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転生テロ令息は盤面を覆す ~悪役令嬢奪還作戦~  作者: 兎波 走


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8 一難去って

 教会での新生活は、快適の一言だった。

 大司教さまは貴族の子が暮らすには衣食住に不足があるのではと心配してくれていたけど、


「ここの方がずっといいです。無視されないし、ご飯もみんなと一緒に食べられるし、お部屋も広いし、ベッドも暖かいし」


 と子供らしく素直にぶっちゃけたら、再びさめざめと泣いていた。泣かせる気はなかった。ほんとごめんなさい。


 オベール団長は何度か僕を訪ねて来て、色々と聞き取りをしていった。ただ、内容は僕の伯爵家での日常ばかり。忙しい人だろうに、たかだか家庭に問題がある子供一人のことに拘(かかずら)ってていいんだろうか。

 ……と思っていたら、疑問は割とすぐに晴れた。

 ラウルのスキルが「剣聖」だから、然るべき年齢まで成長すれば早いうちに特別枠で第二騎士団に入れる予定だったんだそうである。それが、この間の事件で人格に問題があるかもしれないと露呈してしまった。


「君も知っていると思うが、騎士は強ければ良いというものではない。無論、剣の腕がなければ誰も守れないから力は必須だ。だがな、王家に忠誠を誓い王の剣として生きるべき者が、人を……特に家族を守るどころか嬉々として虐げるのでは話にならない。そのような危険人物を取り立てる訳にはいかぬのだよ。だから今は、色々な方向から改めて彼を見極め直しているところだ」

「いいスキルがあるのに、ですか?」

「力は正しく使われてこそだ。暖炉の中で燃える火は人を温めるが、暖炉の外まで出てきたら家を燃やしてしまう。ラウル令息ははっきり言って火事だ。いちから教育し直したとして、暖炉の中に収まっていてくれなければ家に置いてはおけない」


 つまり今の状態では王家という家を燃やしかねないラウルに再教育が可能かどうかを、将来の上官になる予定だった団長が被害者の僕を含めた周囲の話から再確認しようとしている、と。団長の話は、相変わらず解りやすい。


「ラウルとは……ええと、スキル顕現の儀式までは、普通の兄弟だった……と思います。双子だったし、どっちが上とか下とかなかったんですよ。『得意なものが違うだけだ。お前は勉強が得意、オレは体を動かすのが得意なんだから勉強はお前がやれ』って、よく言ってました」


 頑張ってフォローを入れる僕。でも十歳だからね。フォローのつもりでダメージ追加しちゃうのも仕方ないよね。中身は二十七歳だけど、他人からは分かりっこない。だから全力で利用する。


「そうか……」


 周囲にも聞き取りをしてるなら、団長は弟が家庭教師から逃げ回ってるのも、伯爵が僕に尻拭い兼スペアをやらせる前提で奴のサボりを良しとしているのも知っているだろう。今も苦い顔をしているし。

 スキルを得た途端に増長して双子の兄に暴力を振るい始めたラウル、それを諫めるどころか甘やかして大司教さまや周囲の貴族家に嘘を吐いていた両親、止めない乳母と乳兄弟。第二騎士団長から見た僕の周りの人々はこんな感じだ。うん、間違ってないよ。


 おかげで、最終的にラウルの騎士団入りはお流れになったらしい。普通は試験を受けて見習いから始めるところをスキルの優秀さで全部すっ飛ばして、最年少記録を大幅に更新して鳴り物入りで入団するはずだったらしいのにね。


 主に王家を担当する第一騎士団は勿論、王都の治安維持を担う第三・第四騎士団にも断られたとか。

 ちなみに第三と第四の違いは構成人員の地位。第三が低位貴族家出身、第四が平民出身。有事の際に真っ先に体を張らされるのは言うまでもなく第四騎士団である。世知辛い。そしてラウルは平民出身者で構成された第四にすら入れて貰えなかった、と。伯爵家の子息なのにね。ある意味、これが一番堪えるかもしれないな。


 改めて試験を受けようにも奴の脳みそは長年使われてないせいで蜘蛛の巣が張ってるし、まかり間違って筆記に受かっても「騎士の適性なし」という判断が既に出ている。詰みだ。齢(よわい)十歳にして。


 もちろん、僕はそれを聞いて喜んだりなんて馬鹿な真似はしない。


「そんな……ラウル……」

「君のせいではないよ。気に病む必要はない」


 悄然と肩を落とした僕を、調査終了を伝えに来てくれたオベール団長は痛ましそうな表情で見る。


「それに、いい知らせもある。ヴェルニエ公爵閣下が君と会いたいそうだ」

「えっ!?」


 ヴェルニエ。原作のレオネルが刺殺した公爵令嬢の家である。

 思わずぎくりと肩を揺らしてしまったが、今の僕と公爵家とは無関係だ。ただ、家から出してもらえなかった伯爵令息にとって公爵は雲の上の人だろう。そっちに驚いたことにしておく。


「公爵閣下が、ただの子供の僕に、お会いになるんですか?」


「ああ、まだ教わっていなかったかな? ヴェルニエ公爵家は、君の実家であるデュマ伯爵家の寄親にあたるんだよ。だから早い段階で王家から調査を引き継いでいて、伯爵では事態を収束できないと判断して本格的に手を入れることにしたのだろう。寄子の醜態は派閥全体の恥になりかねないから」

「そ、そうなんですね」


 寄親寄子。実際のヨーロッパには存在しないのに、なぜか創作の擬似ヨーロッパではよく見るやつだ。

 そっか、原作では描写されていなかったけど、この世界は寄親寄子制があるのか。

 ……ん?

 ちょっと待て。つまり原作のレオネルは、実家の寄親のたった一人の継嗣を刺殺したのか。しかも、継嗣の婚約者を寝取ろうとする平民の幸せのためと言って?


 あー、なんか解った気がするぞ。原作でスキル「剣聖」持ちのラウルがヒロインの取り巻きにならなかった理由。


 もともと「同派閥であろうとなかろうと関係なく、二度と模倣犯が出ないよう厳しい処罰になる」はずだったのが、寄親が寄子にここまでナメた真似されたら、「反逆に対する報復」が上乗せされる。犯人が未成年で自害したからって伯爵家の責任は軽くならない。なりようがない。凶行に及んだ根本原因が家族からの扱いの悪さだったなら猶更である。

 原作小説で、他人の血を吸って咲き誇るお花畑でヒロインと王子様がきゃっきゃしてた地面の下では、デュマ伯爵家の死体が養分になっていたのかもしれない。あいつらつくづく普通の神経じゃないよなぁ、近寄らんとこ。


 ……といっても、バリバリ当事者の公爵閣下と会うなんてイレギュラーイベントがこれから待ってますけど!

 速攻でフラグが回収されてるじゃないですかやだー!

 

 お読みいただき、ありがとうございました。

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