5 第二騎士団の来訪
留守番をしていた僕は、珍しく使用人から声を掛けられた。
なんでも、王城から騎士団が派遣されてきていて、僕に面会を求めているらしい。
多分、というかほぼほぼ、王城でのラウルの件だとは思う。伯爵夫妻の帰宅より先に来るとは予想外だった。
ただ、僕の仕業だとバレてるとは思えないんだよなぁ。
大司教さまからお借りした本にも、他人のスキルやスキルによって起こった事象を看破できる能力なんてものはなかったし。ちなみに他者の思考を読むようなものも存在しないから、ボロを出さない限りは大丈夫。
ともあれ、お待たせするわけにはいかないな。余計な疑念を抱かせないためにも、さくっと行ってさくっと終わらせよう。
僕は不思議そうな顔をして首を傾げてみせつつ、呼びに来た使用人の後を素直に付いていった。
「レオネル・デュマです。初めまして」
応接室に通されていた大人たちに、僕は礼儀正しく挨拶する。
「第二騎士団、団長のノエ・オベールだ」
椅子から立ち上がった人がそう名乗った。
短く刈り上げた鳶色の髪に眼光鋭い瞳は黒色。鍛えた体に礼装を纏っているところを見ると、今日のお披露目パーティーに参列してたのかな。騎士団長なら貴族だろうし、仕事なのか保護者としてだったのかは不明。もし保護者だったら、我が子の祝祭なのに中座させて申し訳ない。
一方、団長が座っていた椅子の周囲を囲むように立っていた部下と思しき他の人たちは、まだ若そうだった。皆、やってきた僕を困惑気味に見ている。彼らは自己紹介するつもりはないらしい。
「あの、騎士団長さま。僕にご用事があるとか……」
団長に改めて椅子を勧め、自分も向かいに座った。団長以外にも一応声を掛けたけど、彼らは両手を背後で組んで、姿勢を正したままずっと立っているそうだ。テーブルが間に挟まれているとはいえ、威圧感がすごい。
メイドが客人にお茶のおかわりを出す。そのまま退出しかけて怪訝な顔をされ、うっかり僕の方に出し忘れたのを思い出したらしい。慌てて用意して、引き攣った笑顔を皮脂でギトギトの顔面に張り付けて部屋を出て行った。
まあ、普段から習慣がないと忘れちゃうよねぇ。扉が閉まるのを目視で確認した時に、僕の斜め後ろに控えた執事が渋い顔をしてたのがちらっと見えたけど、そもそもお前とメイド長の教育がなってないのが原因だからな。あと単純に臭いから、もうちょっと離れてもろて。
「君の双子の弟のことで来た」
「ラウルの?」
ここで僕は不安そうな顔をする。口を付けかけたお茶のカップをテーブルに戻した。
「ラウルは今、両親とお出掛けしているみたいなのですが……」
受け答えには気をつけないといけないな。
僕が知ってるのは、あくまで「家族が僕を置いてどこかへ行ったらしい」だけでないとおかしい。実際に行先を伝えられてはいないのだから。
実際は、あいつらが城から事前に伝えられていた今日の式典の式次第をラウルに言い聞かせて練習させていたのを、僕は聞いていた。覚えが悪すぎて何回も何回も繰り返すものだから情報収集には何の苦労もしなかったし、おかげで奴の晴れ舞台をピンポイントで潰す算段を立てられた。お馬鹿さまさまである。
僕はこの屋敷ではずっと空気だった。ラウルが「剣の稽古」に無理矢理誘う時以外は誰の視界にも入っていないし、両親との会話なんて年単位でない。それが関係者の証言で浮かび上がってくる、レオネル・デュマの日常である。
「もしかして、何かあったんですか?」
だからここで僕がすべきは、「双子の弟の件でわざわざ騎士団長が来た」という異常事態から異変を感じ取って、兄弟が心配だと態度で示すこと。
間違っても、不幸が起こった可能性に期待なんて行為はしちゃいけない。あくまで「あの子に疑いをかけるなんてとんでもない」と第三者から思われるような善良かつ無力な子供でいなければ。
「……やはり行先も知らなったか……」
顔を曇らせた団長は、ぽつりと呟いた後で、言いにくそうに改めて口を開く。
「今日は、お城に十歳になる貴族の子を呼んで、パーティーをしていたんだ。ラウル令息は、『剣聖』の力を皆の前で見せる予定だったんだよ」
この人、いい人だな。子供にも分かりやすい言葉を選んでくれてるし、説明された僕が傷つくだろうと考えて辛そうにしてる。是非とも屋敷の大人どもに爪の垢を煎じて飲ませてやってほしい。5リットルほど。
「スキル……ああ、だから、僕はお留守番だったのですね……」
「本来なら、その時点でおかしいのだがな」
悲しそうに俯いた僕は、この屋敷では異質だ。それこそ、外から来た人が一目で気付く程度には。
主人一家どころか使用人の大半が肥え太っている中で、伯爵家の嫡子でありながら痩せっぽちでちぐはぐな服を着せられ、華やかな場から遠ざけられている子供。今頃、「虐待」の文字が客人たちの脳裏に浮かんでいることだろう。
横幅がボリュームたっぷりのせいで主人の息子に付き従っているようには到底見えない執事と並んでいるから、これまた素晴らしい比較演出になっているはずである。
実際には「油操作」で僕の体に付く皮下脂肪の半分以上をラウルに移してるだけだから、極端にひもじい思いをしているわけでもない。ただ、独りで食事を摂っているのをいいことに、使用人と同じメニューにされてるのも僕は知っているのだ。
「それで騎士団長さま、お城に行ったラウルに何かあったんですか?」
弟に対する心配の態度を崩さない僕に、オベール団長は再び言いにくそうにする。
「国王陛下の御前でスキルを見せるときに、……その、大きな失敗をしてね。それを『君のせいだ』と言って騒いでいるんだ」
「えっ!?」
僕の企みはどうやら成功したらしい。よしよし。
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