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転生テロ令息は盤面を覆す ~悪役令嬢奪還作戦~  作者: 兎波 走


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2 スキル顕現の儀式

 ※2026.9.4 エピソードタイトルを変更しました。


 初日の更新はここまでになります。

 明日以降は一日一話の更新となる予定です。引き続き、楽しんでいただけると幸いです。

 翌日、俺は教会へ向かった。


 同行者は両親と双子の弟、ラウル。

 現時点では、両親の俺への態度は普通だ。

 ラウルが多少やんちゃだからか、彼へ意識を向けがちではあるものの、聞き分けがいい方の息子(おれ)は何かと褒められたりする。

 兄様を見習って大人しくなさい、と言われたラウルは面白くなさそうに不貞腐れて、馬車の窓から景色を見ていた。両足をぶらぶらさせるから母のドレスに爪先が当たって、また叱られている。


 前世の知識を通して見ると、俺とラウルは恐らく二卵性双生児なんだろう。

 茶髪碧眼の父と金髪ヘーゼルの母の地味な部分を受け継いで茶髪にヘーゼルの瞳になった俺に対し、弟は華やかな部分を貰った金髪碧眼。顔立ちは似ていなくもないが、唇の下のほくろは俺にしかない。まあ、人間の価値は髪や目の色なんかで決まるわけではないし、どうでもいいか。


 問題は、やはりスキルだ。

 これも俺個人としては割とどうでもいいのだが、あいにく世間の価値観が許さないのである。


 ただの五歳児なら、実親に見捨てられて途方に暮れるだけかもしれない。

 しかし今、レオネル・デュマの中身は享年十七歳の高校生。今生の五年を足したら二十歳越えだ。何かを調べる手段も人の頼り方も知っている。何なら、専門的ではなくとも、高校までの知識もあるのだ。

 最悪、スキルが使えないままでも身を立てる術くらいは見いだせる、はず。


 今向かっている教会は、デュマ伯爵家のタウンハウスから一番近い場所に建っている。王都に点在する教会はだいたい貴族の寄進で成り立っているようなものであり、そこも例に漏れず、代々のデュマ伯爵が少なくない金額を収めていた。

 だから儀式は貸し切りだし、きっと当主の子息が得た謎スキルの詳細を調べる手伝いだって頼めるだろう。


 ◇◇◇


 毎週日曜に通っていた教会は、行われる儀式のためか普段と違う内装になっていた。

 入口から最奥の女神像までを繋ぐ中央の身廊(しんろう)の柱には神を称える文言が刺繍された垂れ幕が飾られ、そこから礼拝時に人々が座る椅子を挟んだ壁際の側廊(そくろう)には正装を纏った教会関係者が並んでいる。身廊に敷かれた絨毯の上を、父を先頭に並んで歩いた。


 先週来たときには「かみさまのおうち」程度の認識しかなかったが、前世の記憶を持った今見ると、世界史の資料集に写真があった西洋の聖堂に似ているなと思う。祀る神は女神だし神職の服装などは違うようだが、小説の原作者が聖堂を資料にして書いていたなら、ある程度似通うのは当然ともいえた。


「レオネル、あまりキョロキョロしないの」

「はい、おかあさま」


 もともと大人しかったおかげか、突然中身に前世が追加されても周囲からは違和感を持たれにくいのがありがたい。

 五歳児と高校生、大人から見れば年齢があまり離れていないように見えるから……じゃないといいな。


「ラウルもよ。真っすぐ歩きなさい」

「はぁい」


 花輪を両手で持つ有翼の女神を模った大理石像の前に、祭壇があった。普段は何も置かれていない壇上には大きな水晶玉のようなものが鎮座していて、存在感を放っている。

 ちなみに宗教の名前は、通称「女神教」。勿論、長ーい正式名称が他にある。ただ日常会話だと、ほぼ通称の方で会話が成り立つから正式名称の方はあんまり重要視されてなかったりする。


「おかあさま、あれはなに?」


 疑問は、先にラウルが口に出してくれた。


「儀式に使われる聖玉よ。あれに手を置くと、スキルが文字になって浮かぶの」

「おれ! おれ、さきにやりたい!」

「はいはい。今は静かになさい」


 へえ、あれでスキル見るんだ。

 原作には「スキルは出たけど使えませんでした」というザックリした結果しか書いてなかったから知らなかった。


 一番偉い聖職者……大司教だったかな? が祭壇の隣に立って長々と祝辞やら諸注意やらを述べ、気の短い弟はイライラしては母に窘められている。

 おじいちゃんだし、偉い人の話はどうしても長くなりがちだよなぁ。俺は内心退屈だと思いつつ、じっと聴いていた。何か重要なことを言わないかと思って。


「──スキルとは女神様によって与えられるもの。その大小に関わらず、全てが尊く必要なものなのです。結果がどうであれ、女神様の思し召しとして尊重されねばなりません」


 お、いいこと聞いた。

 ということは、宗教的にはスキル差別はタブーなのか。よしよし。もしも万が一、自力ではどうにもならなくなったら教会に駆け込もう。


 今の俺には、貴族としての矜持とかナニソレ美味しいの? って感じだし、そのプライドとやらで差別が起こるなら馬鹿馬鹿しいと言わざるを得ない。

 ただ、あまりにも漠然としすぎている人探しをするには身分と財力が要るだろうから、貴族の地位には嫌でもしがみ付かなきゃならないのだ。遺憾と葛藤の極みである。

 教会で聖職者になるのは本当に最後も最後の手段だけど、いざという時の逃げ場所があるか否かは、無力な子供にとっては生存率に直結するから決して馬鹿にできない。


 長いお話がようやく終わり、宣言通りラウルが真っ先に祭壇へ駆け寄った。正面からは見えないが、子供には背が届かない高さなので、持ち運びできる階段状の踏み台が用意されているらしい。トントンと上る軽快な足音が聞こえる。


 大司教がわずかに困惑を滲ませた顔で、ちらっと俺を見た。意図が解らず振り仰いだ先の父が言うには、通常は兄からするものらしい。ふーん。

 でも双子だし、別にいい。むしろ、正常パターンを先に見られるから有難い。一度両親の反応を見て、問題なさそうだったので頷いて了承の意を返す。


 その後はまあ、予想通りだった。剣聖のスキルが顕現し、関係者がざわつき、本人と両親は大喜びする。俺も一応、拍手で祝福した。


「では、レオネル様。どうぞ」


 さて、どんな風になるのだろう。

 よくあるファンタジーのように、聖玉とやらがビカーッと光ったり虚空に光の文字が浮かんだりはしないと先ほどのラウルで判っている。では何も浮かばないか、球が曇るのか、それとも……。


「……こ、これは……!?」


 昨夜、あれこれと予想を立てて心の準備をしてきた。何が起きても冷静でいるために。

 けれど、流石にこれは想定外だ。


(『油操作』、だって!?)


 まさかスキルが、異世界の言語(にほんご)で書かれているなんて。

 

 お読みいただき、ありがとうございました。

 主人公のスキルを見て、序で何が起こったのかお察しになった方もおられるかもしれませんが、お口チャックでお願いしますね。

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