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異世界人材派遣会社_異世界送り人  作者: るる


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5/8

5話 社畜VS女子高生 ①

高評価等とても励みになります。


もし良ければ高評価等よろしくお願いします

「おい、ルクト。今月の目標ノルマ、まだ1枠残ってるじゃねえか。どうなってんだ?」

 

異世界人材派遣部の責任者であるゼウスは、高級本革のオフィスチェアに深く腰掛け、黄金のゴルフクラブを磨きながら、気だるそうにルクトを見下ろした。

 

その足元には、数枚のゴルフ雑誌と高級プロテインの空きボトルが転がっている。

 

「ゼウス部長……! 先ほど、前回の佐藤シュンの異世界送り手続きを完了し、契約書もアテナ様に検収していただいたはずですが……!」

 

ルクトは直立不動の姿勢のまま、額に汗を浮かべて抗議した。

 

あの佐藤シュンを送り出すために、どれだけの心労を重ねたと思っているのか!このクソ上司め!

 

「ああ、あれな。確かにアテナから受領報告は来てる。だが、お前が神界の経費を前借りして『自動運転10トントラック』なんて物騒なもんを手配したせいで、今月の経費枠が大幅にオーバーしてんだよ。よって、相殺チャラだ」

 

「相殺!?」

ルクトの顔が絶望に染まる、相殺とは相殺という事で、相殺なわけで?

余りのショックで頭の中で相殺という言葉が永遠にリピートされる。

 

「そういうわけだから、今月もう1人送れ。期限中にノルマを達成しなければ、来月の給料は『プロテイン(バナナ味・ダマになりやすいやつ)現物支給』。

さらに、来期は神界直轄の発展途上国へ2年間の強制出張(片道切符)な」

 

「そ、そんなのあんまりです! 今回だって現世の深夜三時まで残業して――」

 

「はいはい、残業アピールはいいから。ほら、せめてもの優しさで簡単な案件にしてやるから」

 

ゼウスが面倒くさそうにフリックしたスマホから、ルクトの端末へ1通のデータが転送された。

 

画面に表示されたのは、どこか陰のある、一人の女子高生のプロフィールだった。

 


『現世ネーム:鈴木マユ(17)。毎日22時になると、市内にある廃ビルの屋上に登り、現世からの退職(◯殺)を試みている。

精神的な未練はほぼゼロ、異世界適性:高』

 

資料に目を落としたルクトは、一瞬、自分の目を疑った。

 

「……毎日、◯殺しようと廃ビルに上がっている、女子高生?」

 

「そうだ。現世への執着がミリもない、いわゆる『死にたがり』ってやつだな。前回の佐藤とかいうゴリゴリの社畜に比べりゃ、引き込みのハードルはめちゃくちゃ低いだろ?」

 

ゼウスは楽しそうにゴルフクラブをスイングし、綺麗にフォームを決めた。

 

「お前が屋上に先回りして、彼女が安心して異世界へ旅立てるように、優しく背中を押してあげるだけだ……な? 楽勝だろ?サクッと現世から『送りデス・スラッシュ』してこい」

 

「……なるほど。確かにこれなら」


ルクトの瞳に、ギラリとした社畜の輝きが戻る。

 

現世に留まろうとする人間を説得するのは骨が折れるが、自ら消えたがっている人間の背中を押すだけなら、文字通り秒殺案件だ。

 

「分かりました、ゼウス部長。必ず彼女を異世界に派遣デリバリーし、私のボーナスと、まともな現金の給料を勝ち取ってみせます!」

 

「おう、期待してるぞ。俺は明日からイフリンとゴルフだから定時で上がるわ。じゃあな」

 

ゼウスが軽快な足取りでC去っていくのを見送りながら、ルクトは支給されたステルススーツの襟を正した。

 

「待ってろよ、鈴木マユ。俺の来月の生活のために、今夜きっちり、異世界へ送ってやる……!」

 

こうしてルクトは、勝利を確信したまま、夜の廃ビルへと向かうのであった!

 

――その先に、「計算違い」が待ち受けているとも知らずに。


ゼウスは歩きながら笑みを浮かべる

「クックック」

………………良かったよかった、断られたらどうしようかと思ったぜ。

 

あの子、◯殺願望者なのは間違い無いんだが、毎日屋上に行くだけ行っておしまいなんだよなぁ

 

まぁ頑張ってくれやルクト君!ハーハッハッハ!

ゼウスの笑い声がルクトに届くことは無かった。

 

————————

 

ひゅるると冷たい夜風が吹き抜ける地上十階建ての廃ビル屋上にて

 

錆びついたフェンスの向こう側、コンクリートの縁に、一人の女子高生――鈴木マユが腰掛けていた。

 

「はぁ……。今日も、何にも良いことなかったな……」

 

学校での人間関係、親からの暴力、先の見えない未来。すべてに疲れ果てた彼女の瞳には、現世への未練など一ミリも残っていなかった。


ただ静かに、暗闇が広がる地面を見つめている。

 

そこへ空間がぐにゃりと歪み、一人の男が姿を現した。

 

ステルスモードを解除したルクトの表情には、ビジネスマンとしての完璧な「勝算の笑み」が浮かんでいた。

 

(これは超イージー案件だ。最初から飛び降りる気満々の人間なら、俺が『送り人』として彼女の決意を肯定し、優しく背中を押してあげるだけで完了する……!)

 

「こんばんは、迷える子羊よ」

ルクトはトレンチコートの襟を正し、神の使いとしての神聖なオーラを全開にしながら、低く渋い声で話しかけた。

 

「……え?」

マユが急に掛けられた声に驚いて振り向く。

 

月光に照らされたルクトの姿――整った容姿、どこか憂いを帯びた瞳、そして超常的な登場……。

 

マユの脳内で、何かがカチリと音を立てた。

立ててしまった!

 

死を覚悟した極限状態の脳に、突如として電流が走ったのだ!

(な、なに……この人……。超、超絶イケメン……! 嘘、王子様……!?)

 

彼女の死んだ魚のようだった瞳に、突如として激しいピンク色のハイライト(ハートマーク)が灯った。

 

「驚かせてすまない。だが、もう一人で苦しむ必要はないんだ」

 

ルクトは一歩近づき、優しく微笑みながら、彼女を『安心させて現世から退職(死亡)』させるためのマニュアル通りのセリフを紡ぐ。

 

「君が毎日、ここで辛い思いをしていたのは知っている。この世界は理不尽で、君には窮屈すぎた。


だから……さあ、怖がらずに、僕の手をとって。新しい世界(異世界)へ旅立とう。君のその決意、俺が全力で応援プッシュしてあげるから!」

 

ルクトとしては「さあ、安心して飛び降りろという意味だった。

 

しかし、一目惚れフィルターが最大出力でかかっているマユの耳には、全く違う意味に翻訳コンバートされていた。

 

(『僕の手をとって、新しい世界(二人だけの愛の巣)へ旅立とう』……!?

 

『君のその決意(私と付き合うこと)、俺が全力で応援(愛)してあげるから』……ッ!?)

 

「あっ……あ、あああ……!」

マユは顔を真っ赤にし、胸元をぎゅっと押さえてガタガタと震え出した。

 

「お、おい、大丈夫か? 緊張しなくていい、ゆっくりでいいんだ。さあ、フェンスを越えて、一歩を踏み出すんだ!」

 

ルクトがノルマ達成を確信して手を差し伸べると、マユは猛烈な勢いでフェンスをよじ登り、ルクトの胸元へとダイブした。

 

「はいっ!!! 私、あなたとならどこへでも行きますっ!!!!!(大号泣)」

 

「ぶふぉっ!?」

がっしりと腰にしがみつかれ、ルクトは変な声を上げた。

 

「ちょっと待て! 違う、方向性が違う! 下! 下を見てくれ! 君は飛び降りて異世界で幸せになるんだ!」

 

「嫌です! 死ぬのやめました! だって、こんな素敵な運命の人に出会えちゃったんだもん! 私、あなたと現世で幸せになります!」

 

「現世で幸せになられたら俺の来月の給料がプロテイン(ダマになりやすいやつ)になっちゃうんだよぉぉぉ!!」

 

ルクトは必死にマユを引き剥がそうとするが、現世への未練がゼロから「ルクトへの執着100%」に反転したマユの筋力は、火事場の馬鹿力と化していた。

 

「離れろ! 俺は神界の人間だぞ! 人間と神が結ばれるわけないだろ!」

 

「関係ありません! 種族の壁なんて、私の愛でぶち壊します!」

 

【女子高生スキル:盲目的恋心ブラインド・ラブ】!

である!

 

「チッ、こうなったら強制執行だ! 聞け、異世界に行けば魔法も使えるし、聖女としてチヤホヤされるんだぞ!?」

 

【送り人スキル:甘言求人誘致キャリア・スカウト】!

 

「私にとっての幸せはあなたとのラブラブな生活です!」

 

ルクトが放つ神界の説得を、マユは常軌を逸したポジティブ変換(乙女フィルター)ですべて無効化スルーしていく。

 

「頼むから死んでくれ!」

「嫌です、生きてあなたと永遠に一緒にいるんです(監禁)」

 

「不穏な単語を使うな!!」

夜の廃ビル屋上で、来月のボーナスを死守したい社畜の神と、運命の王子様を絶対に逃したくないメンヘラJKの、絶対に噛み合わないデッドヒートが幕を開けるのであった!

 

ルクトのノルマ達成への道は、前回の社畜(佐藤シュン)の時よりも、遥かに険しいものになろうとしていた――。

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