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34.英雄の姿

エリの勲章の授与式は軌道リング上の第1艦隊総司令部のあるセクタで行なわれる事になった。

前回の記者会見はテロを警戒し月軌道上の第1艦隊泊地で行なわれたが、今回は宇宙軍総指令官や第1艦隊司令官含め幹部をはじめ警察艦隊からも多数出席するため出来るだけ広い場所が必要だったからだ、会場のあるセクタはゆっくり回転するように作られていて地球の2/3程度の人工重力があるというのも選定のポイントだった。

当然テロに対しては最大限の警備がなされていて軌道リング内の警備はもちろん周辺の宙域にも数隻の駆逐艦が配置され常に警戒している念の入れようである

「サラちゃん何かおかしなとこ無い?」

艦長就任や前回の記者会見のときに着た礼装より一段上の第一種礼装に身を包んだエリがサラに聞く、この礼装は通常ならほぼ着る事自体が無い最上級の礼服なので装備管理課からレンタルした物だ、もちろんエリも着るのは初めてである、通常は勲章授与式ですら着る事の無い国賓クラスを出迎える時ぐらいしか着ない服だが非常にデザインが格好いいので宣伝効果を狙って指定されたらしい

「大丈夫です良く似合ってますよ式典の手順は覚えていますか?」

あたふたしているエリとは対照的にサラは落ち着いて準備を進めている

「た、たぶん大丈夫、えっと名前を呼ばれたらまず中央の台まで歩いて...」

エリは確認するように小声でブツブツと手順を繰り返している

「そろそろ宇宙軍指令の演説が終わりますよ、こっちの扉の前で待機してください」

サラはエリの手をを引っ張ると式典会場のドアの前に一人で立たせエリの服装の最終チェックをすると自分は通路の端の方に移動する、会場内の壇上では地球連邦宇宙軍総司令官がエリの功績を称えるスピーチをしている、この話が終わった後がエリの出番だ

「地球連邦宇宙軍第1艦隊警備部所属、駆逐艦リオグランデ艦長エリキシカワ少佐」

第1艦隊指令がエリの名前を呼ぶと立っていた正面のドアが開く

広大な会場には宇宙軍装司令官や宇宙軍の幹部というエリの階級では顔を合わせる事すらない人達だけでなく警察艦隊幹部や一般の兵士などを含めると数百人が出席していた

エリはビクッとして姿勢を正すと艦隊指令官の立っている壇上まで歩いていった

緊張のあまりそこから先の行動はエリはあまり覚えていない、ただ手順を間違えないように必死だったのだけは覚えている

壇上で宇宙軍総司令官に勲章を授与されると会場の出席者達から万雷の拍手が起こった、宇宙軍総司令官と握手をしたエリの姿を多数の記者が取り囲んで撮影する、エリはひたすら笑顔で撮影に応じる

撮影が終わると今度はエリのスピーチの時間である、エリはポケットから折りたたまれたスピーチ原稿を取り出す、軍の広報部の用意した原稿があったが内容があまりにも前時代的だったのでサラが新たに内容を手直しした物だ

先ほどまでの拍手が嘘のように静まり返る会場、エリは静かな声で原稿読んだ、そしてまた万来の拍手の中で授与式は終了した、エリにとっては全ては夢の中の出来事のように実感が無い、式典を終えふわふわとした足取りで会場の外に出るとサラが待っていた

「お疲れ様です」

サラがねぎらいの言葉をかける、それで少しホッとしたエリだったが

「次は報道関係者の記者会見です」

「えっ!?」

次の会場にエリをサラは引っ張っていった、スケジュールが押しているらしい

「次は宇宙軍の機関紙の取材です」

「ええっ!?」

軍の広報官と対談形式の取材を受ける

「次は週刊誌の取材と写真撮影です」

「えええっ!?!?」

週刊誌の記者と対談後スタジオで写真撮影が始まり、カメラマンに言われるまま礼服姿のエリは様々なポーズで写真を撮られる

「次は...」

次々に取材や対談などが組まれていて次々に場所を移動する、この時ばかりはサラが鬼に見えたが、一日で全て済ませエリの負担を減らそうというサラなりの配慮らしい、その後もエリはサラに振り回され結局全てのスケジュールが終わったのは式典が終わって10時間後だった

エリはフラフラになりながらレンタルした礼服を装備管理課に返却し士官用宿舎に向かう

「サラちゃん酷いよこんな無茶なスケジュール入れて...」

涙目でサラに抗議するエリだったがサラの配慮もわかっているのでもちろん本気で言っている訳ではない

「申し訳ありません」

さすがに負担が大きかったと思ったのかサラは本当に申し訳なさそうに謝罪する

「まあ、一日で終わったからいいけどね、どのみち取材は受けないといけなかったんでしょ?」

そもそもこれだけの取材予定を一日に集約する方が各方面のスケジュール調整などで遥かに大変なはずである、サラの驚異的な事務処理や調整能力があってこそだ

「ええ、式典の数日前に軍幹部から取材を希望しているメディアのリストを渡されまして...最低限に絞ってはいるのですが、それでもこれだけの量になってしまって申し訳ありません」

絞ってこれだけあるって事はどんだけ取材依頼があったんだよ、とエリは思った

「本当に艦長には迷惑をかけてばかりですみません、私が至らないばかりにつらいい思いをしているのは艦長なのに...それに元はといえば私のせいで艦長は大変な目にあっているのに」

サラが小声で呟きながらどんどん悲しそうな顔になっていく、何か思いつめたような表情だった

「私何も迷惑なんて思ってないよ、逆にサラちゃんには助けてもらってばかりだし」

確かに元はと言えばサラが上級指揮官が全員戦死して敵に囲まれた危機的状況のアルバトロスの指揮をエリに押し付けたのがきっかけだったが、エリはその事をもう何とも思ってはいないし、今ではサラの事を本当に信頼できる良き友人だと思っている

「でも、私はあの時、艦長に対して卑怯な言い方をしました、本当に私はずるくて臆病で...」

「気にしなくていいのに、以前はそうかもしれないけど、今のサラちゃんは私のために頑張ってくれてる、それで十分、私はサラちゃんに出会えてよかったと思っているよ」

サラの思いつめた表情に何だか居たたまれない気持ちになってエリは話題を替える事にした

「あ、そういえばハイザー准尉から何か連絡あった?」

ドック入りしているリオグランデの事が気になっていたエリはサラにたずねる、

今日は博物館から接収した同型艦のブースターの取り付け作業をやっているはずだ

「ええ、1時間ほど前に連絡がありました4基のブースターの取り付けと配線接続が終了、これから出力調整に入るということでした」

サラが自分の携帯端末に送られてきていたハイザー准尉からの報告書の要点だけエリに伝える

「あはは、接収したブースターを博物館から持ってきたの昨日だよ?もうそんな段階なんだ...みんな張り切ってるなぁ本当にあの船が好きなんだね」

「ブースターが届いた時すごい嬉しそうでしたからね」

ブースターがドック内に搬入された時のクルー達の顔が浮かぶ

「まだ時間あるんだから、くれぐれも徹夜とか無茶しないように言っといて」

「了解です」

サラは敬礼すると上級士官用の宿舎に向かうサラを見送る

「あ、あの、エリさん!」

突然サラから名前で呼ばれ少し驚いた表情でエリが振り返る

「ん、なに?サラちゃん」

俯いていたサラがゆっくり顔を上げてエリの目を見つめる、いつになく真剣な目だった

「わ、私もう絶対に逃げませんから...これから誰が何と言おうと、どんな時でも絶対にエリさんの味方でいますから...命をかけてエリさんを守りますから...」

それだけ言うとサラは姿勢を正し再びエリに敬礼をした

「ありがとうサラちゃん、でもそんなに気負わなくていいよ、今までどおりよろしくね」

にっこり微笑むとエリはサラに敬礼して宿舎に向かっていく、サラはエリの姿が見えなくなるまで敬礼したまま見送った、


エリは部屋に戻りシャワーを浴びて一息つくと室内にあるテレビをつけた、ニュース番組はちょうど勲章の授与式の様子を映していた、

「うわぁ...本当に放送されてたんだ、なんか恥ずかしいな...」

あんまり目立つのは嫌だなとか考えながらテレビ放送を観ていると自分が登場してきた宇宙軍総司令官から勲章を授与される女性士官、ナレーションは地球の危機を救った英雄だとその女性士官の功績を褒め称える、女性士官は笑顔で総司令官と握手を交わす、映っているのは確かに自分の姿なのだが自分じゃない不思議な感覚、テレビに映っている自分はとても立派で完璧な人間に見える、これは誰だろう?自分がなにか自分と違う存在にされていく

(違う、これは私じゃない私はこんな立派な人間じゃない...)

英雄という偶像がどんどん大きくなっていく状況にエリは何か得体の知れない不安を感じて怖くなった

テレビの向こうでは誰もが自分を賞賛している、自分のことなんて何も知らない人達が勝手に英雄の理想像を作り上げている、この人達が本当の私を知ってしまったらこんなに賞賛するだろうか?失望してしまうのではないか?それとも騙されたと思って憎悪するのでは?あまりに本当の自分より大きくなりすぎてしまった英雄のイメージにたまらなく不安になる

(これから誰が何と言おうとどんな時でも絶対にエリさんの味方でいますから...)

ふとサラが言ってた言葉を思い出す、そうかサラはこの事を言っていたのだとエリは気がついた。

味方でいてくれる人がいる、それだけでとても頼もしい気持ちになる

「やっぱりサラちゃんには助けられてばかりだ...」

テレビの中の英雄の偶像を見ながらエリは呟いた

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