24 謁見の総評
「どうだったかね、今日の感想は」
義父上が国王に謁見した時のことを話題の俎上に載せたのは、夕食後に団欒室へ移動してからだった。
一日の終わりに、公爵閣下は必ず家族水入らずで過ごす時間を取る。そこに俺が参加する名目は今日起こった出来事の報告と情報の共有のため。そこに使用人は一人も入れない。
公爵家の屋敷ともなれば、働く人の数も多い。もちろん雇う時は身辺調査を厳しくやっているそうだけど、王家の息がかかった使用人とか紛れてるかもしれないしね。というか、既に紛れている前提で動いている。
なので自然と、俺と琴音が素に戻れるのもこの時だけ。貴重な時間なので、二人掛けの椅子に隣同士でくっついて座っている。
「国王は夫としての仕事をするべきだと思いました」
あ、謁見時の俺の作法については「上出来だった」ってお褒めの言葉を既にいただいてるよ! 勿論、帰宅してすぐに、使用人の皆がいる前で。そういう大事なポイントを、閣下は外さない。
なので今は、どちらかというと国王一家に相対した時に感じた印象とか総評とかが話題の芯だ。俺の横で気楽に聞いていた琴音が吹き出している。
「そうね、あの方、事なかれ主義ですし」
「事なかれ……あれはもはや、尻に敷かれていると言っていいくらいでは?」
正確には、悪妻の尻に潰されかけている。
妻が越権行為をしているのに、だんまりのまま閣下にチラチラ目配せしてたんだよ、国王。いい歳こいたオッサンが、同年代の同性に対して、である。シンプルに気持ち悪かった。
口が付いてるんだからちゃんと喋れ。申し訳なさそうな顔をするなら嫁を止めろ。最高責任者の自覚あんのか。
「ははは。あれはね、わざとやっておるのだよ」
「と、仰いますと?」
「王家に都合の良いことを気の強い妻が代わりに言ってくれるから、自分だけ『止めたくても止められない、すまない』という素振りをして妻に汚れ役を押し付けておるのだ」
「わぁー……」
最低だ。
「卑怯者のすることだが、あの態度は王妃の言動に対してのみ行うわけではない。こちらが強く抗議すれば伝言役の侍従程度の役には立つ」
なるほど、どうりで謁見の間では空気だったわけだ。そしてそんな国王に息子の不品行を抗議してどうするんだろうという謎が解けた。事なかれ主義という琴音の評は的確なんだな。独裁に走らないぶん、玉座に載せておくにはちょうどいいのかもしれない。ヴェルニエ家以外にとっては、という注釈がつくけど。
「王妃の印象はいかが?」
「最悪ですね。陛下のセンスを疑わざるを得ません。さすがあの王子の母親だと思いました」
「王子は、そなたの好敵手にはなれそうかね?」
「現状では、まだ何とも。ただ、琴音に対する態度には少々疑問があります」
少なくとも原作では、王子はコルネリアを嫌っていた。今日の茶会で見せていた態度一つを例にとっても、王子に近しい立場の人々は婚約者を疎んでいると判断しているだろう。
しかし、閣下がライバルと仰ってるってことは、だ。
「……もしかして……」
「ええ。わたくしの気を惹きたいのだと思うわ」
やっぱりかー。
大方、初対面は「婚約イヤだ」の気持ちが強くて、相手もよく見ずにガーッと悪態吐いたけど、後でコルネリア嬢が可愛いのに気づいて「あれ、満更でもないな(モジモジ)……」というパターンだろう。
けど、それはあくまで王子側の事情と都合であって、コルネリアには関係がない。婚約者の地位に胡坐をかいて謝罪もなしに良好な関係を築けると思ったら大間違いだ。
照れくさいのかどうなのかは知らないが、表向きは嫌いな振りをして「婚約者に一方的に惚れこまれて困ってる俺」を演出し、不当にコルネリア嬢を貶めているなら猶更である。好きな子に意地悪をするのはダサいぞ王子。教えてやる義務はないから言わないけど。
「──そういえば、記憶を取り戻す前の琴音は、王子のことはどうお考えに?」
「ずーっと嫌いでしたわ。第一王子、今日に限らず若い女性が近づくと誰彼構わず親しげに振舞うのよ。まるでこっちに当て付けるように、横目でこちらの反応を窺って笑っているの。こちらは婚約者の前での態度の悪さについて苦情を出しているだけなのに、嫉妬だ何だと勘違いしていらしたし」
婚約を無理矢理に捩じ込まれた上にそんな扱いされたら、そりゃあ公爵令嬢は面白くないわな。自分に対する非礼について怒ってるのに、王子はやきもちを焼いてもらえたと都合よく解釈している、と。
「わたくしが記憶を取り戻すまでは、それなりに『反応』を貰えていたから、勘違いしたまま『一目惚れ』という王妃の妄言を補強できていたのではないかしら? だから未来を知る今の私は、王子の態度には反応せずに笑顔で受け流すことにしましたの。あの方、リボンやフリルでふわふわな女の子がお好きなんですって」
「……ああ。それで、そのドレスなのですね」
今の琴音は、生地や刺繍、縫製の良さが見えるものが好みだ。デザインもシルエットもすっきりしているけれど、質と品の良さは一目で判る。
ヴェルニエ公爵令嬢ともなると、同年代の女子のファッションリーダー的な立ち位置になるので、女児の間ではシンプルだけど質のいいデザインが流行っているそうだ。逆に王子に媚を売りたい者はゴテゴテと飾り立てるから、令嬢がどちら側なのか一目で判るらしい。
レオネルもコルネリア嬢も、原作の人物像とは既に離れている。
婚約者の好みに合わせて趣味でもないドレスを着る公爵令嬢は、もうどこにもいない。虐待にただ耐えるだけの伯爵令息が存在しないように。
けれど、その変化は周囲の人々には解らない。
ある時期を境に全く構ってくれなくなった婚約者に焦り、王子は何とか以前のような反応を引き出そうと躍起になっているのだ。そもそも、その反応自体が良いものではなかったとも気付かずに。
「なんか可哀想な奴だな……」
空回ってるというか、最悪の選択肢ばかり選んでる。マークシートで黒塗りする場所が一行ずつズレてるのに気づかずに、自信満々で塗りつぶしてる感じだ。それもボールペンで。
もしかしたら、原作のヒロインも最初は当て付け用だったのかもな。後腐れのない平民だし。それがいつしか本気になってのめり込んだか? 貴族家出身の使用人はともかく、平民のソフィが無事でいられる保証もないのに。
まあ今の俺は、ヒロインに一ミリも魅力は感じない。略奪女がどうなろうが知ったことではないけど、現在の状況くらいは知っておいた方がいいのかもしれない。
お読みいただき、ありがとうございました。




