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転生テロ令息は盤面を覆す ~悪役令嬢奪還作戦~  作者: 兎波 走


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26 いざ、お茶会

  お茶会の日がやって来た。

 案の定、琴音(ネリー)を迎えに来るはずの婚約者は音沙汰がないので、経験を積ませるという名目で俺がエスコートすることになった。さて王子はどんなツラするかな。


「緊張でドキドキします」

「顔や態度には出さないようにしないといけませんわね、お互い」

「はい」


 今日の琴音(ネリー)は、淡いミントグリーンのドレスだ。髪飾りやアクセサリーなどは少し濃い目の緑色でアクセントを付けている。柔らかな絹の布地には地模様が入り、銀糸の刺繍が柄を際立たせていた。

 ちなみに第一王子は金髪金眼。相手をするのが面倒くさいので、同席する場に黄色系の色を使ったものを身に着けて行くのは避けているとか。


 確かにあいつ、たまたま似ていただけの色でも「俺に気があるから、その色を選んだんだろう」とかドヤ顔で言い出しそうだもんな。一回しか会ったことないけど得意げな顔が目に浮かぶのは、原作を読んで知っているからだろうか。


 でもなぁ。婚約者の色を纏う風習があると、地味な色合いは困るんじゃないか?

 例えば俺だと、髪は茶色で瞳はヘーゼルだ。俺の色に合わせようと思ったら華やかさとは真逆の色になる。社交の場って、女性は気合入れてお洒落する機会なんじゃないのか? なのに大地をリスペクトしましたみたいな色のドレスを着なけりゃいけないのは可哀想すぎる。


「そういう場合は、お揃いのものを身に付けますのよ。ほら、このような」


 琴音(ネリー)が見せてくれたのは、ドレスと同じ生地で作られたクラバットだった。

 男性が首に巻くスカーフみたいな装飾品で、今日これを使うのは言うまでもなく父親の公爵である。

 いくらエスコート役を仰せつかったとはいえ、あくまで同行者は閣下で、今の俺はただの代理。婚約者のいる身で家族以外の男とペアのものを付けたら琴音(ネリー)が咎められてしまう。

 お揃いの方法は他にも、装身具の宝石や地金を揃えたり、刺繍の糸を同色にしたりという工夫もあるんだとか。


「と言うことは、仕立てる段階で互いに相談がいるということでは?」

「その通りだ。逆に言えば、相談がない時点で合わせる気がないということだな」


 クラバットを結んだ閣下がこちらを見て意味ありげに笑った。深い緑色の一揃えに、淡いミントグリーンがよく映える。

 言わんといることが何となく理解できて、俺も笑顔を返した。


 王族や貴族の男性が婚約者にドレスや装身具を送るのは、本人の甲斐性と家の財力を周囲に知らしめる意味合いがある。

 婚約を結んだ以上、子供とて例外ではない。寧ろ親や周囲が我が子に教えつつ、一人で手配できるようになるまでは手を貸すのが普通であり常識だ。なのに、第一王子にはそれらが一切ない。

 そして公式行事である以上は、多くの人々の耳目に触れる。隣の婚約者との共通点が全くない、令嬢の衣裳が。


 そもそも、この第一王子の婚約は、公爵家の血を王家に入れたいがために王命まで使って強行したものだ。貴族なら当然知っている事実でもある。

 なのに、感謝して大切にするどころか最低限の敬意すら払えない王家。その恥とも呼べる行いを、全く隠そうともしていない王族。

 国王や王妃に対する求心力はどんどん低下の一途を辿っているんじゃないかな。閣下にとっては好都合だろうな。


「さて、そろそろ時間だ。出掛けよう」


 俺の服は閣下と同じ生地だ。ヴェルニエ家当主の庇護を受け、大切にされていると一目で判る戦闘服であり防護服。胸元のタイは白い絹で、中身が庶民の俺は汚したらどうしようとハラハラしてしまう。


 ◇◇◇


 お茶会の会場は、二週間前に琴音(ネリー)を迎えに行ったのとは違う庭園だった。

 中央に噴水がある円形の広場で、日よけの下には白い布が掛かった丸テーブルと椅子が煉瓦(れんが)で舗装された地面に点在して置かれている。庭園の周囲には同じ煉瓦を敷き詰めた遊歩道が放射状に伸び、散策などもできるようになっていた。


 義父上(ちちうえ)が言うには、屋内で開催すると飾る花の準備が間に合わないからだろう、とのこと。庭に咲いているものを切ればいいのでは? と思ったら、それはそれで観賞用だから花の数を減らすのは出来ないそうだ。

 確かに、こうして実際に目にすると分かる。庭園は、庭師が咲かせる花の数やバランス、色などを緻密に計算して作り上げている芸術なんだな。


「足元にお気を付けください、公女さま」

「ええ」


 入場は家格の順で、ヴェルニエ公爵家は一番最後。並ぶ顔ぶれを見た琴音(ネリー)が、「呼ばれているのは全員、同い年の子ばかりですわ」と小声で教えてくれた。

 あー、同年齢なら学園でも同級生になるもんな。社交デビューで躓(つまづ)けば、後々まで悪い影響が尾を引いてしまう。ラウルがいい例……というか、二の舞にしたかったのかな。王妃はつくづく陰湿だ。そして大人げない。


 既に周囲より一段高いところの椅子に王妃と並んで座っていた第一王子が、嫉妬で歪んだ顔で俺を睨んでいて笑いそうになった。その対象が、エスコートしている俺なのか、はたまたコルネリア嬢のドレスと共(とも)生地のクラバットを付けている公爵なのかまでは分からないが、凄い形相だ。

 立ち上がって怒鳴りかけ、傍に控えた男性に止められていた。新しい教育係はちゃんと仕事をするらしい。

 令嬢の父親である公爵がすぐ傍にいるなら、俺の行動は閣下の指名、あるいは許可が出ているということだ。つまり、不貞だの何だのという言いがかりは付けたくても付けられない。

 というか、そんなツラするくらいなら、最初からドレスを贈って迎えに来ればいいのに。お前の行動の結果を、こっちに押し付けないでもらえるかな? 俺はおかげさまで、最高の体験させてもらってるけど。


 そして、王子の傍から俺にじっとりした視線を向けてくる少年が一人。

 青みの強い銀髪に青い瞳。ヴェルニエ家の血だとギリギリ言い張れなくもなさそうな微妙な色味の彼こそ、公爵家の養子になり損なった王子の乳兄弟、ブノワ・マイヨ子爵令息だ。

 いやお前、何でいるんだ。高位貴族は伯爵家までだぞ。子爵家はいちゃ駄目だろ。


 お読みいただき、ありがとうございました。


 本筋とは全然関係ありませんが、日本の煉瓦には「はんぺん」「ようかん」「せんべい」と呼ばれるものがあるそうです。厚みを半分にすると「はんぺん」、横幅を半分だと「ようかん」(せんべいは1/3)だとか。

 調べていて、ちょっとお腹が空きました。

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