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転生テロ令息は盤面を覆す ~悪役令嬢奪還作戦~  作者: 兎波 走


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32 ブノワ・マイヨの不満

 ※今回は三人称視点です。

「くそっ、くそっ!」


 ブノワ・マイヨは悪態を吐きながら足元の草を抜いていた。

 二週間の奉仕活動を命じられ、人手の足りない教会へ行かされ、雑用を言いつけられて働かされている。

 着ているものも王妃に与えられた華やかな衣服ではない。何の飾り気もない、厚手の麻のシャツと長ズボンだ。


 こんなのはオレには相応しくない。平民が着るような貧相な服を着せられるなんて侮辱もいいところだ。

 ぶつぶつ文句を言いながら、引っこ抜いた草を麻袋に放り込む。彼の衣服は、侯爵令息が鍛錬の際に着ている一式を貸し与えられたものなのだが、知る由もなければ知る気もない。

 膝や腰が痛くなり、途中で立ち上がって伸ばす。付かず離れずの距離にいた騎士がこちらに注目するのが見えて、ますます機嫌は悪くなる一方だった。第二騎士団長がご丁寧に年若い団員を見張りに付けたせいで、休息もおちおちできやしない。


「オレはお前らと違って、高貴な身分なんだ。それを、こんな地に這いつくばらせるようなマネをさせやがって!」


 彼の態度の悪さに閉口した司教は、ブノワに近付いても来ない。


「『休憩にいたしましょう』と一言言ってくれれば休めるのに。こんな作業を押し付けておいて、なんて奴らだ」


 そもそもの原因は、最初に休憩用として司教が用意してくれた茶と菓子を「こんな貧乏くさいものをオレに食えというのか!」と喚いて引っくり返すという蛮行をやらかしたせいである。つまりは彼の自業自得なのだが、本人は気づいていなかった。


 何もかもが気に食わない。

 母上も王妃様も、ウスターシュ第一王子殿下の乳兄弟であるオレこそが次のヴェルニエ公爵になるのだと言ってくれたのに。嫡子のコルネリアは家を継げなくなるから、まずは養子になって公爵家に入り込むところから始めましょうと。


 それが、どうだ。

 蓋を開けてみれば、自分は養子になれなかったばかりか、どこの馬の骨とも知れない、しかもスキル不明だという奴が大きな顔をして、本来ブノワのために用意されるべき椅子に平然と座ってしまった。


 ──気に入らない。


「あの子が弟になるのはいやです!」


 と泣いて拒否した上、未だに撤回しないコルネリア。

 たった二か月先に生まれたというだけの理由であいつが義姉になる理不尽を、こっちは我慢して呑んでやってるというのに。

 とっとと反省して、オレに養子に来てくださいお願いしますと礼を尽くして乞うべきなのに、未だに実行しない。


 次期公爵はウスターシュ殿下との間に生まれた二番目の子だなどと言っていたが、あれほど嫌われているのだから子を為すなんて最初から無理なのだ。嫌な相手と結婚させられるなんて、殿下も気の毒に。

 最近はわざと素っ気なくして婚約者の気を惹こうなどという馬鹿なことをしているようだが、無駄な努力はとっとと諦めて、公爵位はオレに差し上げますと言うなら貰ってやらないこともないのに。

 これだから女は、夢見がちで愚かで現実が見えてなくて困る。身を引くという考えも頭にないのか。


 ──腹立たしい。

 コルネリアの我儘を真に受けて、養子を断った現ヴェルニエ公爵。

 有能で将来性のあるオレを選ばないなんて見る目がない。殿下に愛されてないことも分からないようなバカな娘の言い分だけ聞いて、オレや殿下、王妃様の意見は聞こうともしない。

 オレを養子に受け入れやすいように義父上(ちちうえ)と呼んでやったのに嫌な顔をして、皆の前で恥を掻かせるなんて。


 ──憎たらしい。

 同情を集めて、オレがなるべき養子の地位に当たり前のような顔をして収まったレオネル・デュマ。

 あいつが騒いだせいで、皆の前で騎士団に連れて行かれたばかりか、牢に入れられる羽目になった。ちょっと手の先が当たっただけで大袈裟に騒いだ従騎士も腹が立つが、そもそもの原因はあの弱虫野郎である。

 牢の中は狭くて暗くて、ベッドは硬くて変な臭いがして最悪だったのに、そんなところにオレを放り込んでおいて、謝りもしなかった。未来のヴェルニエ公爵に対して無礼すぎる。

 だいたい、何が「双方、何事もなかった。それで宜しいではありませんか」だ。そう思うなら、オレが奉仕活動をしなくていいように周囲に頭を下げて力を尽くすべきだろう。


 母上と王妃様が第二騎士団に掛け合ったから監(・)禁(・)が三日で済んだんだと、迎えに来てくれた母上が言っていた。それがなければ、もっと長く閉じ込められていただろう、って。

 ひどい話だ。レオネル・デュマも公爵家もひどい奴ばかりだ。

 じゃあ、父上と兄上はオレが可哀想だと思わなかったのか?

 いや、少なくとも父上は駄目だ。ひどい目に遭わされた可哀想なオレを慰めず、奉仕活動をさせようとする第二騎士団に文句を言ってくれなかった。それどころか、これから平民に近い仕事なんてさせられるオレの頭を無理矢理掴んでレオネルごときに謝罪させるなんて。

 一緒に公爵家に行くと聞いた時には、オレの受けた理不尽に苦情を言ってくれるのかと少し期待して見直してやってたのに。がっかりなんてもんじゃなかった。


 そういえば母上が言ってたな。

 父上と兄上は、ど(・)こ(・)ま(・)で(・)い(・)っ(・)て(・)も(・)子(・)爵(・)に(・)し(・)か(・)な(・)れ(・)な(・)い(・)って。だから、公爵になれるオレを羨んできつく当たるんだって。

 母上は侯爵からも第二騎士団からも庇ってくれて、迎えにも来てくれたのに。奉仕活動を中断させられなくてごめんねと泣いてくれたのに。でも子爵家じゃなかったら、第二騎士団長に命令して理不尽な罰を取り下げさせられたのかな。

 あーあ、家族に恵まれないって辛いな。


「いつまで突っ立っている! 休んでいいとは言っていないぞ!」


 飛んできた怒声に、ブノワは大きな舌打ちをした。


 お読みいただき、ありがとうございました。

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