↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生テロ令息は盤面を覆す ~悪役令嬢奪還作戦~  作者: 兎波 走


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

38/38

37 すべては水面下で

 その後も琴音(ネリー)の研修は続き、五日も経てば全員がアルコールから水分だけを抜き取ることが可能になっていた。

 俺は公爵家の料理人や使用人たちに芳香蒸留水(ハーブウォーター)の味見をしてもらい、アイデアを募ったりアドバイスを受けたりして、飲料として商売に使えるレベルにまで質を引き上げた。


 完成した飲料は「芳香飲料水(オー・エルブス)」と名付けられ、義父上(ちちうえ)や琴音(ネリー)が社交で広めてくれた。十歳の女の子でもお茶会を主催するんだよ。貴族ってすごいなぁ。

 結構好評で、工場を誘致してくれる家があったり柑橘が特産の領と共同事業として動くことになったりして、俺も色々と忙しくなった。


 そんな時だった。

 王家が大量の水を差してくれたのは。


「……わたくしが、王城で暮らす? 本日から? なぜです?」


 公爵家の応接間の一つで、王家からの使者が脂汗を流している。


「それは、王妃教育の一環で……」

「王妃殿下も王太后殿下も、学園卒業後に王妃教育を始められたと記憶しておるが? それとも、我が娘は今から学び始めなければ教育が間に合わぬとでも?」


 椅子に座った琴音(ネリー)も、その隣の義父上(ちちうえ)も笑顔だ。笑顔で怒っている。そしてなぜか同席させられた俺は無関心を装っているが、内心でやっぱり腹を立てていた。


「そもそも、そのような大切な話を、なぜ陛下自らがなされぬのだ。使い走りの伝言一つで、我々が王家の言い分を無条件で呑んで唯々諾々と従うとでも?」

「いえ……その……」


 使者はますます小さくなるが、同情心は微塵も湧かない。

 こちらをチラチラ見てくるのも癇(かん)に障(さわ)るので、わざとあからさまに無視した。

 ひょっとして、こいつが俺をこの場に同席させたのは、自分の味方をしてほしかったからか? 隙あらば公爵家の乗っ取りを企む連中と一緒にすんな。


「……さて。どう思う?」


 結局、義父上(ちちうえ)が明日にでも直接城へ行って真意を糾すと言って使者を追い返し、俺たちは団欒室(だんらんしつ)に集まった。


「最近は色々と動いておりましたし……目障りだと思われたのかもしれませんわね。どうやらあちらは、婚約者と比べられると困るようですから」

「努力の方向性を間違っていますね」

「いや、そもそもする気もないようだぞ」

「と、おっしゃいますと?」

「王城に紛れ込ませておる間諜からの情報だと、殿下の教育カリキュラムは大幅に遅れておるようだ」


 俺と琴音(ネリー)は、思わず互いの顔を見合わせる。


「これは……あれでしょうか。優秀な婚約者に王子の仕事まで押し付けようとする、お約束テンプレ」

「ですわね、きっと。……でも、王家はそれでよろしいのかしら?」

「ん? 宜しい、とは何かね?」

「だって、お父様。王位継承権を持つ子供の中で、最も血が濃いのがわたくしですのよ?」


 王位継承の正当性は血統に依る。だからこの世に生まれた時点で、既に琴音(ネリー)が他の継承者より一歩リードしている状態なのだ。

 なのに、本来なら王位を継がせる気満々の王子に対して行われるような教育まで備わってしまったら。

 女だから容易く御せると思っているのか、王子を愛しているから絆されてくれると侮っているのか。


「ねぇ廉(れん)くん」

「なに?」


 ネリーが、いや琴音が、昔と同じ表情で笑うから。

 俺も、昔の口調で返す。


「もしも、廉(れん)くんの目指す先が女(・)公(・)爵(・)の(・)婿(・)か(・)ら(・)王(・)配(・)に(・)な(・)っ(・)て(・)も(・)、私と一緒に来てくれる?」

「勿論、どこまででも」


 だよな。琴音は俺を負けず嫌いだとか言うけど、琴音本人だって大概なのだ。やると決めたら、とことんやるだろう。

 まして、ここまで自分たちをナメ腐った連中が相手なら猶更だ。


「ふふ、ははは! 我が娘と婿殿ながら、末恐ろしい!」


 義父上(ちちうえ)の顔にも微笑。獰猛な、野望を抱く貴族らしい笑い方。


「だが、頼もしい限りだ。私も覚悟を決めよう」


 その後、俺たちは話し合いを重ねた。要請を断れた場合、断れなかった場合。それぞれのパターンに合わせて。


 そして結局、琴音(ネリー)は王城で暮らすことになった。

 もちろん義父上(ちちうえ)は最大限の配慮を約束させたし、山ほどの条件を付けた。

 専属の侍女も侍従も、護衛も毒見役も、全て公爵家に忠誠の契約を結んだ者で固め、滞在する部屋の内装も調度も全て公爵家で用意した。さすがに王城で天然痘テロをかますほど王妃サイドだって馬鹿じゃないだろうけど、警戒しすぎることはないからね。


「ではお父様、レオネル令息。行ってまいります」

「ああ。行っておいで」

「行ってらっしゃいませ、公女さま」


 それに伴って、俺の学習すべき範囲も大きく変わった。いずれは公爵領だけでなく、王国全てを動かせるように。

 すべては静謐(せいひつ)なる、水面の下で。

 お読みいただき、ありがとうございました。


 今回で第一章は終わりになります。

 タイトル通り、「奪還」がレオネルの目標に入りました。

 第二章は、ある程度書き溜めてからの投稿になります。気長にお待ちいただけると幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。