27.新たな作戦
サラはモニターにノーチラスの構造図を表示させ、食い入るように見つめていた。
(きっと何か弱点があるはず…)
しばらく考えていたサラがハッとした、この方法ならノーチラスを無力化出来るかもしれない、しかし本当にそんな事が可能だろうか?
「何か思いつきましたか?」
考え込むサラの様子をみてハイザー准尉は声をかけた
サラは自分の思いつきに自信が持てなかった。
「無理だと思ったら反対します、良かったら話してもらえますか?」
ハイザー准尉から、話す前から駄目だとか思うな、と遠回しに言われてしまったサラは、艦橋中央のモニターにノーチラスの構造図を立体表示させた。
「ノーチラスのマストに設置されたレーダーやセンサーからの情報は、一旦ここで処理と評価をされて、その後艦内に分散配置されたコンピュータで処理されます」
サラがコンソールを操作するとノーチラスのマストから艦の中央部にある火器管制用の電算機室に至る配線が赤く表示された。
「という事は、マストを破壊しなくても、この電算機室に至る配線さえ断ち切る事が出来れば、ノーチラスのレーダーを無力化できるという事です」
サラの説明にハイザー准尉は首をひねる、確かにその通りだが、その配線は頑丈な装甲で覆われたバイタルパートの中だ、この配線を断ち切るのは対レーザー加工が施されたマストを破壊するよりはるかに困難だ
(一体どうやって…)
顎に手をあててノーチラスの構造図を見ながら考えていたハイザー准尉は、回線が通っている階層の直上にあるミサイルサイロに目をやる、そしてサラの意図に気付いてハッとした。
「まさか…ミサイルの発射口に…」
「ええ、他のミサイルサイロと違い、このサイロだけはバイタルパートの中にあります、そして同時に火器管制の配線が集中している部分もここだけです、ミサイル発射口が開いた瞬間にここを狙撃すれば、誘爆したミサイルで配線を断ち切る事ができるはずです」
強固な装甲で覆われたバイタルパートの中で、この程度の爆発ならば、バイタルパート外の区画にいる艦長に危険は無い。
ノーチラスの装甲を逆に防護壁に使うとは、全く無茶な事を考えるものだ、ハイザー准尉はそう思ったが、無茶でも不可能ではない、他に方法が無い以上やるしかなかった。
「…わかりました、副長を支持します、その案で行きましょう」
やるしかない、そう決定するとサラの行動は速かった。
「担当者はすぐにノーチラスのAIが、このミサイルを使用する条件をシミュレートして下さい、兵装担当は必要な武器の選定、砲術士官は狙撃の準備を進めて下さい」
サラは次々と各部署に指示を出す、しかし一番重要なのはノーチラスの姿勢と正確な位置を伝えるエリとの通信だ。
「ノーチラスとの回線は?」
「まだ繋がっているはずです」
通信士官から答えを聞くとサラはマイクを手に取ってエリに呼びかけた
「こちらリオグランデ、艦長応答して下さい」
だがノーチラスからは反応がない、まさか通信自体を切ってしまったのだろうか?最悪の考えが頭をよぎるが、諦めるわけにはいかない、リオグランデの艦橋では、何度も何度もエリを呼ぶサラの声が響いていた。
その頃、ノーチラスの艦内では、エリが部屋にひとつだけある小さな観測窓から外を眺めていた、ノーチラスはゆっくりと自転しているため、窓の端から地球が移動して見えた、最初の通信の時よりかなり大きく見える、すでに月軌道の内側に入っているのだろう、その地球からのミサイルが到達するまで、あと4時間…
エリはあの星で暮らした日々を振り返る、事故で死んだ両親の事、苦労して自分を通信省の教育課程まで出してくれた祖父母の事、そして兄弟や親しい友人達、今の自分を作ってくれた掛け替えのない人達が住む地球は、本当に美しく思えた。
「綺麗…」
小さな窓いっぱいに見える地球に手を伸ばす、もう手が届かない故郷の星。
「帰りたい…もう一度あの星に…」
もうすぐ誰にも会えなくなる、そう思うと、無性に寂しさが込み上げてくる、エリは子供のように声を上げて泣いた。
(こらぁ!聞いてんのか!さっさと返事しろー!!)
突然レシーバーから聞こえてきた大声に、エリはビクッと体を震わせた。
「えっ?何?サラちゃん?」
聞こえてきたのは確かにサラの声だったが、普段の彼女からは想像もできない言葉使いに、エリは泣くのも忘れて驚いた。
一方、リオグランデの艦橋にいる乗員も、普段は全く言葉を崩さないサラの突然の大声に驚いて、サラの方を一斉に振り向いていた。
サラは、さっきまで返事のないエリに呼び掛け続けていたマイクを握り締めたまま、艦長席の管制卓に突っ伏していた。
「お願い、返事してよぉ…」
サラは涙声でつぶやく
(…サラちゃん?)
恐る恐るたずねるようなエリの声が艦橋内に聞こえてきた、突っ伏していたサラがすぐに顔を上げた、少し遅れて正面のモニターにエリの姿が表示される。
「艦長!よかった…新しい救出作戦を考えました、許可をお願いします」
エリはすこし驚いたような表情を見せると、すぐに笑顔になってサラに言った
「わかりました作戦内容を説明して下さい」
エリはサラからの説明を聞き、狙撃が不可能な場合は何があろうと撤退するという条件付きで作戦を許可した。
その後エリの観測によって得られたノーチラスの正確な座標と姿勢、船体の自転方向と速度などの情報が伝えられ、その情報を元にノーチラスのAIがミサイルサイロを使用する攻撃パターンのシミュレート結果が出され、その結果から、作戦開始時間はUTC1437時、今から約27分後と決定された。
「作戦準備完了です」
サラがモニターに映ったエリに報告する、ノーチラスはゆっくりと自転しているため、あと15分程で通信に使っているビーコンのアンテナが船体の反対側に向いてしまうので、しばらくリオグランデとは通信不能になる
「これから私のために作戦を行なう皆さん、ありがとうございます、この様に危険な作戦を行う事態を招いてしまったのは、すべて私の責任です、申し訳ありません」
モニター越しにエリは艦橋内の乗員に頭を下げた
士官学校を出ていないエリは、士官としての振る舞いが身についていない、そんな姿に艦橋内のベテラン達は苦笑する。
「あとは我々に任せて悠然としていて下さい」
ハイザー准尉が応える、ほかのベテラン達もほぼ同じ考えだった。
エリはその言葉に笑顔で応えると、次はサラに向かって言った
「作戦遂行が難しい場合は、無理をせず安全を確保する事を最優先で行動して下さい」
「いえ、必ず助けます、狙撃が不可能でも必ず何か別の方法を考えて見せます、だから艦長も決して諦めないと約束して下さい」
エリの言葉に、サラは真剣な顔で応えた、強い決意を固めたサラの表情に、エリは少し驚いた表情を見せたが、すぐ笑顔で応える。
「ありがとう、サラちゃん、絶対に諦めないから安心して」
そう言いながら、誰かの代わりにあっさり命を捨ててしまいそうなエリを見ていると、だんだん不安になっていくサラだった。




