29.ノーチラスの最後
それは一瞬の出来事だった、ノーチラスから無照準で発射されたミサイルは、ミサイル自体が持つセンサーで独自に目標を求めて迷走、そのうちの1発がノーチラスの付近を回収信号を出しながら遠ざかりつつあったギャラルホルンを捕捉して命中、次の瞬間搭載されていた130トンの高性能爆薬が爆発した、同時に爆薬の周りに充填された液体金属が一瞬で気化して真空の宇宙空間に衝撃波を伝える、その衝撃波はノーチラスの発射したミサイルを全て吹き飛ばし、ミサイル発射口内部で次の発射を待つミサイルも破壊、その爆発は次々と広がり、あっという間にノーチラスは爆炎に包まれた。
「衝撃波来ます」
「艦を衝撃波に対して正対させろ!」
リオグランデはハイザー准尉の指示で直ちに艦の投影面積が最小になる方向に正対させた
「衝撃波が来るぞ、総員衝撃に備えろ!」
艦橋にいる全員が座席のベルトのチェックをして衝撃に備える中で、モニターに映る光景にただ呆然としているサラを見てハイザー准尉がサラの肩を掴んで怒鳴った
「何やってんだ!あんた指揮官だろ!指揮官なら今、自分に出来る事をしろ!」
次の瞬間300km離れたリオグランデにも衝撃波が到達、船体を激しく揺らす
体を固定していなかったハイザー准尉とサラは、衝撃で艦橋の壁面にふきとばされた
幸い壁面には薄いクッションが貼り付けられているため怪我はなかったが、衝撃自体はかなりのもので2人とも痛い思いをする事になった
「痛ぇ…300kmも離れていてこれかよ、とんでもねぇ威力だな」
爆発の衝撃波は放射状に広がるにつれて拡散していくため、ある程度離れていれば衝撃波は急速に減衰するのだが、300km離れていてもこれだけの衝撃波が伝わる事にハイザー准尉は驚きを隠せなかった、広域破壊弾頭というのは伊達ではないらしい。
「艦の損傷を報告」
衝撃で少し冷静さをとりもどしたサラが指示を出す
「外部に損傷はありません」
「ノーチラスからの破片の密度が低い位置に遷移して下さい、避けられない破片はレーザー砲で処理、大きな物はレールガンやミサイルでの処理を許可します」
サラは当面の指示を出すとノーチラスの方を確認した、対レーダー処理が施されていた外壁はほとんど吹き飛び、強固な装甲で覆われたバイタルパートの内部まで破壊された惨状がモニターに映っていた、ここまで損傷していると、内部の原子炉もほぼ確実に深刻なダメージを受けているだろう、事実ノーチラスからの放射線の量が相当な値になっていた。
もしエリが、この中で爆発の衝撃から奇跡的に生き残っていたとしても、この放射線量ではまず助からない。
「副長、艦隊司令部からです」
呆然とするサラに通信士官が報告が入った
「内容は?」
「現在、戦艦アルバトロスと工作艦シアトルがこちらに向かってるそうです、到着予定は約2時間後、リオグランデはアルバトロスの到着後、ノーチラスの監視任務を同艦に引き継ぎ、その後は軌道リングに飛来するデブリの処理に当たれ、以上です」
サラは黙って報告を聞いている、握り締めた拳が震えていた。
(遅すぎる、今更来てももう遅い…)
アルバトロスはドレーパー少佐が副長を務める艦だ、単艦で駆け付けている事を考えれば、可能な限りの戦力と時間を割いて救援に来た事はサラにも理解できる、だがもしあと3時間早く来てくれれば、こんな結果にならなかったかもしれない、そう思うと悔しくてならなかった。
アルバトロスが到着するまでの2時間、僅かな可能性にかけてサラは必死捜索した、しかし大量の破片以外は何も発見出来なかった。
2時間後、到着したリオグランデに任務を引き継いだサラは軌道リング周辺の指定された軌道に進路をとった、ドレーパー少佐とは特に会話はなく事務的なやり取りをしただけだった、彼女なりにサラに気を遣っているようだった。
途中リオグランデは艦隊司令部が派遣した補給艦と合流、ミサイルやレールガンの砲弾を補給した、2日で破片が地球の周辺に到達する為、移動しながらの非常に忙しい補給になったが、サラはそんな仕事を猛烈にこなした、エリが生きている可能性は限りなく低い、この事実を今は忘れたかった、そうでないと心が折れてしまいそうだったからだ。
飛来する破片に先回りして所定の位置に到着すると軌道リング周辺は大騒ぎになっていた
軌道リング上にデブリ対策に設置されたレーザー砲やレールガンが、大量に降りかかるノーチラスからの破片を排除するため常に発砲を繰り返していたが、破片の量があまりに多いためすべてに対応が出来ず、起動リングに衝突する軌道にある破片以外は、事実上無視されている状態だった。
「あと10時間もすれば地上では盛大に流れ星が舞うことにるでしょうな」
ハイザー准尉が率直な感想を述べる、爆発の規模に対して破片が多過ぎる、エリがノーチラス艦内での移動を著しく制限された理由の一つに、通路内に大量の廃材が詰められているというのもあった、その時は溶接された装甲シャッターなどと同様に、単に侵入者をバイタルパートに入れないようにする為のバリケードだと思っていたが、今に思えばこれも恐らくは ノーチラスが破壊される可能性も考えて、敵が行った工作だったのだろう、現に破壊されたノーチラスの船体からは、まるで散弾のように破片が地球の表面に降り注ごうとしていた。
「所定の軌道に遷移完了しました」
航海長からの報告を聞いたサラは、艦橋の乗員にこれからの行動の説明を始めた。
「我々に与えられた新たな任務は、地球に落下する軌道の破片の中から、燃え尽きずに地表に落下する可能性が高い質量を持つ破片を選択し排除する事です、本艦はこれより現在の軌道上から頂角60度の範囲の飛来物を担当します、武器の使用制限はありませんが、射線上に他の施設や船舶の入る事のないように注意してください」
サラの説明が終わると、艦橋にいる乗員たちは破片迎撃の準備を始めた、リオグランデの乗員達はベテラン揃いのため、最低限の説明だけで自分がやるべき事を理解していた。
「破片の識別番号登録完了、各破片の軌道予測出ました、担当範囲で地表に落下する軌道の破片は2593、うち349が直径10cm以上の破片です」
砲術長が報告する、10cm以上を迎撃対象にしたのは、それ以下のサイズなら大気圏突入時に燃え尽きるだろうという判断からだ
「迎撃能力にまだ余裕があります、目標をもう少し増やしてもいいのでは?」
モニターに表示された破片の分布図と軌道予測を見て、ハイザー准尉がサラに意見具申する、軍艦の破片は装甲板など熱に強い素材もあるので、小さな物でも地表に燃え尽きずに落下する可能性があるからだ、サラも同意見だったので砲術長に命令を変更して伝える。
「迎撃対象を直径5cm以上のものに変更、脅威度が高い順から順次迎撃を始めて下さい」
「了解、直径5cm以上の迎撃対象は1136、脅威度の高い順に迎撃開始します」
砲術長が命令を復唱するとリオグランデは迎撃を開始した
まず大きな破片にはミサイルによる迎撃、次にまだ距離のある破片に対して主砲による迎撃が始まる、対象が回避行動や秘匿行動をすることの無いただの破片なので、完全に艦のAIによる自動迎撃だ、乗員は迎撃状況の監視や周辺の警戒以外、特に迎撃終了まですることが無い、艦橋中央のモニターに表示された破片の残りを示す数字がどんどん減っていくのをサラはただ見つめていた、涙が出て徐々にモニターの表示が見えなくなる、今まで気を張っていたのが少し緩み悲しみが込み上げてきたのだ、出来ることなら今は1人になりたい、思い切り声を上げ泣きたいのを堪え、サラはそっと涙を拭いた。




