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12 そういえば忘れてました。


 何とかこの世界でやっていけるかな、なんて楽観視した私が甘かった……。


 そう思わずにはいられないません。



 朝のHR後の休み時間から数分後、チャイムが鳴ったので皆ガタガタと席につき始める。


 私はカイくんと席をくっつけて教科書を見せてもらう準備をした。


 休み時間の間はナギくん達と居たためか、クラスメイトの人には話しかけられませんでした。


 質問攻めをされたら答えられない事もあるだろうと思っていたのでとりあえず安堵。



初老の先生「それにより、魔法媒介石は世界に広まる事となりました」


 チャイムが鳴って入って来たのは眼鏡をかけた初老の男性の先生、転校生の私に軽く自己紹介をするとさっそく授業に移った。


 一現目は魔法歴史学。


 内容は文字通りに魔法の歴史について学ぶ授業。


 先生が授業を開始してから少し経った後、隠れていた問題が浮上した。


 ……分からない。


 そう、全く話が分からないのだ。私はカイくんに教科書を見せてもらいながら途方にくれていた。

 いや、理由は分かるでしょう魔法歴史学なんて今まで学んだ事ありませんし、そもそも魔法なんて今日初めて見たんですよ。


 ここの世界の生まれでもない私にどう立ち向かえと?


 しかも私が学生だった頃の成績もあまり良いとは言えなかったのだ。


 どうしましょう、色々と詰みましたね。



 私が軽い絶望に浸っていても無情に授業は続いてゆく。


 なんて世界は冷たいんだ。



先「その国は何処かを答えてください。えーじゃあ、転校生のユウさん」


 絶望に浸るのを止めてみると次々と問題が浮上してきた。


 学園生活を続けるために勉強はどうにかするとしてもだ。


 ほら魔法に対する理解とか、この世界の常識については、どうすればいいのだろう。


先「ユウさん? 起きてますよね?」


 一朝一夕に魔法なんて受け入れられないし、基本的な常識については何が元の世界と違ったりするか分からないから。


 もうどこから身につければいいかさっぱり分からない。


 やはり長い目で見たとしたら冠婚葬祭から身につけるべきでしょうか?


カイ「ユウさん?どうしたっすか?先生が呼んでますよ」


 トントンとカイくんに机を叩かれようやく気づいた。


 !? 呼ばれてましたか!?


ユウ「え? あぁ! 考え事をしていて聞いてませんでした、すいません。で、えーと、何でしょうか?」


先「……聞いてませんでしたか。転校初日で緊張しているのは分かりますが話はちゃんと聞いててくださいね。じゃあ代わりに隣のナギさん」


 先生は溜め息をついて指名者をナギくんに変えてしまった。


 呆れてましたね、変えられたって事は答えられないと思われたのでしょうか。


 そのまま聞かれても答えられなかったので助かりましたが少し悔しさが残ります。


ナギ「あ? 俺ですか。あー、セイル国ですよね」


 ナギくんは訪ねるようにして言った。


 何だか確信を持って言われているように感じて、それがどうしてか悔しさを煽る。


 いや、チート会計くんと張り合ってもしょうがないんですけどね。


先「はい、そうですね。セイル国が魔法媒介石の主な原産地として知られています」


 ……そうなんですね、知りませんでした。


 制作側と言ってもさすがにそこまで、この世界の事を私は知らない。


 このゲームは異世界"学園"ファンタジーなのだ、あまり世界に関わる事はない。


 だけどさすがに基本情報はゲームを作る上できちんと決めたのだ、それを説明しよう。



 この世界には様々な種族が暮らしている。



 大きく種族を分けると人間とモンスターの二つ。人間は地球に住む私達のような種族で、モンスターはエルフ、吸血鬼、狼男、人魚など、おとぎ話に出てきそうな理解力の高い上級ものから言葉を使わずただ人を襲う獣ような低級のものまで沢山いる。


 その大きく分けた人間とモンスターは領土や食料やらの問題で度々戦争をおこしていた。


 この世界の領土は東西南北に4つの大陸がある。東と南をモンスター達が治めていて西と北を私達人間が治めていた。


 今ではモンスターの領土を人間が攻めいって落とした為、人間が全ての大陸を治めているのだ。


 東の大陸がトウア国、西がセイル国、南がナンク国、北がホクナ国。


 それで私達の学校があるのはトウア国。他の小さな国が大陸にある事にはあるが実質的に支配しているのはこの国達だ。設定だからって詰めが甘い国名をしているのは気のせいだ。



 東西南北の全ての国に国を代表する学園があるが、東のこの学園は各国とは抜きん出て教育水準が高く世界的にトップの教育機関と言って過言ではない。


 教師は出身や生まれを問わず、モンスターも数多く雇われているので沢山の種族の知識で溢れている。前に話した学力重視の考えは学園の考えなのだ。


 しかしそこには当然問題がある。


 昔から争いをおこしてきた人間とモンスター。殺し殺される憎しみの連鎖はそう簡単には消せないし拭えない。


 だから公には種族を言えない現状なのだ。


 まぁ、それを言った上で人間の国の中核にいる例外的なモンスターもいるわけだが、それはまた別の機会で……。


 って! そんな事、説明してないで授業受けなきゃ!


 ようやく気づいた私は慌ててペンを持ち黒板を写し始めた。





――――


 終わった……。


テルカ「ユウちゃん? お昼だよーどうしたの?」

ユ「あぁ……うん、お昼ね……お昼寝……」

ナ「寝るな」


 現在、地獄の午前授業が終わり、みんな大好き食事時の昼休み。


 私は机に突っ伏していた。


 授業がハードだったのだ。学生時代に転校生になった事があるが、ここまで疲労してなかったと思う。やはり出身というハンデが大きいのだろうか。


 疲労感を隠す事なく私が項垂れているとテルカちゃんが覗きこんできた。


テ「うーん……食堂に行こうかと思ったけど疲れてるようだし……買ってきて教室で食べる?」

ユ「お言葉に甘えさせてもらいます」


 私が即答すると、テルカちゃんは苦笑いしながら「何、食べる?」と気遣ってくれる。


 優しい……天使だ。


 私がテルカちゃんの優しさに浸っていると、ナギくんがちょっとニヤニヤしながら声をかけてきた。


ナ「あー……買い出しは誰が行くんだ?」

テ「? 私だけど、どうしたの?」

ナ「カイも買い出し行くようだし、一緒に行けば?」

カ「っ! な、ナギ!? 急に!?」

ナ「いいだろ買い出しぐらい」

カ「よくない! よくない!」


 突然、話をふられたカイくんは顔を赤くしてブンブンとふっている。


 あぁ、頑張れ青少年、青春の為だ。


 チート会計様はとても愉しそうにしていらっしゃったので私は止めるに止められなかった。


 いや、愉しそうにしてなくても面白そうなので止めないが。馬に蹴られたくないし。


 面白がる事を心に決め、私は頬杖をついて傍観を続けた。


テ「あ、えっと無理しなくていいよ? カイくん」

カ「あ! いや、違うんです! 無理じゃなくて……その、むしろご一緒させてください!」

テ「? うん。無理してないなら一緒に行こう」


 カイくんがあまりにも否定するので気遣ってテルカちゃんが遠慮している。


 朝のようにスキル「違うんです」を使うとカイくんはテルカちゃんとの買い出しに漕ぎ着けた。


 よくやった、青少年。


ナ「あ、カイ。俺のもよろしく」


カ「……」


 軽い調子のナギくんに、いいように使われたと理解したカイくんはテルカちゃんと連れ立って買い出しに向かっていった。


 心なしか疲れたような顔をしていた、頑張れ。



ナ「何? こっち見て」

ユ「いや、面白いなーとですね」

 二人が出ていったドアを見ているナギくんを見てにやにやしてたら。視線に気づかれた。


 正直に言うと青春そうな雰囲気に若返りそうだな、と思っていたのは内緒だ。



ナ「……。なぁ、転校生、お前昔、俺と会った事なかったか?」


 え? 何だろう急にフラグです? もしかしてボロ出したら終わるパターンです?


 軽く聞いているが目はじっとこちらを見ている。


 これは下手な演技だとバレる。



 そう判断した私は。


ユ「えっと、下手なナンパ?」


 パッと出てきた感想で誤魔化す事にした。


ナ「なっ……」


 案の定ナギくんは顔をほんのり赤くして目を見開く。反応可愛いな。


ユ「顔赤くしていますけど図星ですか?」


 多分今私はにやにや笑っているだろう。


 可愛かったのでからかいたくなった。反省も後悔もしていない



ナ「いや、違う、ナンパじゃないし」


 まだ少し顔が赤いがナギくんは動揺をおさめてしまった。残念。


ユ「そうなんですか? 残念ですね」



「ユウ、ナギくん。面白そうな話をしてるね。俺も混ぜてほしいな」



 急に聞き覚えのある爽やかボイスが割り込んできた。


 ビックリして横を見ると綺麗な銀髪のあの人。誰って?


ユ「え? 兄上?」



 シスコンのシルバス兄上ですよ。


シ「今日の朝も昨日の夜も一緒にご飯食べれなかったから来たんだけど、二人が面白そうな話をしているからね。驚かそうと思って。ビックリした?」


 そういえば、食事時には会わなかった気がしますね。色々大変だったのですっかり忘れてました。



ユ「あーはい、ビックリしました」

シ「ユウは冷静だなー……。ま、いいや、そんな所も可愛いし。で、ナギくん、転校初日にユウにナンパなんてしてないよね?」

ナ「してねぇよ」


 ナギくんはチッと舌打ちして、黄色い包みのお弁当をでっかい革の鞄から取り出す。


 って、おい、ちょっと待て。


ユ「カイくんに買い出し頼んでたよね?」

ナ「あぁ? 頼んだけどよ。それが何だ?」


 いやいや、それがなんだじゃないよ。更に食べるのかナギくん。


ユ「……そんな食べるのですか?」

ナ「? あぁ、足りねぇだろ?」ユ「あ、有り得ない……」


ゲームの中でもどうやら男子高生の胃袋は底なしみたいだ。


 そんなどうでもいいことを知った。


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