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 パンツの中がちくちくする。何度か座り直したが、椅子がキーキー鳴くだけで改善しない。手を突っ込みたくてたまらない。

「おい、橋場くん。資料を……どこ行くんだ」

 部長が眉をひそめる。それも当然だ。新しい取引先となる会社でプレゼン中なのだから。

「すみません。すぐに戻ります」

「なに?」

「親が危篤でして。電話で現状を確認してきます」

「そりゃ、大変だな」

 スマホをかざすようにして部屋を出た。同情をひくような嘘をつくのは後ろめたいが、このままではプレゼンに集中できない。取引先もさすがに嫌な顔は見せなかった。

 電話できる場所を探すふりをしてトイレに駆け込んだ。ベルトを外し、隙間から手を入れた。

「ああ、くそうっ!」

 違和感の元はパンツの洗濯表示タグだった。いつもは気にならないのに、一度気になると頭から抜けない。引っ張って取れるものではない。はさみも持ち歩いていない。少なくとも帰社するまでちくちくから逃れられない。拷問のようだと感じた。

「そうだ」

 いいことを思いついた。パンツを裏表逆に履けばいいのだ。

 若干の不衛生には目をつぶろう。ノーパンよりはマシだ。橋場が愛用しているボクサーパンツは内側がコットンで外側がさらさらとした生地でできている。裏返すと股間が滑らかでひんやりと清涼だった。


 プレゼンの感触は悪くなかった、と思う。

「奇跡的に持ち直したそうです。離席してすみませんでした」

 上司も取引先もそれぞれが老親を思い浮かべたのか、柔らかな笑みで優しくうなづいてくれた。普段は意識の片隅にも存在しない高齢の両親は、他人から気遣われるときだけ脳内で美化している。

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