↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生テロ令息は盤面を覆す ~悪役令嬢奪還作戦~  作者: 兎波 走


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

34/38

33 デュマ伯爵家の黄昏

 ※前回に引き続き、今回も三人称視点です。

 デュマ前伯爵に不審な客人が現れたのは、王城でお茶会が行われて十日近く経った頃であった。

 孫のラウルにも招待状は来ていたが、先日の祝祭で大恥をかいたばかりである。しかも公爵家の後見養子になった双子の兄のレオネルが注目を浴びる場となれば、連れて行ったが最後、更なるトラブルを引き起こすだろう。丁重にお断りしていた。


 それでなくとも、学んでおくべき礼儀作法も学問も足りないことだらけだというのに。

 家の中も外も問題まみれ、現伯爵である息子は盆暗(ぼんくら)、二人いる孫のうち優秀な方は公爵家に取られ、残った方は猿並の知能。息子の妻は寝込んでしまっている。

 目の下に隈を作った前伯爵は、最初、その先触れを断ろうとしていた。得体のしれない客人を迎えている暇はないと。


 しかし前言を撤回したのは、「レオネル令息の件で、王妃殿下より書状をお預かりしております」という言伝が添えられていたからだった。

 そして約束の日、やって来たのは妙齢の女性だった。


「ベルタ・マイヨと申します」


 子爵家の名。

 それにしては、身に纏ったドレスは贅沢すぎた。とても王妃の名代で伯爵家を訪問するような服ではない。

 眉を顰めた前伯爵に、子爵夫人は困ったように微笑んだ。


「派手な身なりで申し訳ございません。王妃殿下が直々に、侍女の着るドレスをお決めになっていらっしゃるのです。一度屋敷に戻って着替えてくるべきかとも考えましたが、この後すぐに王城へ戻らねばならず、致し方なく。どうかご容赦くださいませ」


 高貴な身分の者が、配下に着なくなった服を下げ渡すのは普通である。

 それにしたって程度というものがあるだろうが、それも王妃の指示なら口には出せない。


「して、王妃殿下の書状というのは」

「こちらでございます」


 封筒に施された封蝋印は、確かに王妃の使っている紋章だった。開いて手紙にざっと目を通し、前伯爵は瞠目する。


「……これは……」


 読み間違いがないか何度も読み返し、澄ました顔で紅茶を飲んでいた子爵夫人の方を恐る恐る窺う。


「マイヨ子爵夫人。……お主は、この手紙の内容を知っておるのか」

「ええ、存じております。王妃殿下は、デュマ家を案じていらっしゃいました。双方にとって悪いお話ではないと、わたくしも考えておりますわ」

「しかしこれは、公爵家の内政に……」


 他家の内政へ嘴(くちばし)を差し挟むのは、王家であっても許されないことだ。ましてや、デュマ伯爵家にとってヴェルニエ公爵家は格上の寄親である。

 しかし子爵夫人は、事もなげに口を開いた。


「いいえ。もともとヴェルニエ家の中継ぎには、わたくしの息子ブノワがほとんど内定しておりましたのよ。当事者だからこそ申せる、ここだけの秘密なのですが」

「そう、なのか?」

「ええ。コルネリア公爵令嬢は未来の国母としてウスターシュ・メシャン第一王子殿下に嫁がれる身。かのお方が二番目にお産みになった御子が次代の公爵家を継げるようになるまで、我がマイヨ子爵家の次男を中継ぎとして公爵代理に立てる、と」


 マイヨ家は、確かに公爵家の遠縁で寄子でもある。特に不自然さは感じない。


「ではなぜ、レオネルがお主の息子に代わって、養子などに」

「公爵閣下はお優しい方ですわ。年端もいかぬ子供が苦境で苦しんでいると聞いて、きっと放ってはおけないとお考えになったのでしょう。でも、デュマ伯爵家は変わりました。前伯爵閣下、あなた様がお戻りになったおかげで、レオネル令息の身の危険は去りました。そうでございましょう?」

「う、うむ、だが」

「失礼ながら、ラウル令息はまた、問題を起こされたとか」

「……ぐぅ……」


 つい二日前の話だ。

 定期的に貴族の子弟に乗馬や鍛錬の基礎を教えている第二騎士団の訓練所に、訓練に参加させて貰えないかと頼みに行った。勿論、ラウルの心身を鍛え、性根を叩き直すためである。

 既に「剣聖」のスキルは封印し、騎士団入団が叶わないのは重々理解している。けれど、実の母親にまで手加減なしで手を上げる子供を相手に、怪我なく対処できるのは騎士団くらいしかなかったのだ。


 しかし。

 何の運命の悪戯か、そこにはレオネルがいたのである。しかも団長の子息とも仲が良いようで、従騎士たちの中に溶け込んで楽し気に体を動かしていた。

 聞けば、友誼(ゆうぎ)を結んだナタン・オベール侯爵令息に誘われて、勉学の合間の息抜きと体力づくりのために従騎士の基礎鍛錬に混ぜて貰っているのだとか。


「なんでお前がそ(・)こ(・)にいるんだ!」


 ラウルが激昂したのは完全に八つ当たりだった。希少なスキルと輝かしい未来を失ったのは己の不品行が原因の自業自得で、被害者であるレオネルには何の非もない。

 人知れず身を守る術を身に付けたのも、元はといえば己の力に溺れた双子の弟からの手心を知らない暴行で致命的な怪我を負わないためだった。

 例え何も気付かなかった愚かなラウルが「いつもレオネルにやっている通りに」母親に手を上げたせいで手酷い怪我を負わせてしまい、顔を見ただけで金切り声を上げられるようになったとしても。


「ラウル。気に入らないからと言って、人前で声を荒げるのは行儀が悪いぞ」


 双子だというのに、まるで何歳も年上の兄が幼い弟の癇癪(かんしゃく)を窘(たしな)めるような口ぶりだった。

 しかし、やはりまだ子供である。

 もはや二度と手の届かない場所になってしまった、己の夢見た光景に限りなく近いところで笑う兄弟の姿を突然見せられた弟の気持ちにまでは寄り添えていなかった。


「うるさいうるさいうるさい! オレに指図するな! いつもみたいに叩きのめしてやる!」


 そして残念ながら、ラウルはレオネルよりはるかに未熟だった。

 あるいは、スキルを封印されて頼みの綱である力を失ったことすら理解できていなかったのか。

 彼は祖父の静止を振り切り、後先考えずに兄に突進した。丸々太った鈍重な体は案の定簡単に躱され、散々に翻弄された挙句に監督役の騎士に取り押さえられたのである。

 厳重注意と共に、前伯爵もろとも、二度と訓練所には立ち入らないよう言い渡されてしまった。


「──お気持ちはお察しいたしますわ、前伯爵閣下。わたくしの息子も、少々元気すぎまして困っておりますの。レオネル令息の優秀さが羨(うらや)ましゅうございます」

「………………」

「その優秀な方を、伯爵家に取り戻したいとはお考えになりませんか?」


 前伯爵は迷った。

 今はまだいい。自分がいれば、伯爵家の切り盛りはできる。しかし、日々衰えていく心身を感じてもいるのだ。既に老齢、いつまでも働き続けられはしない。

 レオネルが戻ってきてくれさえすれば。そうすれば、安心して全てを任せられる。

 問題だらけの家の中外も、盆暗(ぼんくら)な息子も、猿並の知能の孫も、寝込んでしまっている息子の妻も。そして自分は、再び安穏とした楽隠居の日々に戻れるのだ。


「これは公爵家への干渉でも何でもございません。ただ、歪んでしまったものを元に戻すだけですわ。……とはいえ、すぐに動くわけには参りません。少しずつ下地を整えて、支障も滞りもなく全てを終えられるようにしなければ──と、王妃殿下は仰っていらっしゃいました」

「うむ……」

「色よいご返答を期待しておりますわ」


 前伯爵は、知らず強く握りしめていた手紙に、今一度視線を下した。

 上質な真っ白い紙が、どこかくすんでいるように見える伯爵家の中でひときわ眩しく見えた。


 お読みいただき、ありがとうございました。


 レオネルの実家について(三人称視点での)記述は、一旦ここで終わりです。

 斜陽、黄昏と続いたデュマ家の末路が落日で終わるか、新たな夜明けを迎えられるかは、当分の間明かされることはないでしょう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。