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21.出航

10日間の研修を終えてエリ達は再び泊地に戻って来た。

泊地に造られた補給ステーションは、巨大な円筒形の形をしていて、ゆっくり回転することで、筒の外側の部分に1Gの重力が発生するように作られていて、そこに居住区がある、中心部は空洞になっており、艦船の修理や補給を行うドックがあり、研修に向かう前はリオグランデもそこに繋がれていたのだが、現在は出港準備を終えて、すでに泊地の所定の場所で待機していた、出港は明日、哨戒任務の予定期間は2週間である。

慌ただしい出港になるが、これでもハイザー准尉に言わせれば、定期哨戒任務なので余裕のある方だそうだ。

各艦がそれぞれの役割を分担する艦隊での駆逐艦の運用と違い、単艦で出港する事の多い警備部の艦は身軽だかららしい。

「キシカワ少佐」

補給ステーションの会議室で、他の駆逐艦の艦長と哨戒担当宙域の確認を終えたエリは、通路に出た所で隣の会議室から出てきた女性士官に呼び止められた。

聞き覚えのある声だが、誰だか思い出せないまま振り向くと、そこにいたのはセバストポリ要塞で知り合った、シャロン ドレーパー少佐だった。

「あ、お久しぶりです、ドレーパー少佐」

「もう階級一緒なんだから、かしこまらなくていいわよ、久しぶりね、サラは元気?」

相変わらず上品な容姿に似合わない、くだけた話し方をする人だ。

「ええ、先に艦に戻っていると思います」

「ねえ、今時間ある?良かったら、ちょっとそこで話さない?」

ドレーパー少佐は、そう言って通路の奥にある士官用食堂を指差した。


食堂に入るといきなりビールを二つ注文しだしたドレーパー少佐を、勤務中だからと慌てて止めた、少佐は不満そうだったが、仕方なくノンアルコールビールを注文して席に着く。

「アルバトロスもこの泊地に来てたんですね」

「補給と乗員の交代で3日前からね、いやー、最近敵が地球周辺によく出没しているんだよね、おかげで、あれから休みなしの出撃で、本当に嫌になるわ、さっきまでその対策会議だったし」

この10日間、警察でずっと講習を受けていたエリにとって、その話は初耳だった。

「そうなんですか?」

「それがおかしいんだよね、ここだけの話にしてほしいんだけど、隠れていた小規模の艦隊が、突然攻撃してきたと思ったら、すぐに撤退しての繰り返し、それがあちこちで起きるもんだから、いま艦隊が分散しちゃってて、問題になっているんだよね」

いくら第一艦隊の担当宙域が、他の艦隊よりせまいと言っても、広大な宇宙で高度なステルス技術を持つ敵の小部隊を、補足し続けるのは容易ではない。

「まあ何はともあれ艦長就任おめでとう、私ですらまだ副官なのに、笑っちゃうほどあっけなく立場抜かれちゃってちょっとショックだわー、はっはっは」

ドレーパー少佐は豪快に笑うと、注文したノンアルコールビールでエリと乾杯して、一気に飲み干す。

「あんたサラを副官にしたんだって?あんな面倒くさそうなの使うなんて物好きだね」

一応、勤務中なのであまり派手にされると困るなあと思いながら、エリもビールに口をつける。

「いいえ、サラちゃんはとても優秀です、自分なんて何もできなくて、いつも助けられてばかりで、本当に助かっています」

「私には、あんたも結構優秀に思えるんだけどなぁ~」

「そんなこと無いですよ、自分なんて、通信省の教育課程のときも、判定はいつもビリで、最後なんか散々補習を受けた挙句、担当教官からお情けで合格もらったって感じで」

ドレーパー少佐は納得いかないという風の顔で、 言い訳をしているエリを見つめる

「あのさ、あんたのその自己評価の低さ、どうにかならないの?自分は何にもできないって言っているけど、あんまり謙虚すぎると嫌味にしか聞こえないわよ」

エリはうつむいて黙ってしまった、ちょっと言い過ぎたかなと思ったのか、ドレーパー少佐は少し声のトーンを落とす。

「確かにサラは優秀だけど、あの子は一人じゃ何も決断できない、その才能を引き出してるのはあなたでしょ?それくらいは誇ってもいいと思うけど」

自分がサラの才能を引き出してる?そんなことあるはずがない、ドレーパー少佐こそ買いかぶりすぎだ、そうエリは思った。

「ところで、あんた通信省の何期の教育課程だったの?」

「えーっと、37期ですけど」

エリがそう言うと、ドレーパー少佐は笑いだした。

「あーなるほど、そう言う事か、そりゃそうだわ、うん、よくわかった、あははは」

いきなり笑われた上に、訳がわからないまま、納得されてしまい、エリは呆気にとられていた。

「37期だったらスチムソン教官でしょ?」

「そうですけど、どうしてそれを?」

自分の担当教官を当てられてエリは驚いた。

「だって私の士官学校時代の教官だもの、あの教官はまず、徹底的に生徒の自信を無くさせて、慢心を取り除く事から始めるから、あんた打ちひしがれちゃったのね、納得したわ」

厳しい教官だと思っていたら、軍の教官だったのか、そういえば今期だけの臨時教官だって言ってたっけ、色々な通信省時代の記憶が蘇ってくる。

「あの教官なら大丈夫、あんた自信持っていいよ」

少佐はまだ笑っていた、謎が解けて満足したといった感じだ。

「さて、そろそろアルバトロスに戻るかな、付き合ってもらって悪かったわね、サラによろしく言っといて」

「あの、ひとつ聞いていいですか?」

「ん、なに?」

エリは席を立とうとしていた、ドレーパー少佐を呼び止めた。

「戦争はなぜ起こるんでしょうか」

「はぁ?」

「サラちゃんが言ってたんです、戦争は人の善意でおこるって、本当にそうなんでしょうか?」

エリは警察での研修に向かう途中で、サラが言っていた事を聞いてみた。

「正解とも言えるし間違いとも言えるわね」

席に座り直した少佐は、今度は本物のビールを注文すると話し始めた。

「実際は善意、欲望、恨み、打算、その他考え付く限り、人の営みに必要な、ありとあらゆるものが原因で起こるわね、戦争なんてそういった意味では文明そのものよ、戦争はなぜ起こるかなんて聞かれたら、文明があるからとしか答えようがないわ」

サラの言葉を聞いて、エリなりに色々と戦争について悩んでいたのだが、ドレーパー少佐はそれを一刀両断してしまった。

「昔から、何度も法的に戦争を禁止しようって試みがあったけど、どれもうまくいかなかった、そりゃそうでしょ、法律だって文明の産物なんだから矛盾もいいとこだわ、そんなに戦争が嫌なら原始人の生活に戻ればいいのよ、私は御免だけどね」

そこまで話すと少佐は、頼んだビールを飲み干した、心底うんざりした感じで語っているところを見ると、以前に何かあったらしい。

「いまやっている戦争だって、直接の引き金は、小惑星連合が独立宣言した事で、地球が持っていた小惑星の鉱山の利権が奪われたことだけど、原因自体は地球と小惑星地域の経済格差とか待遇の不公平感とか、くすぶっていた沢山の問題が積み重なった物だしね、遅かれ早かれ起こる戦争だったのよ」

あまり深く報道されないので、他にもたくさんの問題があって、戦争の原因になっているという事は考えたこともなかった。

「何で戦争をするのかなんて、考えてる暇があったら、生き残って戦争を早く終わらせる事を考えなさい」

「そうですね、参考にします、ありがとうございました」

深々と頭をさげるエリを見て、ドレーパー少佐はため息をついた。

「あなた、私と同じ階級なの覚えてる?」

本当に艦長の業務大丈夫なんだろうかと、不安になるドレーパー少佐だった。


ちょっと話すつもりが、一時間以上話し込んでしまい、エリは大慌てでリオグランデに戻った。

艦橋に顔を出すと、サラとハイザー准尉が何か揉めていた。

「何事ですか?アルメイダ中尉」

「艦長、これを見てください」

サラは艦橋中央にある立体スクリーンに表示された表を指差す、どうやら今回の任務のための、武器の補給データのようだった。

「中近距離用の小型ミサイルは、発射筒内の2発のみ、近接防御用のレールガンの砲弾は規定量の10分の1、対艦ミサイルに至っては搭載すらされていません、これでは殆ど丸腰です」

確かに、これから出航するとは思えないほど、少ない搭載量だった。

「お言葉ですが、内地での哨戒任務に、軍の規定量の武器弾薬は必要ありません」

サラの報告の途中にハイザー准尉が割って入る

「しかし艦隊司令部からは、哨戒任務でも規定量を積むよう指示が出ているはずです」

「規定量はあくまで指示であり、命令ではありません、それにこの基準は戦闘艦との交戦を前提として決められた物で、この任務では明らかに多すぎます」

確かに一番可能性ががあり、危険だと思われるテロリストの使う船ですら、せいぜい民間船に軽武装を施した程度なので、駆逐艦の主砲だけでも問題なく対処出来るのは間違いない。

「軍艦が、可能性が低いからといって、武装を減らしてどうするんですか」

「アルメイダ中尉は、規定量の武器弾薬を搭載する事が、どれ程の重量増加になるかご存知ですか?搭載できる燃料が限られ、補給も望めない以上、重量を減らす以外どんな方法があるか、教えて頂きたいですな」

リオグランデの主機は旧式で出力が低く、急な加速が必要な場合は、燃費の悪い化学燃料のブースターに頼っている、増槽を取り付けて燃料の搭載量のを増やしてはいるが、不審船舶の追跡などが何回かあると、2週間程度の哨戒任務でも使い切ってしまう場合が多い。

補給艦も前線の艦隊に、優先配備されているため、後方の治安維持部隊にまで回ってこない。

民間船に頼むにしても、民間船には現在ほとんど必要のない燃料の上に、輸送保険の問題もあり非常にコストがかかるのだ。

「ハイザー准尉、もし、規定量の武器弾薬を今から発注して搭載したら、どのくらい時間がかかりますか?」

今まで黙って、ハイザー准尉とサラのやり取りを聞いていた、エリが口を開いた。

「そうですな、順調にいって2日といったところでしょうか」

2日も出航が遅れれば、哨戒のシフトにかなりの影響が出てしまう、しばらく考えてエリは指示を出した。

「わかりました、今回はハイザー准尉のプランで出航しましょう、次回から今回の任務を参考に、武器の搭載量は話し合うということにします、準備に取り掛かってください」

「了解」

サラは不満そうだったがエリの判断に特に反論はしなかった、二人はエリに敬礼して出航作業にとりかかる。

翌日リオグランデは、予定通りの時間に泊地を出航した。

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