3話 社畜VS社畜 ③
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「外がダメなら、奴のホームグラウンドで仕留めるまでだ……!」
平日の午後20時。
神界の限界サラリーマンことルクトは、姿を隠せる【ステルスモード(透明化)】を起動すると
ターゲットである佐藤シュンの勤務先である
『株式会社ブラック&ブラック』
のオフィスへと潜入していた。
しかし、一歩足を踏み入れた瞬間ルクトは漂う負のエネルギー
【ブラックカンパニーオーラ】
に少し触れただけで吐き気を覚えた。
「お、おいおい……なんだここは。本当に人間の職場か……!?」
そこは、地獄ですらもっとホワイトだと思えるほどの『魔境』だったのだ。
部屋中に漂うのは、お札のように壁に貼られた社員1人1人が墨で書いた年間目標の書道
さらには飛び交う戦闘音(怒鳴り声)に
デスクの下からは寝袋にくるまったゾンビのような社員たちの足が飛び出している。
タイピングの速度が速すぎて、キーボードからうっすら煙が出ている男までいた。
そんな生き地獄の最奥で、佐藤シュンは死んだ目でモニターを睨みつけ、「うおおお仕様変更がァァ!」と叫びながら凄まじい速度でキーボードを叩いていた。
「よし……。現世のクソ上司に潰される前に、俺が綺麗に異世界へ転職させてやる。待ってろよ!」
ルクトはシュンのデスクに近づき、彼が触れているキーボードに向かって、神力を込めた指先を向けた。
【送り人スキル:漏電(電気ショック)トラップ】
直撃すれば象でも一発で気絶、そのまま心停止して異世界へログアウトするレベルの超高電圧を、キーボードの金属部分へチャージする。
ふはは、これでキーを叩いた瞬間にドンだ!
シュンが何の疑いも持たず、決定キー(エンター)を強く叩いた瞬間――!
バリバリバリバリィィィィッッッッ!!!!!
凄まじい紫色の電光が走り、シュンの全身が激しく感電する!
骨が透けて見えるほどの強烈な電気ショックがシュンを襲った!
「勝った! 異世界へ逝けぇぇ!!」
ルクトがガッツポーズをした……
しかし!?
「ハァッ, ハァッ……! な、なんだこの電流は……!?」
シュンはビリビリと全身を震わせながらも、なぜかタイピングの速度を爆発的に加速させ始めた!?
「なっ!?何だと??」
何で倒れない!?何がやつをそこまで突き動かすというんだ!?
カタカタカタカタッ!と高速タイピングが辺りに響く
……ッ!? 指先からの不自然な外部高電圧、および心臓への過負荷アタック感知……!
シュンの脳内に、過酷な徹夜環境で鍛え上げられた【社畜スキル:不測の事態瞬時対応能力】が強制発動!
さらに、電流を自らの体内に綺麗にバイパスさせ脳細胞を力強くノックする【社畜スキル:ビジネス・ブースト】へと繋げる!
「お、おのれクライアントめ、社内LANから俺に直接お仕置きの電流を流してくるとは……!
だが! 脳が強制覚醒して、徹夜明けの眠気が完全に吹き飛んだぞ……! 素晴らしい、これなら……朝までに仕様変更の納期が間に合うッッ!!」
「電気ショックが目覚ましにしかならないだとぉぁー??」
ルクトはステルスを忘れて頭を抱えた。
象が死ぬ電圧だぞ。それをただのカフェイン代わりにされるとは、送り人としてのプライドがズタズタである。
「くそっ、なら次の作戦だ!」
シュンが「ふぅ、ちょっとコーヒーでも淹れて目を落ち着かせるか」と席を立ち給湯室に向かうのを見逃さず、ルクトは先回りした!
【毒殺:劇薬(毒入り)コーヒー】
人は毒には勝てない!!これは遥古代から言われ続けた抗う事の出来ないルールだ!
クックック!!
そしてシュンがマイカップに注いだ安物のインスタントコーヒーの中に神界特製の劇薬をドボドボと混ぜた。
一口飲めば、魂が肉体から一瞬で強制ログアウトする無色無臭の即死毒だ。
デスクに戻ったシュンは、そのコーヒーを手に取り、ふぅふぅと息を吹きかける。
「今度こそ終わりだ佐藤ォォ!! 現世にバイバイしてソルステラ王国へ行ってこい!」
シュンが、毒入りコーヒーを躊躇なくゴクゴクと一気に飲み干す!
カツン、とカップが机に置かれる。
「……うっ!!」
シュンが急に胸を押さえ、苦悶の表情を浮かべた。
「よし! 効いてきたな!?」
期待の眼差しを向けるルクト。しかし、シュンはふぅ、と深く息を吐き、感嘆の声を漏らした。
「……今日のコーヒー、めちゃくちゃ苦いな?でも、胃壁が焼け付くようなこの強烈な刺激!
会社へのストレスで毎朝開いている俺の『胃潰瘍』に、じんわりと染み渡る……。
うん、なんか……痛みが消えて、逆に胃が軽くなった気がするぞ。よし、もう一踏ん張りだ!」
「猛毒をサプリメントみたいに飲むなァァァ!!胃潰瘍を治してどうするんだよ、健康になってんじゃねえよ!!」
ルクトの叫びも虚しく社畜の強力すぎる胃酸と、日々のストレスによる異常な体内防衛本能が、神の毒を綺麗に中和・消化してしまっていた。
電気ショックと猛毒を浴びて、むしろ全回復(コンディションMAX)になってしまったシュン。
ルクトが完全に絶望しかけた、その時だった。
パチッ、とオフィスの明かりが突然半分消え、怪しげな間接照明だけになる。
時計の針は21時を指していた。
――ジャカジャカジャカジャカ……。
突如、天井のスピーカーから、チープで不気味なアップテンポの電子音が大音量で流れ始めた。
「な、なんだ!? 敵襲か!?」
身構えるルクト。
すると、それまでゾンビのようだった社員たちが、ガタタッ!と一斉に、ロボットのような統率された動きで直立不動の姿勢をとった。
そして、死んだ魚の目のまま、一糸乱れぬ大声で歌い出したのだ。
『〜♪ 我らの命は 会社のもの〜
捧げよ休日捨てよプライド〜
顧客の笑顔が 我らの報酬(※ただし手取りは十八万)〜
おーおー、我がブラック&ブラック〜♪』
感情のいっさいこもっていない、地獄の底から響くような大合唱。
シュンもまた、電気ショックの残響で体をビリビリと震わせながら、全力で拳を突き上げて歌っている。
「ヒッ……!!」
ルクトは恐怖のあまり数歩後ずさりした。
「せ、精神汚染系の広域呪詛……!? 邪神を崇拝する狂信者の儀式でも、もうちょっと楽しそうに歌うぞ!! なんだこの不吉な歌は!!」
歌が終わると、社員たちは何事もなかったかのようにスン……と席に戻り、再び爆速でキーボードを叩き始めた。完全に洗脳されている。
そこへ、彼らのクソ上司がやってきて
「おい佐藤! 夜の社歌合唱でモチベーションも上がったな! 追加のタスクだ!」
と鈍い音を立てる書類の山をドサッと置いた。
シュンは「はい! 喜んで!!」
と、電気と毒と社歌のパワー
【社畜スキル:謎の社歌による強制合唱】
による集団身体強化を発動させ、限界突破した速度で書類を処理し始める!
その時、ルクトのスマホが『ピロリ〜ン』と非情な通知音を鳴らした。画面にはゼウス部長からのメッセージ。
『ルクト君、進捗どう? ちなみにソルステラ王国の王様が「もう限界だから勇者まだ?」ってガチ泣きしてるよ。
明日までに送れないなら、来月の給料はマナじゃなくて「プロテイン(ココア味)」支給ね。よろしくー』
「無理だよ部長……あの男、もう人間じゃない」
ルクトはデスクの陰でがっくりと膝をついた。
「俺の暗殺魔術が、全部『明日を生き抜くための栄養』に変換されてるんだよ……。お前が異世界に行かないと、俺がプロテイン縛りの生活になっちゃうんだよぉぉぉ!!(号泣)」
夜のオフィス。
生きるために限界を超えて働く男と、自分の生活(給料)のためにそいつを殺したい男の、悲しき社畜のデスマーチは、さらなる混沌へと突き進むのであった。




