30 お茶会の成果
子爵家親子の騒ぐ声が遠ざかり、周囲にはだんだんと平穏が戻り始める。
「我が家がお騒がせして申し訳ない」
謝罪する閣下の横で、俺も無言で礼をする。別にこっちは悪くないけど、こういう配慮は大事だ。
「まあ、公爵家の皆様に非などございませんわ。ねえ、皆様?」
ナタンの傍にいる貴婦人がそう返し、肯定の言葉が次々に上がる。
「そう言っていただけると有難い、オベール侯爵夫人」
改めて挨拶を保護者と交わし(貴族の交流は必ず家が絡むから、友達になったという報告も要るのだ)、大人たちは交流のために用意されていた保護者席へ戻っていった。
十中八九、というか間違いなく、閣下は向こうで根掘り葉掘り聞かれるんだろうな。そして困ったように微笑んで言うのだ。「実は……」と。
勿論、未確定情報を漏らしたりはしない。あくまで事実だけをかいつまんで、簡潔に。未来に布石が打てれば、今はそれで充分。
一方、気楽な俺たちは子供用のテーブルに行って座り、お茶とお菓子を貰う。
「さっきはありがとう、ナタン。殴られかかったとき、庇ってくれようとしたよね。皆もありがとう、証言してくれると聞いて嬉しかった」
感謝も人付き合いには大切なこと。
いずれヴェルニエ公爵家を支える立場になるなら、味方を増やすのは必要不可欠だ。そしてレオネル・デュマは温厚で礼儀正しいという評判は俺を守る盾にもなる。何より、琴音や義父上の評判にも関わるからね。
「それにしても、レオネルは凄いな。さっきのも簡単に止めてしまって」
「良かったら、一緒に訓練を受けてみないか? 僕も今、従騎士と一緒に体を鍛えてるんだ」
「十歳なのに、もう!? ナタンの方が私よりずっと凄いよ」
「本格的な鍛錬はまだまだ先だけどね。剣を振るより先に基となる体を作る方が先だって、父上が」
「オベール団長、祝祭でお会いしたけど格好いいよね」
「え、そうか?」
「ナタンは近くにいすぎて気付いてないだけだよ」
「そうそう」
「私は団長と一緒の馬に乗せて貰ったよ」
「いいなぁ!」
俺が第二騎士団の訓練に混ざれるかどうかは、閣下に確認を取ることになった。
勉強の遅れを早めに取り戻さないといけないし、貴族の子女が王都を移動するには馬車移動が基本だからね。養子の俺が公爵家の馬車を勝手に使うことは出来ないのだ。
とはいえ、多分、頻繁でさえなければ許可は出ると思う。同じ中立派のオベール侯爵家との繋がりが深まるのは、公爵家としても良いことだし。
何より、琴音の身に危機が迫った時、最後に守る役目は俺になる。閣下は公爵家の当主として家や寄子、領民を守らなければならない。心情的には唯一残った家族を庇いたくとも、閣下の立場が許さない。
派閥といえば、第一騎士団長は王家派、第三騎士団長は貴族派に属している。分かりやすいね。なお、第四騎士団長は平民なので、特に所属する派閥はないらしい。
つまり、俺たちが王家に対して何か事を起こそうとした場合、第二騎士団という戦力を引き込めるかどうかで結果が変わるかもしれないのだ。ってことは、今日ナタンと仲良くなれたのはラッキーだったのでは?
今回のお茶会では他にも、手紙を送りあう約束をしたり、挨拶がてらさっきの騒動について聞きに来る子の相手をしたりして、俺は楽しく充実した時間を過ごすことができた。
挨拶した子の中には女子もいたよ。すっごく噂好きそうな子だった。ゴージャスな尾鰭を付けてくれそう。
勿論、琴音と義父上にはその日のうちに報告した。報告連絡相談は大事。どっかの王子と違って、好きな子に疑念を抱かれるような馬鹿な真似はしませんよ。
話をした時、令嬢の特徴を聞いた琴音は「あぁ……」と何とも言えない顔をしていた。
「三度の食事やお洒落よりも、噂話とお喋りがお好きな方ですわね。お母様に似てらっしゃると有名なんですのよ。きっと明日の夜には、今日の顛末が国内の貴族家全てに広がっているでしょうね」
そんなにか。てか親子二代で噂好きなのか。彼女には謹んでスピーカー令嬢の称号を進呈したいと思う。
「今回のような時はともかく、あんまり近付いてほしくはありませんわね……」
「話題を作るために、こちらの粗を探されても嫌ですしね」
まあ、ゴシップ好きは諸刃の刃ではあるものの、上手く使えば強力な武力になる。適度な距離間でお付き合いが吉かな。
「ネリー。今日は結局、王子とは一言も話さなかったのかね?」
「ええ、お父様。ご挨拶なら最初にいたしましたし、その後もあの方はずっとレースとフリルの集団が面倒を見てくださっていたようですから。こちらは社交に集中できて、有難い限りですわ」
ドレスで見分けがつく、という琴音の話は本当だった。遠目で見たら王子の椅子の周囲、嵩張る布の海だったもんな。重いし値も張りそう。
「そうでもありませんわ。レースやフリルがたくさんついていると、下地の粗を隠せるでしょう? ですから、本体の縫製を経験の浅い新人などに任せて、費用を削減しているのですわ」
逆に言えば、琴音の着ているドレスのようなシンプルなものは、裁断も縫製もごまかしが効かない。必然的に熟練のお針子さんが受け持つから依頼料も高くなるのだとか。
「奥が深いのですね……」
それにしても王子の周りに侍っていた令嬢たち、琴音には挨拶してないんじゃなかろうか。
側妃にしろ妾にしろ、王国の法律だと正妃の許可が必須なのにね。俺が女の子で側妃の座を狙うなら、まずは婚約者に気に入られるのを目指すけどなぁ。
「皆様、わたくしのことをライバルだとお考えなのではないかしら?」
「二重の意味で、敵にはならぬのにな」
全く、閣下の仰る通りだ。
お読みいただき、ありがとうございました。




