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転生テロ令息は盤面を覆す ~悪役令嬢奪還作戦~  作者: 兎波 走


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19 後見養子

 琴音(ことね)と再会した後、あれこれ取り決めたり届け出を出したり揉めたりして、俺は無事に公爵家に迎えられた。


 とは言っても、姓が変わったりはしていない。

 この世界の養子制度には「後見養子」といって、預かった子を期間限定で養子縁組する制度があるのだそうだ。主に未成年で天涯孤独になった貴族の継嗣を、爵位が継げる年齢になるまで寄親が引き取って養育したりするのに使われるんだとか。

 だから改姓もないし、地位が変わる訳でもない。一言で言うなら「後ろ盾のある居候」、という感じだ。


 ただ、この「後ろ盾」というのが、貴族社会では大きな意味と抑止力を持つ。

 本人はただの子供であっても、その子に対して危害を加えれば、それは後ろ盾にも喧嘩を売るのと同義。そして逆に、その子供が何かやらかせば後ろ盾の顔にも泥を塗ることになる。つまり、本人に対しても周囲に対しても、良識のある言動をうながす効果があるのだ。


 そして、後見養子には通常の養子とは違う特徴がもう一つある。

 それは成人後に、庇護に対する謝礼を求められるということ。俺の場合、現時点では成人後に公爵家の中継ぎをすることまでが決まっている。

 成人まで庇護してもらった恩を働いて奉公で返し、後継が育って実権を返せばお役御免になり、その後は俺自身が身の振り方を考える……ことになっている。表向きには。


 勿論、わざわざ後見養子を選んだ理由はある。

 一つ目は、俺を連れ戻したいデュマ伯爵夫妻(うちのりょうしん)を黙らせるため。

 祝祭で起こった例の事件以降、引き籠りになって継嗣として使えなくなったラウルの代わりに俺を跡継ぎにしたがってるらしい。今更だよな。普通に養子にするなら実親の承認が要るから、余計なトラブルを回避させたわけだ。


 実家の降爵が見送られたのも良かった。

 俺が伯爵家を庇い、それを閣下が支持した結果そうなったわけだけど、別に手心を加えたり慈悲を与えたりしたわけじゃない。

 あくまで、被害者である俺が成人して本人の意思で将来を選べるようになった時に、降爵後の爵位より伯爵位のままの方が望ましいからキープしとこう、というだけ。

 加えて、以前から公爵家の養子の座を狙ってるマイヨ子爵家より高い地位を保っておいた方がいいというのもある。


 伯爵夫妻は、公爵家で教育を受けた俺が中継ぎの役目を終えた後で実家に帰って家を継ぐと思っているようだが、残念。俺は戻るなんて一言も言ってないし、公爵家に婿入りしまーす。

 同い年の極潰しを飼う趣味もないし、デュマ家は是非ともラウルくんに頑張っていただいて。


 ただそれを今の段階で公言してしまうと全方位に向けて宣戦布告するようなものなので、お口にチャックである。伯爵夫妻には一縷(いちる)の望みを持たせるだけ持たせて梯子を外す結果になるけど、それが非公開の処罰ということになる。


 それにしても伯爵夫妻、何で散々虐げた息子に今も慕われてる、将来は戻って来てくれるはずなんて思考になるんだろうな。その息子は、話を付けに行った公爵閣下に同行もしてないし、息子はどこかと聞かれた閣下もはっきり「レオネル令息は貴公らに会いたくないと申しておる」と伝えたそうなんですが。


 閣下も呆れてたよ。伯爵家の令息なのに持ち出す私物がほぼ無いって事実にも、そんな扱いしてた子供に対する認知が歪みまくってることにも。とっても渋い顔をして、伯爵領で隠居してる僕の祖父を呼ぶと言っていた。


 先代伯爵だった僕の祖父は、公爵曰(いわ)く割と真面(まとも)な人物らしい。バカ息子とバカ孫を教育し直してもらうんだってさ。

 でもなぁ、そもそも祖父が子供達の教育を間違ったから現在こうなってるわけで……叱られたところでちゃんと矯正されるのかな? 謎。


 あ、お世話になった大司祭さまには、後見養子になれたことを直接伝えに行ったよ。良かったと言って喜んでくれた。


 そして後見養子にした理由の二つ目は、王家と前述のマイヨ子爵家への対策だ。

 公爵閣下が「ヴェルニエ公爵家の継嗣は我が娘コルネリアの産んだ実子のみ、養子はあくまで中継ぎ」という姿勢を保ちつつ俺を守るなら、俺にヴェルニエ姓を名乗らせない方がいい。成人後は本人の意思次第とすることで、俺が連中に敵認定されないようにしてあるのだ。


 実際、傍から見れば羨ましくもなんともないからね、今の俺の立場。

 公爵家の令息として扱われるわけでもなければ、公爵家の一員として数えられるわけでもない。衣食住や学費は賄ってもらえるが、公爵家の将来の為に働いて返さなければならないから借金のようなものだ。これが一般的な後見養子なら、成人後に領内の通行税を一定期間だけ減額するとか、領の特産品の取引で少し色をつけるとかで返してもらうらしいけれど。

 この提案が公爵から出なかった意味を、果たして伯爵夫妻は理解できてるんだろうか。まあいいや。


 それはそれとして、王家からお呼び出しがかかったらしいよ。

 表向きは祝祭に参加させてもらえなかった俺への救済措置。これは総大司教さまにいい顔したいからだろう、というのが閣下の見解。


 なんでも、祝祭で事件が起こった時、総大司教さまは俺のような扱いをされている者が他にもいないか再調査するよう仰ったのだとか。

 誰がどのスキルを得たかは教会に全て届けられていて、それがこの世界での戸籍替わりになっている。

 それを総浚いして必要なら教会で保護するようお触れを出し、それを国王が支持したそうだ。俺が教会に保護されたのも、実はこの一環。


 オベール第二騎士団長が迎えに来てくれた時は、いい王様なのかな? ってちょっと思ったけど、そういう裏事情があったのか。まあ、あの王妃と王子を野放しにしてるんだから、善良なわけはないか。


 俺としても、連中のツラを一度拝んでおきたかったからちょうどいい。

 一も二もなく「行きます」と答えた俺に、閣下は満足そうな笑みを見せた。



 お読みいただき、ありがとうございました。

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