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転生テロ令息は盤面を覆す ~悪役令嬢奪還作戦~  作者: 兎波 走


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17 悍ましき悪意

 ※前回に引き続き、病気について検索される際はご注意ください。高確率で罹患者のショッキングな画像が出ます。

 天然痘(てんねんとう)。またの名を疱瘡(ほうそう)。

 前世では唯一、根絶に成功したと言われている伝染病だ。


 世界史の授業で、人々の腕や口、鼻から牛の頭が生えている奇怪な風刺画を見たことはないだろうか。あの絵はまさしく、天然痘のワクチンに対する当時の人々の拒否反応を描いたものなのである。

 なかなか強烈なインパクトだったので、前世の俺はどんな病気なのか興味本位で調べていた。


 だから知っていたのだ。

 この病気の特徴ともいえる発疹はま(・)ず(・)頭(・)や(・)顔(・)の(・)周(・)辺(・)に(・)出(・)る(・)ことも、完治したとしても発疹の痕は痘痕(あばた)として死ぬまで残ることも。

 過去には天然痘ウイルスの感染力の高さを活かしたテロが起こっていたことも。

 その手段が、天然痘に罹った患者に使わせた毛(・)布(・)を利用したものだったということも。


 もし孤児院への毛布の寄付が、公爵家の慰問を狙って行われた悪意の籠った故意であったとしたら。

 罹患したが最後、快癒したとしても夫人は二度と社交界に出られなくなってしまっていただろう。

 貴族社会では、女性の肌には少しの瑕疵(かし)もあってはならないという価値観が根強い。ニキビ跡より大きな凹凸が顔に残ってしまったら、公爵家の名誉のためにずっと屋敷に閉じこもることになっていてもおかしくなかった。

 つまり、罹った時点で貴族家の女性としてはお終いになる疫病なのである。

 これを狙って故意にやったのだとしたら、とんでもない残忍さだ。下手すると公爵領の民がごっそり減る上、感染源だという不名誉まで被せられてしまう。


「……そんな……」


 顔を真っ青にした琴音(ことね)に、「あくまで、俺の想像でしかないぞ」と言っておく。


「でもね廉(れん)くん、こっちにも前世と同じ病気がたくさんあるの。麻疹(はしか)も、おたふく風邪もあるのよ」

「我が妻の、美しかった顔を……故意に、あのようにしたと? 我が子らに、あのような悍(おぞ)ましい仕打ちを、まさか……」


 公爵閣下の呻き交じりの声が、地を這うような低音になっている。奥歯を噛み締める音が、こちらまで聞こえてきていた。

 凄まじい怨嗟だが、無理もない。

 前世で調べた時に、俺も患者の写真を見ていた。

 発疹には中央に窪みができる。それがまるで、体中に無数の目が生えたような錯覚を与えるのだ。前世日本の疱瘡(ほうそう)除け、赤べこの体に大きな目玉模様がある由来でもある。

 あれと同じ症状が妻子に現れていたのを目撃したなら、そしてそれが他者の仕業であったと知ったら。


「……しかし、あの女は仮にも王妃……我が妻の美貌を妬んでおったという事実だけでは如何とも……」


 しかも動機らしきものまであったらしく、閣下の纏う空気はどんどん不穏になっていく。

 独り言だと解ってても怖い。でも気持ちが分かるだけに、俺は何とも言えない。

 俺だって、大切な琴音や前世の家族に同じことをやられたら何をするか分からない。むしろ復讐の鬼と化す自信がある。

 というか、コルネリア嬢(ことね)が風邪で寝込んで王都に留まっていなかったら、俺はずっと会えないまま一生を終えていたかもしれないのだ。前世に写真で見た、あの痛ましい姿にさせられて。


「どちらにせよ、証拠が要りますわね」


 娘の硬い声に、ようやく閣下は我に返った。一度深呼吸してから居住まいを正す。


「うむ。……となれば、マイヨ子爵家も無関係ではあるまい」


 聞けば、件(くだん)の子爵領は公爵領の隣にあり、商人はそのはずれで火葬されていたという。公爵領に入るのは別ルートだったのに、だ。聞くところによると、彼らは人里には極力寄らずに行動していたせいで、足取りを追うのに苦労したとのこと。

 状況だけなら間違いなく真っ黒である。けれど、確かな証拠もなく一国の王妃であり隣国の元王女である女を糾弾するわけにはいかない。


 証拠、証拠か……

 俺は天然痘についての知識を脳内で改めて洗いなおす。何かないか、利用できそうなもの……あ。


「……王妃は、この病の症状について知っているのでしょうか」

「現時点では分からぬ。ただ、隣国では似た症状の病が時々流行ると聞く。患者の隔離や病人が使った物の焼却をするなどの正しい対処によって、他国に流れてはおらぬようだ。……それが国境を越えて公爵領まで来た時点で、この件は相当に怪しいのだがな」


 病原菌に汚染された焼却処分すべきものを、わざわざ遠路はるばる運んでくるなんて正気の沙汰ではない。商人たちは知っていて加担して口を封じられたのか、それとも知らずに荷運び役として利用されて殺されたのか。


「左様ですか……では、この世界では自白は証拠に入りますか?」

「!」


 公爵家親子の視線が、俺の顔に集まる。


「第三者がいる場所での発言なら、入る。何か良い方法があるのかね?」

「はい。必要な情報と条件が揃えば、ですが」

「是非とも聞かせてくれたまえ。あの女に吠え面をかかせ、己の所業の報いを受けさせるためならば私は、いや我が家門は骨身を惜しまぬ」

「わたくしも協力いたしますわ、お父様。お母様や兄様たち、孤児院の人たちを死なせた上、下手をすれば多くの領民まで犠牲になっていたのかもしれないなんて、許せません」


 コルネリア嬢(ことね)のスキルは「水操作」だっけ。俺は追加情報を渡す。


「琴音は間違いなく主戦力になるよ。天然痘ウイルスはアルコールに弱いから」

「アルコール?」

「そう。いちいち蒸留の手順を挟まなくてもスキルで直接水分を飛ばせば、いつでもお酒を殺菌消毒に使える濃度にできる」

「なるほど。そういうことなら任せて!」


 この世界のことなら閣下が知っている。前世由来の知識なら、俺たちにある。

 力を合わせられれば、王家の牙城の一角を崩せるかもしれない。いや、必ず崩してみせる。


 お読みいただき、ありがとうございました。

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