↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生テロ令息は盤面を覆す ~悪役令嬢奪還作戦~  作者: 兎波 走


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

7/38

6 伯爵家脱出

 本当はあいつに何が起こったかも知ってるし、僕の仕業だっていうのも大正解なんだけど、残念。証明できなきゃただの言いがかりだ。

 そして都合が悪ければ全部僕のせいにするのが当たり前になっていたラウルは、「いつもどおり」双子の兄に失敗の責任を擦り付けようとして、両親が世間に隠していた僕という不都合を大勢がいる前で大公開しちゃったのだろう。


 当主が留守の伯爵家に強権を以って介入できる存在がやってくるほどの事態に発展したくらいだ。よっぽど見苦しく喚き立てたんだろうなぁ。その時のクソ大人共の顔、見たかったなぁ。さぞかし良い面の皮だっただろうに。

 でも僕は、何も知らないし判らない。……ということになっている。だからとことん、しらばっくれるのみ。


「まさか、誰か怪我をしたんですか!?」


 スキル「剣聖」の披露中に起こる失敗といえば、普通の人は負傷を連想するはずだ。僕も椅子から身を乗り出すようにして、真っ先に怪我の心配をしてみせる。


「いや、誰も怪我はしていない。ラウル令息の言葉に、何か心当たりは?」


 ひとまず団長の言葉に胸を撫で下ろしてから「ありません」と答えた僕に、騎士たちは同情を含ませた顔をしている。健気な子供に見えてるかな。見えてるといいな。


「もし良ければ、君のスキルを教えてほしい」

「分かりません」

「分からない?」

「スキルが『ある』のは、判っています。でも儀式のとき、どんな力なのか誰も読めなかったんです。今も、大司教さまが調べてくださっています」


 いかに強力なスキルであろうと、理解していなければ使えない。この世界の常識であり、明確なルールだ。

 スキルも使えない、傍から見て明らかに虐げられているように見える子供に一体何ができるというのか。まともな大人なら、そう考えるだろう。


「それは、この屋敷から一番近い教会の?」

「はい」


 騎士団長は部下の一人の名を呼んで短く指示を出し、彼が一礼して立ち去るのを僕は座ったまま見送る。きっと、教会に裏を取りに向かったのだろう。


「問題が解決するまで、勝手ながら教会で過ごして貰うことにした」

「え」


 ──と、思っていたのだが。どうやら、事態は少しばかり予想外の方向へ転がるらしい。


「僕、教会の子になるんですか?」

「いいや。ずっとではなく少しの間、環境が良くなるまで預かってもらうだけだよ。きっと当たり前になってしまっているのだろうが、君はずっと不当な扱いを受けていたようだ。それは直ちに糾(ただ)されなければならない」

「でも、お父様と、お母様は」

「文句は言わせない。これは陛下のご意向でもある。その手の痣は、どうして付いたのかな?」

「これは……ええと、ラウルと……すこし、剣術の練習を……」


 おや。袖の余る長袖を着せられていたのに、手の甲の青痣に気づいたのか。有能だなあ。さすが、団長の地位まで上り詰めるだけある。

 言いにくそうに口ごもりながら当たり障りのないことを伝える僕に、テーブル越しに向かい合った大人たちの表情がどんどん剣呑になっていく。


「腕を見せてもらっても? ……先程から何か言いたそうだが、不都合でもおありかな」

「い、いえ……」


 僕に対する優しい視線とは打って変わった厳しい目を向けられて、執事が狼狽した声を上げた。国王陛下のご意思に、伯爵家の執事ごときが文句を言えるわけがないから、団長の態度は当然である。

 その過剰ともいえる反応を見て、部下の一人が近付いてきた。僕に一言断ってから袖口を留めるボタンを外し、腕の付け根近くまで生地を引っ繰り返すようにして袖を捲り上げる。

 斜め後ろから微かに唸り声が聞こえたので少し怯えた素振りで振り返ると、執事が苦虫を噛み潰していた。一方、騎士たちは皮膚に刻まれた派手な色の直線の数々を目の当たりにして息を呑んでいる。

 体格や服に関しては「偏食が酷くて」「あのような服しか着たがらなくて」などと誤魔化せるかもしれない(し、実際に大司教さまにはそう言い訳してた)けど、明らかに木剣の痕だと判る痣を見られたら終わりだよねぇ。

 痕が一本だけなら訓練中に失敗した可能性もあるだろう。ただ、前腕から手首に集中して何本も付いているのは異常だ。一方的にやられて頭を庇ってたんだって、剣術に慣れ親しんだ騎士団の人なら痣の付いた角度や酷さから判別つくだろうし。


「これは、その、レオネルぼっちゃまが」


 弁解したって逆効果だ。どう見ても、これらの痣は子供の腕についてたら駄目なやつなんだから。例え悪さをした結果の折檻だったとしても許されない。


「レオネル令息が? どうしたと?」

「……あの、騎士団長さま。僕は、ラウルみたいに剣を扱えなくて。下手だから仕方ないんです」


 庇うふりでダメ押しをしておく。オベール団長たちの顔がますます強張った。斜め後ろからの悪臭が少々きつくなったから、多分執事はだらだら脂汗を垂らしてるんだと思う。臭いからやめてほしい。


「それは当たり前だろう。仮に同時期に稽古を始めた双子の兄弟だからとて、『剣聖』スキル持ちと普通の子供の習熟速度が同等になるはずがない。比べる時点でおかしい」


 袖を捲った騎士が、椅子に座ったままの僕をひょいと抱き上げて顔を顰める。


「団長、十歳の男児にしては軽すぎます」

「やはりか。教会から受け入れの返答を待つ時間も惜しいな。すぐ出立しよう」


 そのまま大股で、団長を先頭にのしのしと応接室を出ていく。

 抱っこされたの、ずいぶん久しぶりだ。感嘆を素直に言葉にすると、騎士の肩越しに見えた執事の顔が歪む。また余計なことを言いやがって、とか思ってるんだろうな。


「騎士団長様、困ります! せめて主がお戻りになるまで──」

「子供を不当に扱う元凶の帰りを待ってどうする。それに伝えたはずだ、『これは陛下のご意向でもある』と。不敬に問われたいなら、今すぐこの場でしょっ引いてやるが?」


 わー、オベール団長かっこいい。ペンライト振りたい。

 お読みいただき、ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。