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22.艦長の指示

リオグランデが泊地を出航して、一週間が過ぎようとしていた。

出航してからは、故障した民間船からの救助要請が一件あった程度で、その後は特に何事も無く、ほぼ当初の予定通りだった。

予定通りと言っても艦長の仕事は激務である、特にトラブルは無くても、新人艦長にはかなりキツイはずなのだが、リオグランデには、特に指示が無くても仕事を先読みするような、ベテランが揃っている事と、大量の書類仕事を難なくこなしてしまう副艦長のサラの優秀さに救われて、エリは比較的時間に余裕を持つことが出来ている。


(ロナルド ハイザー、18歳の時アメリカ空軍に入り、21歳で宇宙軍を志願して1年間の訓練の後、戦艦スワローの補給部に配属され約7年間勤務、その後駆逐艦テネシー補給班へ配属、その後始まった火星との戦争で、テネシーが大破し除籍、乗艦をテネシー級4番艦ハドソンに移し終戦まで乗艦する、6年前にハドソンが老朽化のため除籍になり、博物館展示が決定したため、乗艦を現在のリオグランデに移し現在に至る)

エリは艦長室で兵装科のハイザー准尉の経歴を調べていた、出航前の補給の件でサラと口論になった人物だ、この2人はとにかく相性が悪い、自らの経験から物事を決めるハイザー准尉と、規則に忠実なサラという間逆の2人はとにかくよく対立していた。

今後この2人をどうするか考えていると、部屋の外から呼鈴が鳴る。

「どうぞ」

「失礼します」

艦長室にサラが入って来た、現在は慣性航行中なのでほぼゼロG状態なのだが、サラは器用に壁面を蹴って体の向きを変えると、不動の姿勢をとって敬礼する。

「先程の民間船の救助の報告書が出来ましたので目を通しておいてください」

「ありがとう、後で見ておくね、それで何か相談があるの?」

いちいち報告に来なくても、エリの端末にデータを送れば済むことなので、わざわざ来たのには、理由があるはずだと思って尋ねてみた、少し俯いて考えてからサラが口を開く。

「武器弾薬の補給の件なんですが、やはりハイザー准尉のやり方は、どうかと思います」

「でも今のところ戦闘の可能性も低いし、特に問題はないと思うんだけど」

サラはハイザー准尉が、軍の規定量をはるかに下回る量しかミサイルや砲弾を搭載しなかったことをずっと気にしていた。

「軍の規定量というのは、闇雲に決められたものではありません、膨大な過去の戦闘データから決められたものです、一個人の経験で勝手に変えて良いものではありません」

エリも、戦闘であっという間に武器弾薬が消費されていくのを体験しているので、サラの意見もよくわかる、しかし、旧式艦であるリオグランデは、主機の推力が現行艦より低く、緊急の加速には、化学燃料を使ったブースターを多用しなければならない、民間船の救助に駆けつけた時の燃料消費量を見ると、ハイザー准尉の武装を減らしてでも燃料を抑えたいというのも、もっともな意見だった。

どちらの意見も正しい、しかしこの場合、この哨戒任務を10年近く続けている、ハイザー准尉の意見が正しいとエリは思っていた。

軍艦である以上、武器弾薬も大事だが、機動力を無くしてしまったら元も子もない。

「弾薬搭載量については、また各担当の士官を集めて、話し合いましょう」

そう言って、とりあえずサラを戻したが、彼女の性格からして、推進剤の不足などという、そんな理由ではたぶん納得しない、どうしたものかとエリはため息をついた。


「おはよう」

翌日、エリは艦橋へ顔を出すと、艦橋当直の乗員達に挨拶をした、戦艦より高い機動性がある駆逐艦は、戦闘時には急激なGがかかるため、あまり広いとは言えない空間にもかかわらず、4点式シートベルトが付いた座席が各部署に設置されている。

「おはようございます艦長」

艦橋にいる当直の乗員達も、任務中は各自の席のシートベルトで固定しているため、座ったまま挨拶を返し、そのまま黙って任務を続ける。

「何か問題はありませんか?」

「ありません」

航法士官に尋ねるが素っ気ない返事だった、他の担当乗員も似たようなものだ。

何とも微妙な距離感がある、ベテランの乗員達にとって経験もろくに無いエリ達は、艦長と言っても、ただの飾りでしかないと思われている。

何とも気まずい雰囲気が艦橋を支配していたが、それでもエリは一人ひとりに声をかけていくのを日課にしていた。

「何か気になる反応はありますか」

「問題ありません」

レーダー担当の乗員に尋ねるが、似たような返事だった。

「ん?」

何気なくレーダースクリーンを見ていたエリは、一瞬だけ現れたエコーに気が付いた。

「レーダースクリーンの画面を30秒前から、もう一度表示してもらえますか?」

レーダー員が表示を切り替えると、記録されたレーダー画面が30秒前からもう一度再生される、エリはレーダー員の座席の後ろから、スクリーンを見つめる。

「ほら、ここ」

エリが指さした所に一瞬だけ小さな光点が出た

「この反応の周囲をもう一度探査してください」

レーダー員が、電波の種類を幾つか変えて探査して見るが、何も反応は無かった。

「ただのゴーストですよ」

現在航行している宙域には、廃船が放置してあるスクラップヤードが何箇所かあって、これらの廃船が、レーダー波を干渉して、ごく稀に存在しない反応が出ることがある。

「この反応の波形を表示してみて下さい」

レーダー担当が切り替えると、スクリーンにレーダーの波形と数値が表示された。

エリは表示された波形をしばらく見つめて航法士官に指示を出した。

「とりあえず行ってみましょう、推進剤の残量計算と軌道の設定を、なるべく到達時間優先で、お願いします」

「ただのゴーストに、何故そこまでこだわるんですか」

レーダー員が思わず上官の決定であるのも忘れ質問した、彼も10年以上の経験があるベテランである、自分の判断に自信があった。

「すみません、どうしても気になるので調査させて下さい」

レーダー員はエリが何を言っても反論する気でいたが、上官にここまで下手に出られるのは予想外だったので、もう何も言えなかった。

ハイザー准尉も出航して以来、操艦は他の乗員に任せっきりで、意見具申を追認するだけだったエリが、初めて明確に指示を出した事に少し驚いていた。

「推進剤の無駄遣いになるかもしませんが、艦長にはそれまでして行く事に何か確信がお有りですかな?」

ハイザー准尉は、少し意地の悪い質問をエリにしてみる。

「確信はありません、でも何か不審なことがあったら確認するのが哨戒任務です、だから行ってみましょう」

そう言ってエリはにっこりと微笑んだ。

(確信が無いと言いながら、随分と自信たっぷりな顔するじゃねえか、この嬢ちゃんは…)ハイザー准尉はそう思ってニヤリと笑った

「軌道の設定できました、到着予定は約5時間後です」

航法士官がエリに報告する

「軌道設定、許可します、加速開始して下さい」

リオグランデは慣性航行から再び加速を開始した。

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