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転生テロ令息は盤面を覆す ~悪役令嬢奪還作戦~  作者: 兎波 走


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4 スキル「油操作」

 ※2026.9.4 エピソードタイトルを変更しました。

 スキル顕現の儀式の日から、五年の歳月が過ぎた。


 僕を取り巻く環境は、相変わらずあまり良くない。最悪とまでならなかったのは、大司教さまの目が光っていたのが大きいだろう。あとは、父に最低限の分別があったことも。

 ただ、伯爵の場合は僕を思いやっているわけではなく、ただ単にスペアの重要性を理解していただけだ。


 何せ、ラウルのスキルは「剣聖」だ。国の有事には、いの一番に呼び出されて前線に行かされかねない。そこで万が一があった場合、伯爵家は双子の兄弟である僕が継がなくてはならなくなる。

 それに平和が続いたとしても、補佐という名のタダ働きを裏方で細々とこなす影がいた方が何かと都合がいいのだろう。なにせ双子の弟は勉強どころか、机の前にじっと座っていることすら難しいのだから。多分、あいつの賢さと落ち着きは僕が全部持って行ってしまったんだろう。


 まあ、そんな感じだから多分、ラウルが有能な女性と結婚して子供が出来て、僕が用済みになったら人知れず処分するつもりじゃないかな。両親は儀式以降、僕を公の場所には連れ出さなくなったから。例外は教会くらい。それも渋々。

 僕の存在を知っている顔なじみには、病気で最低限しか外に出してあげられなくて……とか言ってお茶を濁しているらしい。


 もっとも、この状況をいつまでも黙って耐えてやる気はないんだけどな!


 僕は二階の廊下にある柱の陰から、そっと玄関ホールを見下ろした。

 そこには両親とラウル、そして男爵一家がいる。めかしこんでいるのは王城で祝祭があるからだ。十歳になった子供たちのお披露目パーティーで、有能なスキル持ちは皆の前で実演するんだとか。晴れの舞台ってやつだね。


 もちろん僕は留守番である。一方ラウルは、剣聖として王族の前で剣舞を見せるらしい。本人が鼻の穴をかっ開(ぴら)いて自慢気に言っていたから知っている。

 実にお誂(あつら)え向きの機会がようやく巡ってきた。待った甲斐があった。


 何せ相手は「剣聖」スキル持ちで頭の悪い、いわば歩く暴力装置である。一息に失脚まで追い込まなければ僕の身が本格的に危なくなるから、下手な真似は出来なかったのだ。

 奴に恨みは大いにあるので、社会的に死んでもらおう。剣の練習と称して、何度も丸腰の僕を木剣でタコ殴りにするような奴に与える慈悲はない。

 ちなみに、子供を寄ってたかってないがしろにした他の連中にも細々とした復讐はしてある。ハンムラビ法典ばんざい。目には目を、歯には歯を、スキルの恨みにはスキルを、だ。


 階下の六人には、その効果が如実に表れていた。

 父と男爵(おじ)は三十代前半にも関わらず頭頂部がだいぶ寂しくなったし、母と男爵夫人(ドロテ)は顔面が吹き出物だらけ。弟(ラウル)と従兄(ドニ)の顔がニキビまみれになるのはもう少し後になるだろうけど、全員漏れなく肥え太って悪臭を漂わせている。


 これ全部、油が原因の症状である。脱毛症は皮脂の過剰分泌が原因だし、吹き出物は脂性肌の角栓詰まりを白粉(おしろい)が悪化させた状態。

 顔の皮脂が多いと化粧が崩れやすくなるんだって、姉ちゃんが言ってたのを憶えている。前世の化粧品ですらそうなら、こっちの世界の商品はさぞかし心許(もと)ないだろう。

 事あるごとにせっせと塗り直し、直せば直すほど肌の状態は悪くなっていくのだ。負のスパイラルがぐーるぐる。


 太っているのは、体内の皮下脂肪を内臓脂肪に変換したり肥大化脂肪細胞(セルライト)に変えたりして、せっせと増やしたから。悪臭は肥満による汗蒸れと酸化した皮脂が原因だ。

 なぜならこっちの石鹸、洗濯用にしろ浴用にしろ、洗浄力がよろしくない。過剰な皮脂は洗っても落としきれず、蓄積して悪臭の原因になっている。

 今日はおろしたての一張羅(いっちょうら)だから服から臭うことはあまりないだろうけど、普段はそれはもう酷いものだった。何とか改善しようと香水をガンガン振りかけるも、原料は動植物から抽出した精油、つまり油。僕にかかれば劣化もお手の物である。


 スキルの発動条件と範囲について、僕は大司教さまから本を借りたり何度も実験を繰り返したりして、今ではある程度正確に把握していた。大切な奥の手だから、使えることは引き続き内緒にしてある。


 僕の「油操作」に関しては、「あらかじめ指定した任意の場所で、任意の油を自在に操れる」能力だ。ただし成功させるには条件がある。場所も油も、僕自身が認識できているものでないといけない。


 例を一つ出してみよう。

 そうだな、「スキル顕現の儀式を行った教会に、オリーブ油をぶちまけたい」とする。これは可能だ。僕はどちらも知っているから、距離とか関係なく行える。

 でも場所を「大司教さまの私室」に変更するのは不可能だ。成功させたいなら教会の見取り図を手に入れ、該当の部屋がどこにあるか僕自身が理解する必要がある。僕が知っている場所を起点にして、方角と距離が分かれば、行ったことがない地点でも狙うことができる。

 なお対象が人間の場合、知っている相手なら部位を指定できれば、対象が僕の目に見える範囲にいなくてもスキルの影響を及ぼせた。地味に見えて、かなり強力なスキルと言える。


 では更に踏み込んで、「大司教さまの私室の、机の抽斗(ひきだし)の中」を狙うならどうだろう。

 この場合は、見取り図だけでは不足だ。実際に部屋へ行き、机の位置や抽斗(ひきだし)の有無などを把握してからでなければ可能にならない。お世話になってるから、実際にはやらないけどね。


 ちなみに油の種類も、例えば「ユニコーンの鬣(たてがみ)の下から採れた油」なんて実在するかどうかも判らないものを出すことはできない。ただの馬油(ばーゆ)なら可能。石油を精製した産物であるワセリンも出せたので、僕が知ってさえいれば割と何でもありである。小難しい化学構造とか成分の正式名称とか要求されなくて良かった。


 そうそう、儀式のあの日に考えていた石油王にはなれそうになかった。この世界では石油を利用していない。普及させるにはかなりの段階を踏んで設備を整えなければならないし、何より僕自身がいなくなったらそこで終わりの状況で商売するなんて無謀である。


 ……かなり話が逸れた。

 まあ、そんな有様なので、あの二家族は公的な場所でも遠巻きにされてヒソヒソされているらしい。彼らに近寄らない僕や、逆に既に鼻が馬鹿になってる使用人たちはノーダメージだけど、お付き合いを避けられない人は大変だろうね。解るよ、あいつら臭(く)っさいんだもん。え、広い心で寛恕(かんじょ)? してやるわけない。

 

 お読みいただき、ありがとうございました。

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