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翌日、終業時刻をすぎたころに会社に来るように連絡があった。帰宅しようとする人並みに逆らって歩く。
会議室には営業部の部長二人、人事部長、朝倉、局山、ピヨがいた。うちの部長は橋場の頭を見てぎょっとなった。あちらの部長と人事部長は険しい顔を崩さない。朝倉は前日の深酒と寝不足でゾンビのような面相になっている。朝までつきあったのだろう局山もだ。ピヨだけは橋場に軽く手を振って笑った。
「申し訳ありませんでした」
橋場は腰を折って謝罪の意を表す。その動作は無毛の頭を印象づけたろう。
「どうやら反省しているようですね」
人事部長の眼差しが橋場を労るように変化した。
「ストーカーについては朝倉さんのほうから橋場さんではないと聞いてるんでね。朝倉君も退職を撤回してね、働き続けたいと言ってくれたし、会社としては望ましい方向になったのだよ。まま、橋場さん、まずは座って」
ちらりと朝倉を見た。朝倉は目を伏せている。生気のないようすが心配だった。
「朝倉さん、大丈夫?」
「橋場君、君ねえ、人のこと心配できる立場じゃないだろ」
「はい……」
席に着いてからは橋場に都合がいい方向に話が進んだ。朝倉に害意を持っていないこと、意図的に脱いだのではなく事故だったことは認めてもらえたのだ。
「ほああああふううううう」
大きな溜息が漏れた。
「あとは橋場君本人の希望を聞きたい」
「はい?」
「君が社内で全裸になった事実は変わらないんだからね。社員は全員知ってるんだよ。支店に異動したいかい?」
地方支店に転勤したところで「裸族」の蔑称は追いかけてくるだろう。だが身軽なひとり身、肩書きなしのお荷物中年社員である橋場を左遷するには絶好の機会なのだろう。部長は薄く微笑んでいる。本心では辞めてもらいたい、せめて異動してもらいたいといったところか。異議はなかった。
頷こうとした橋場の横で、ピヨが首を振った。
「先輩は厚顔無恥なんで、全然まったく気にしませんよ」
「……ピヨ」
「それに先輩がいなくなったら僕のやる気が削れます。ポンコツを横目に心中で罵りながら頑張るのが僕のスタイルなんで。もし先輩が異動するなら、僕も先輩の左遷先に異動願い出していいっすか」
「いや、それは困るよ……。日代鳥君は主戦力だから」
三人の部長が頷きあう。ピヨは実は仕事のできる後輩だったのだと橋場はこの時初めて知った。
俺は他人に興味がなさすぎる。仕事に対する誠意も欠けている。どこに左遷になっても、どうせ役立たずは変わらない。正直どうでもいいとさえ思っていた。強いて言えば引っ越しが面倒なくらいだ。
今もピヨの有能さよりも尻の割れ目を流れおりる汗が気になるくらいだ。股間のものは右側にひっついていて、イライラする。
汗をトラウザーの生地に吸い込ませるためにもぞもぞと動かして、顔だけは殊勝を演じる。
「残れるなら残りたいです。ですがお願いできる立場ではないと思ってます。ですが、朝倉……さんには俺が残ったらすごく目障りですよね。飛ばされるのは仕方ないと思います」
「あー、朝倉君はね」
人事部長はにっこりと微笑んだ。
「海外支社に異動することになったんだ。入社時の本人の希望でもあったんだよね」
朝倉はそこで視線をあげた。少しむくんだまぶたの下で、誇らしげな瞳がまっすぐ橋場に向けられた。妄想でおかしくなった人間の目ではなかった。プライドが煌めいている。だがそれは一瞬だった。
朝倉の双眸の奥に、自分に向けられた哀れみと侮蔑を感じ取った。おしゃべりな瞳だ。可哀想な男、醜い生き物、自分はずっとマシな人間だ、と朝倉は無言で見下している。
橋場はほっと安堵した。よかったと思った。
朝倉は立ち直ろうとしている。橋場を踏みつけにして。こんな駄目な人間にならないように、奮い立たせているのだ。
「俺みたいなんでも役に立つことはあるんだなあ」
橋場が笑むと、ピヨは露骨に顔を歪めた。




