25.和解
ノーチラスの破壊命令を受けたリオグランデは、対艦ミサイルを搭載していない事を口実に、早急な撃沈は不可能と返答することにした。
これで少し時間が稼げる、それまでにエリを救出しなければならない。
「艦隊司令部からの新たな命令は、再びノーチラスの監視を続行せよです」
通信士官が艦長席に座るサラに、司令部からの命令を報告する。
「要請していた、応援の艦隊は?」
「却下されました、どうやら艦隊の再編成すら難しい状態のようです。現在、月は地球の向こう側にあるので、月面の基地からの砲撃は不可能なため、地球の基地からのミサイル攻撃を検討中だそうです」
通信士官が司令部からの新たな命令を報告する、月面には大規模な高出力レーザーや、長射程のビーム兵器などをそなえた砲台群があるが、現在の位置は地球の後ろに隠れる位置にあるため撃つことは出来ない、他には月軌道上に点在する無人砲台があるが、リオグランデの主砲よりも少し威力が高い程度なので、現在の戦艦ではありえないほど分厚い装甲で覆われた、戦艦のバイタルパートを貫く事は出来ない、それならば大型のミサイルの爆発で、破壊もしくは進路を変えてしまおう、という作戦のようだ。
「恐らく、このコースも偶然ではなく、綿密に検討された物でしょう、本当に周到に準備されていますな」
ハイザー准尉の意見に、艦長席のサラがため息をつく
「とにかく、どのみちあまり時間が無いのは確かです、思ったより司令部や各国の対応が早い、急いで救出する方法を検討しなければいけません」
宇宙軍管轄の月面基地と違い、地球にあるミサイルは、連邦に所属する各国の管轄なので、どの国のどのミサイルを使うかなど、調整にはかなりの時間が本来かかるものなのだが、ミサイル攻撃を検討中ということは、すでにミサイルの選定段階に入っているということだ、普段は宇宙軍の要請に文句ばかり言っている地球の政治家達も、危機的状況だということは認識出来ているらしい。
「とりあえず何とかしなければいけないのは、射撃管制レーダーですな」
ハイザー准尉はノーチラスの外観図をスクリーンに投影した
「この図によると、ノーチラスの射撃管制レーダーは、艦橋後方マストのこの位置と、船体下部のこの位置に集中して配置されています」
ハイザー准尉が説明すると、スクリーンに立体表示されているノーチラスの外観図に、射撃管制レーダーの位置が赤く表示された。
「これを破壊できれば接近は比較的容易になるんですがね」
ノーチラスの動力炉の熱放射と、月軌道上のに点在する、無人砲台からの観測データが、リオグランデにも逐一送られて来るので、ノーチラスの大体の位置は把握しているが、旧式とは言えステルス艦のアンテナのみをピンポイントで破壊するには、こちらからも指向性の高い強力なレーダ照射が必要だ。
しかし、それは同時にノーチラスにも、こちらの位置が確実に捕捉されるという事だ。
「ノーチラスのAIも先程の攻撃で学習しているでしょうし、次はデコイによる撹乱という同じ手が通用するかわかりません、ノーチラスの主砲相手では、少々分が悪いですな」
ハイザー准尉は説明の最後に、控えめに現状を語ったが、少々どころではない、ノーチラスの主砲がかすっただけで、こちらは確実に致命傷になる、サラは頭を抱えた。
「せめて艦長と連絡がとれれば...」
先程までつながっていたエリとの通信は、ノーチラスが進路変更した事で切れていた。
今までエリとの通信が繋がっていたのは、指向性の高くレンジの狭い艦載機着艦用のビーコンを利用していたので、ノーチラスが急激に進路変更を行った際に、通信可能範囲からずれてしまい通信不能になってしまったのだ。
この距離でもビーコンの通信に利用可能範囲は数百メートルも無いはずである、この広い宇宙でノーチラスのレーダーにかからないように潜んでいるリオグランデに、こんな狭い範囲の電波を当てるのは不可能だ。
「副長、ノーチラスから信号が入っています」
「はぁ!?」
通信士官の報告にサラは思わず妙な声をあげてしまった、一体どうやって?と思ったが理由はすぐにわかった。
光学観測で見ると、ノーチラスから小さな光が出ているのが見える、発光信号だった。
なるほど、これなら広範囲に信号を送っても、ノーチラスのセンサーにかかる心配は少ない。
内容は空間の座標とその位置まで移動せよという内容だった
「この座標へ移動します、到達時間は?」
「約15分後です」
航法士官が答える、リオグランデはノーチラスのレーダーに探知されないように、慎重に移動を開始した。
「この座標の指示、どう思います?」
サラはハイザー准尉に意見を求めた
「艦長が通信に使っていたビーコンの、現在の照射位置だと思われます、恐らく艦長が、通信を回復させるために指示しているのでしょう」
「ノーチラスのAIが考えた罠という可能性は?」
「確かにそれもありますが、ビーコンを使って艦長が通信をしていたことを知らないノーチラスのAlが、そこまで考える可能性は低いでしょうな、念のため指示された座標へは中継機を送る事を具申します」
ハイザー准尉の意見は常に的確だとサラは思った、考えてみれば、出港時に武器弾薬の量こそ減らしていたものの、敵の探知を撹乱するためのデコイなどの、艦を守るための装備は、しっかり規定量が搭載されており、彼が闇雲に装備を減らしていた訳ではない事が、今なら理解できた。
「ハイザー准尉、出港前はすみませんでした」
サラに突然謝罪の言葉をかけられたハイザー准尉は少し驚いた表情で振り向いた。
「いいえ、自分こそ申し訳ないと思っております、もう少し武器があれば、本艦のみでもまだ対処の幅が広がったでしょうに、艦長の言っていた通り、任務が終わったら検討が必要ですな」
サラは黙って頷くと、再び正面のスクリーンに表示されている、現在のミサイル やレールガンの残弾などが表示された画面を見つめた。




