず、第一営業部の給湯室に向かった。
誰もいなかった。カプセル持参とはいえ、第一営業部のマシンを断りなく使うのは少々気が咎める。誰か来るまで待つか。いや、誰か来る前に用を済ませて退散しよう。
「ん?」
シャツに違和感があった。
またか。抜け毛が肩甲骨をくすぐっているのだ。抜けるのはもっと老いてからでいいのに。忍耐のない毛根だ。
手探りしたが髪の毛らしいものはない。トイレに行こうと一歩踏み出したが思い直す。始業一時間前だ。だれもいないのだからかまうことはない。シャツのボタンをはずした。
「ないないない。……まあいいか」
断り無く勝手に抜けたやつは見つからなかったが、シャツをはたいたし、どこかに吹き飛んだと思うことにしよう。
「ん?」
シャツに片腕を通したところで、今度は下半身に違和感があった。パンツの中がむず痒い。
しまった。パンツの中に髪の毛が侵入したんだ。
ベルトをはずし、パンツごと一気にボトムスを足首まで下げる。
パンツの内側には見当たらない。とすると肌についたままなのだ。尻回りを手で叩くと、ぺちぺちと間抜けな音が狭い室内に響いた。汗ばんだ肌に髪の毛がひっついているのかもしれない。ぺちぺちは大きく、執拗に響く。
「んんん?」
靴下の中に違和感がある。くすぐったい。こんな隘路に逃げ込んだのか。だがとうとう追い詰めた。逃がすものか。
ボトムスに隠れて両足のつま先しか見えないが、いっぺんに引き抜いて退路を断ってやろう。腰をかがめて両手をそれぞれの靴下のつま先をつまんだそのとき。
「きゃッ……」
給湯室の入口からバタバタと走り去って行くような足音が聞こえた。
だれかに見られたのだ。給湯室で限りなく全裸に近い格好をしていたところを。
誤解だ、と叫ぼうとしたが舌がからんだ。追いかけようとしたが足首のボトムスが枷になって倒れた。ゴツっと重い音がした。




