30.救難信号
30.救難信号
「ミサイル弾着まであと10秒…9・8・7…」
砲術長が最初に発射したミサイルの到達時間のカウントを始める、
「…3・2・1着弾」
砲術長のカウントがゼロになると最初のミサイルが爆発、数秒後に他の破片に到達したミサイルが次々に爆発していった。
リオグランデが破片を排除を開始して3時間が過ぎていた
リオグランデのAIの考えた迎撃の手順は、まず迎撃対象とした1136個の破片のうち、直径3m以上の大きな物とそれ以下の物に分ける、3m以上の大きな破片は遠距離でのミサイルによる迎撃で軌道をずらす事で対応する、3m未満の物は主砲による砲撃で蒸発させる、さらに1m以下の小破片はレールガンや小型のレーザー砲にて対応すると言うものだった。
それは481個の処理が終わり、3m未満の破片に向けて主砲が発射された直後だった。
「…何だこれ」
通信士がつぶやいた、彼の呟きは主砲発射直後に砲身の冷却が始まる一瞬の静寂の中で発せられたため、サラの耳にも届いた
「どうかしましたか?」
サラが通信士に尋ねる
「…あ、いえ、何も、大した事では… 」
「判断はこちらでします、どんな些細な事でも報告して下さい」
通信士は面倒臭そうに、本当に大した事ではないんですがと前置きして報告した
「飛来する破片の中に数分前から電波を出している物があるんですよ、こちらの担当宙域ではないのですが…」
通信士の報告を途中まで聞いたサラは、まるで悲鳴のような声を上げた
「ただちに該当する破片の出している電波の解析をして下さい!観測員はただちに破片の座標と軌道計算を!」
サラの命令で航法士官はすぐに座標の特定と軌道計算を始めた
「え?な、なにを…」
「馬鹿野郎!なんで早く報告しねえんだ!」
突然の展開に意味がわからず、うろたえる通信士官をハイザー准尉が怒鳴りつけた
「駆逐艦ドニエプルが担当する宙域か…あちらは大気圏突入時に燃え尽きそうな物は、サイズに関係なく迎撃の対象から外しているらしいですな」
正面のスクリーンに大きく表示されている地球周辺の概念図に、電波を出している破片の位置が目立つ赤色で表示された、かなり地球表面に接近している。
「映像を出して下さい」
リオグランデの光学観測装置が撮った映像がモニターに映し出される、白い球形の物体で小さなハッチとアンテナが付いていた、
「これは、旧式の脱出用ポッドです、恐らくノーチラスの物でしょう」
「艦長が最初に送ってきた通信の映像を出して下さい」
ノーチラス艦内からエリが送って来た映像がモニターに映し出される、エリが通信を送って来た部屋の窓から見える格納庫の隅を拡大すると白い球形の脱出ポッドが見えた
「同じ物ですな、調査する価値はあります。おい、通信の解析は出来たか?」
サラに感想を述べたあとハイザー准尉は通信士に質問する
「電波自体はただのノイズです、頻繁に途切れるので接触不良では…」
「電波の途切れ方に規則性はあるか?」
通信士の報告をさえぎって、ハイザー准尉が質問する
「え?…」
質問の意味が理解出来ていない通信士に、ハイザー准尉が声をあげる
「モールスじゃねぇかって聞いてんだ!」
そう言われて聞き直すとモールス信号特有のリズムがある
「え、あっ、ハイ!モールスです!い、今読み取りを自動解析にしてモニターに出します!」
「…ったく、接触不良かモールス信号じゃないかぐらい、すぐに気がつかねぇのか?何年通信やってんだ!」
ハイザー准尉はそう言ったものの、通信機器の信頼性が非常に高くなっているため、現在では通信専門課程でもモールス信号は初期課程で少し習う程度でしかない、通信士が忘れているのも無理はなかった。
しばらくしてモニターにモールス信号が自動翻訳され文章として表示される
(我、地球連邦第一艦隊所属、駆逐艦リオグランデ艦長エリ・キシカワ、至急救助求ム…)
モールスの内容はこの内容の繰り返しだった、しかしモールス信号の間隔が毎回微妙なズレがあるので自動送信ではない、電波を飛ばせる機器をなんらかの方法で修理したが、電波を発信するのがやっとで、手動でスイッチ操作のオンとオフを繰り返して信号を送っているといったところだろう。
「艦長があのポッド内にいるとみて間違いありませんな、よくあの爆発の中で脱出出来たものです、救助を急ぎましょう」
脱出ポッドは地球に落下する軌道をとっている、このままでは高度と加速度からしてあと1時間程で大気の層にぶつかり高温になり燃え尽きてしまう
「付近に救助に向かえそうな艦艇はいますか?」
「現在ドニエプルが最も近い位置ですが脱出ポッドはドニエプルから遠ざかる軌道をとっているので、最も短時間で接触できる艦艇は本艦のみです」
「接触までの時間は約10分、他の艦艇は最短でも30分以上かかります」
「本艦が救助に向かいます、司令部に許可を取ってください」
通信士が司令部に救助許可をとる、返答が来るまでのわずか数分が永遠のように感じる
「司令部により返信、モニター出します」
(我が方に余剰戦力無し、救助は許可できない、破片の迎撃に専念せよ)
サラはモニターの表示を見て、艦長席の管制卓を両手で思い切り叩き叫んだ
「何でよ!何でダメなの!艦長は今もあそこで生きている、何で助けに行けないの!!」
敵の陽動で限界まで分散し、予備艦艇まで動員されていて、地球周辺の艦隊には戦闘艦艇はほとんどいない状況で、整備中だった船まで動員して散弾のように降り注ぐ破片を、文字どうり総力を挙げて迎撃している最中だ、旧式とはいえ正式な戦闘艦が貴重な状態なのは理解できる、しかし何故たった1人救出にすら行けないのか、悔しさで涙があふれてくる。
「あんた、何やってんの!早く助けに行け!」
突然回線にどこかで聞いた声が割り込んできた
サラがハッとして顔を上げると、中央のモニターにアルバトロスの艦橋にいると思われる、ドレーパー少佐の姿が映っていた、アルバトロスは現在こちらから2区画ほど先で破片の迎撃をしているはずである
「しかし破片の迎撃が…」
「この馬鹿!自分のところの艦長が死にかけてるのに、それどころじゃないでしょ!またあんたトラウマ増やしたいの?メソメソ泣いてる暇があったら早く救出に行け!」
その時、凄い剣幕でドレーパー少佐が喚いているモニター画面の横に、別のウインドウが現れて警察艦隊の制服を着た中年の男の姿が表示された
「こちら警察艦隊司令部だ、アルバトロスに告げる、現在リオグランデは警察艦隊の指揮下にある、貴艦に命令の権限は無い」
やり取りを聞いていた警察艦隊司令部がたまらず回線に割り込んできたらしい
「救える命を救わないのが警察の仕事ですか!?もしかしたら誰かに当たるかもしれない程度の破片の迎撃と、今すぐ行かないと確実に死ぬ人間の救出、どっちが大事か理解も出来ない無能が!」
警察艦隊司令の発言に頭にきたのか、ドレーパー少佐は声を荒げた、だが無能呼ばわりされて警察艦隊司令も黙ってはいられない。
「無能とは何だ!口を慎みたまえ、リオグランデが空けた穴から撃ち漏らした破片がもし人口密集地にでも落下してみろ、被害は1人ではすまんのだぞ!そんな事も君は想像出来ないのかね」
その発言がドレーパー少佐という火に油をそそいだ
「じゃあこっちがその穴を引き受けりゃいいんだろ!艦長、撃ちますよ、いいですね?」
ドレーパー少佐が振り向くと後ろの一段高い席に座って艦長らしい人物が弱々しく手を上げるのが見えた、どうやらアルバトロスを本当に仕切っているのは副長のドレーパー少佐だという噂は本当らしい。
「リオグランデとのデータリンク開始、目標座標確認後、全砲塔各個に射撃始め…」
射撃準備を始めたアルバトロスに警察艦隊司令がうろたえる
「お、おいっ!何をする気だ?」
「撃てー!!」
ドレーパー少佐が命令した直後アルバトロスから発射された強力なビームがリオグランデの担当宙域の破片を3000km以上離れた距離から蒸発させた、何と主砲の発射だった、様々な人工衛星や民間船が航行する静止軌道の内側で、強力な巡洋艦クラス以上の艦艇の主砲発射は、非常に危険を伴うため原則として禁止されている。
「こんな低軌道で主砲発射とか正気か!貴様らどれだけ規則を無視しているのか解っているのか!」
「ちゃんと射線に何も入らないように配慮しているわよ、この非常事態に規則もちだして解って無いのはあんたの方でしょ!」
呆然とドレーパー少佐と警察艦隊司令とのやりとりを見ていたリオグランデの艦橋に別の通信が割り込んできた、中央のモニターにべつウインドウで表示されたのはアルバトロスの艦長だった
「サラ・アルメイダ中尉、聞こえているかね?私はアルバトロス艦長トム ガイヤー大佐だ」
サラは姿勢を正しアルバトロスの艦長に敬礼する、大佐とはセバストポリ要塞以来だった
「は、はいっ聞こえています、お久しぶりです大佐」
「挨拶はいいから、後は我々に任せて救助に行きたまえ」
サラも今すぐにでも救助に行きたい、しかし軍人である以上、命令には従わなければならない
「しかし命令が…」
そう言うサラにガイヤー大佐は答えた
「後は私が話をつける、いいから行きたまえ、これは命令だ」
「しかし…」
話をつけると言っても戦艦の艦長が独断でできるものではない、独断専行で責任を追及されかねない判断だ。
「なに、もうすぐ私は退役だ、何の実績も無く軍歴が長いだけで今の地位にいる軍人の事など、君が気にする必要は無い、いいから早く行きたまえ」
そう言うとガイヤー大佐は微笑んでみせた、責任は自分が取るから好きにしろと言ってくれているのだ、ありがたくて熱いものがこみ上げてくる
「ありがとうございます!」
サラがもう一度敬礼をすると、ガイヤー大佐は答礼をして「健闘を祈る」と一言だけ言って通信を切った、敬礼をしていたサラは手を下ろすと、艦橋の乗員たちに振り返り指示を出した。
「本艦はこれより現宙域を離れ艦長の救助に向かう」
リオグランデの艦橋に歓声が上がる、サラが士官学校を出て以来初めてする大きな決断だった。




