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転生テロ令息は盤面を覆す ~悪役令嬢奪還作戦~  作者: 兎波 走


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7 教会へ

 大司教さまは、騎士団の到着を知らせる声が響くや否や、教会の正門から転がるようにして出てきた。

 顔が紙のように白い。僕の保護を申請する為に先行していた騎士から既にあらかたの事情を聞いていたようだった。


「レオネル様!」

「大司教さま」


 先に馬から降りた団長が、同乗させていた僕の両脇の下に手を差し込んで抱え上げ、鞍から降ろしてくれる。地面に足が付いた途端、布をたっぷり使った法衣の中に仕舞い込まれるようにして抱きしめられた。


「大司教さま……」


 そのまま、おいおいと声を上げて泣き崩れるおじいちゃん聖職者を、僕は抱き返す。

 多分、虐待に気付かなかった、守れなかった自分を不甲斐ないと責めているんだろうな。お人よしで優しい人だから。


 でも大司教さまのせいじゃないよ。

 聖職者としての地位と発言力があるからって、やすやすと貴族の家庭の事情に首を突っ込めるわけじゃない。僕も「遠慮なくスキル実験できる実験体ゲットやったー! 復讐ついでに出来る限り利用してやろ!」って細々とした工作(いたずら)に勤しんでたし。


「泣かないでください、大司教さま。大司教さまが僕をずっと心配してくださっていたおかげで、あまり悪いことにならずに済んでいたんですよ」


 無視できない立場の人間が気にかけているというだけで、歯止めがかかる。

 大司教さまの目は、充分な抑止力だった。あの伯爵夫妻が、渋々ながらも僕を毎週の礼拝にだけは連れて行っていたのだから。つまりそれって、教会に連れて行っても問題ない最低限の見た目を保持するための気配りだけはされていたということでもある。もしこれがなかったら、僕はもっと大変な目に遭わされていたはずだ。ラウルは手加減を知らないアホだし。


「レオネル令息。自覚がないだけだろうが、君はかなり、酷い環境にいたのだぞ」

「え?」


 そうなのかな。でもちょうどいいや、追加でチクっちゃおう。


「でも、『大司教さまがお気になさるから、閉じ込めるわけにもいかない』って……」

「それは、ご両親が?」

「はい。……あっ、どうしよう……大司教さまに変なこと言っちゃ駄目だって言われてたのに……」

「いや、問題ない。聞いたのは私と騎士たちだけだ。そして我々は、伯爵家から口止めはされていない。我々から報告したことにしよう」

「ありがとうございます」


 まともな大人、いるところにはいるんだよなぁ。

 でも、家族や周囲の面々から自己肯定感をズタズタにされていた原作のレオネルは、福祉にも真っ当な大人にも繋がれなかった。助けの求め方どころか、普通に生きられる権利が自分にもあるということすら分からなかった。屋敷の中の狭い世界では生きるための知識を得る機会がそもそもないのだから、完全に詰んでいたともいえる。

 だから口先だけのヒロインに依存して執着して、見当違いの暴挙に出たのだ。質(たち)の悪いことに、良かれと思って。


「騎士団長様、レオネル様の今後はどうなるでしょうか」

「教会にて保護いただく以外のことは、現状では不明です。ただ、我が国の総大司教様が居合わせられた場で発覚した事件であり、王家が介入すると陛下が名言されておられる。伯爵家には何らかの処罰があるでしょうが、レオネル令息の不利になるような話には恐らくなりますまい」


 おお、二重敬語だ。王家に対しては二重敬語を使うんだな。憶えておこう。

 ちなみに、総(・)大司教は大司教たちを纏めている役職で、各国に一人ずつしかいない。大司教が各地に建っている教会のリーダー的な存在なら、総大司教は国内全ての教会のリーダーといったところ。


 前世のヴァチカン市国みたいなところがこの世界にもあって、そこにはもっと地位の高い人もいるらしいけど、この国の中で一番偉い聖職者は総大司教だ。で、今回はその人が参加した式典で事件が起こったので、教会で身柄を預かるという選択肢が最優先になったんだと思う。

 なにせ、スキルは女神さまによって与えられるものであり、全てが尊く必要なものというのがこの世界の定説だ。信仰の対象の意向を無視する所業を、神職が見逃せるはずもない。


 ちなみに、女神教徒が受ける罰の中には破門もあるらしいよ。

 前世の村八分なんかよりずっと重くて、宗教的権利を全て剥奪されて社会の枠組みから完全に蹴り出されるそうな。

 なお、スキルなしの人は悪しきモノに狙われないようにするため、発覚したらすぐさま教会で保護されるそうだ。だから、蔑んだ相手以上に人権がなくなるともいえる。


 女神さまの思し召しとして尊重されるべきものを理由に差別や排斥をする行為は──原作を含め、現実にはそこかしこで行われているのだろうが──決して表に出してはいけないのだ。両親が僕の存在を、体が弱いことにして教会以外から隠そうとしていたように。


 とはいえ、流石にあの連中でも破門はないだろう。既に名誉は地に落ちて、罰を受けたといっても過言ではないから酌量の余地もあるだろうし。


 原作ではどうだったかな。レオネルの悲劇のスパイス的にちらっと出てきたくらいだったっけ。

 ラウルは剣聖なんてスキルがあるんだからヒロインの取り巻きに抜擢されても良かったのに、脳筋剣士枠は第一騎士団長の息子だった。レオネルとの対比として出しただけなら、逆に剣聖なんてスキル生やしたのも意味不明だしなぁ……。それとも弟が近くにいたらコンプ持ちのレオネルがヒロインに近付かなくなるから? うーん、謎。


「大司教様。レオネル令息のこと、お頼み申します」

「はい。女神様の御名にかけて、お守りいたします。既に聖騎士の派遣を依頼しております」

「おお、それは心強い」


 聖騎士は教会が抱える騎士で、聖騎士団は王家や貴族家から独立している組織だ。

 普段は総大司教が管理する大教会に隣接した詰め所にいて、必要があれば大司教が要請し、総大司教の承認によって各教会へ派遣される。もし万が一、伯爵家が僕を返せと私兵を引き連れてきて威圧しようと、彼らがいれば突っぱねることができるだろう。


 お読みいただき、ありがとうございました。


 ちなみに大司教は、レオネルに何度か屋敷での生活について聞き取りをしています。ただ、レオネルの近くには大抵両親のどちらかがいて失言がないように目を光らせていたし、本人は口止めされていたので発覚しなかった、というのが真相になります。

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