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転生テロ令息は盤面を覆す ~悪役令嬢奪還作戦~  作者: 兎波 走


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15 種明かし

 ※ご飲食中の方は、食後の閲覧を推奨いたします。

「作戦の前に、廉(れん)くん」

「ん?」


 こてんと小首を傾げながら、俺を見る琴音。可愛い。


「私、確信してることが一つあるんだけどね。……ほんとは自分のスキル、使えてるんじゃない?」

「さすがに琴音にはバレるか。どこで気付いたか聞いていい?」


 おや、という顔をした公爵は、まずは俺たちのやりとりを聞くことにしたらしい。黙ってお茶に手を伸ばした。

 作戦を練るなら、確かに個々の能力の事前開示は必須だ。理に適っている。


「祝祭でラウルが失敗したあたりから、かな。ヴェルニエ家が養子を取らなかったのと同じように、デュマ家でもイレギュラーな事態が起こってると考えたの。『もしレオネルも前世持ちなら助かるし、ただの偶然でもデュマ家から引き離して真っ当な環境で生活させれば、原作通りの展開を回避できる勝算が出てくる』って、お父様と話し合ったの。でも、中身が廉くんだとまでは予想できなかった」


 それはそう。俺も貴族名鑑を見て「公爵家に原作の義弟がいない」って気付いたけど、公爵家に琴音がいるとは思いもよらなかったし。


「原作の話もしたのか?」

「うん」

「うちは話してないな。前世も、スキルも」

「だと思った! ねぇ、それでそれで? ラウルのアレも廉くんの仕業でしょ?」


 こちらを見る水色の瞳がきらきらしてる。ああ、見た目が変わっても相変わらず可愛いなぁ。


「じゃあヒント。俺のスキルは『油操作』だよ。日本語で書いてあったから、俺以外は読めなかったんだ」

「あぶら……」


 きょとんとした琴音は一転、ころころと笑い始める。


「いや笑いすぎだろ」

「だっ……だって、ふふふ、ラウルだけじゃないでしょ。廉くん、自分に危害加えた人全員に漏れなくやり返してるじゃない」


 体をくの字に折って肩を震わせている娘に、閣下も興味を惹かれたらしい。


「判るのかね、コルネリア」

「……ふふっ、ええ。廉くん、当ててみてもいい?」

「いいよ」


 そして始まる答え合わせ。聞いているうちに、だんだん笑いの波が大きくなる公爵。片方が前世持ちでも、心が通っていれば親子の笑顔って似るんだな。


「参った。全問正解」

「ははは、それだけのことをやって、おくびにも出さず隠し通したのか。これは頼もしい限りだ。参考までに、ラウル令息の件はどうやって?」

「ただの、劣化した油です」


 変敗した油脂は食中毒の原因になりうる。揚げ油として加熱してあっても関係ない。

 悪さをしたのは、前日の夕食に出た揚げ物だった。

 薄く削ぎ切りにした鶏肉に衣をつけてカラッと揚げたものは、毎回ラウルが美味い美味いと何度もおかわりするほどの好物で、大事な日の前日には大抵「がんばれ」という激励の意を込めて出されていた。だからあの日も、ラウルは人一倍食べてせっせと体内に取り込んだのだ。劣化して有毒になった油を。


 そして「油」は、俺の支配下。腹の中だろうと関係ない。

 寝静まった頃に厨房の冷えた揚げ油も少し奴の腹の中に移動させ、晴れ舞台が始まる時刻くらいに効果が現れるよう、体内の変敗油脂を操作したのである。劣化油の食中毒は胸やけや吐き気の症状もあるけど、そっちは出ないようにしておいた。直前でお披露目を中止されても困るし。


 結果は大勢の前での、下(シモ)の大決壊である。いやあ愉悦愉悦。

 この世界は前世の日本みたいに、衛生基準がきっちり決まっていない。同じ揚げ油を使い続けたら酸化して危険だとか、そういった知識自体がないのである。

 実際に伯爵家でも、薄いコーヒーみたいな茶色に変色した油を平然と使い続けてた。おかげで大幅な劣化や有毒化をさせる必要がなくて助かったけど、見なきゃよかったって後悔するような色だった。なお、シェフは劣化油の味や臭いは濃い目のソースで隠せばいいと判断していた模様。


 俺? 俺は食べてないよ。だってそもそも出されてないもの。

 食べた他の人はみんな、程度の大小はあれど症状が出ていたはず。ちょっと胃がむかむかして気持ち悪いとか、ちょっとお腹の調子がよくないとか、そのくらいのレベルで。

 そして「そのくらいのレベル」だったからこそ、お城の祝祭へ行っちゃったのである。もちろん、簡単に病欠できないのもあったとは思う。


 双子の兄のメニューから揚げ物(メインおかず)を勝手に取り上げてまで大量に食ったのはラウルのアホだし、変敗した油を使ったのは厨房の人間だ。この状況で「レオネルのせいだ」と言い張るのは無理筋というやつである。もちろん、俺のスキルが世間一般には解読不能の未知のもので、使えない『ことになっている』という前提条件はあるけれど。


「でも、命に関わるようなことまではしてないんだね。油脂を操れるなら、血栓を考えなかったわけじゃないでしょ?」

「うん。そこまでやるほどじゃないな、って思ったから」


 ざっくり説明すると、血栓とは、血管内にできた血小板の塊である。

 脂質の一種であるコレステロールが血管の壁に沈着することによって血管内部が狭くなった結果生じるもので、これが脳の動脈に詰まれば脳梗塞だし、心臓に詰まれば心筋梗塞。肺に詰まったらエコノミークラス症候群だ。


 恐ろしいことに、俺のスキル「油操作」を持ってすれば、血栓が生じる原因も作成可能になっちゃうのである。さすがにどの症状がいつ出るかまでは操作できないが、この世界の医療では予防も治療も正直言って極めて厳しいんじゃないだろうか。


 治癒のスキルを持つ者は、原作ヒロインを含め複数存在する。しかし原因が理解できていなければ発動しない。細菌もウイルスも知られていない現状では、専(もっぱ)ら怪我を治すためのスキルだと思われている。


 ちなみに何で詳しいのかというと、前世の父親がメタボで健康診断に引っかかったからだ。ちゃんとダイエット続けてるかな父さん。姉ちゃんが運動付き合うって言ってたから大丈夫か。


「なるほど。つまり君はその気になれば、証拠を残さず敵を再起不能の病に罹(かか)らせることも可能、と」

「避けられるなら避けたいと考えております。あくまで、他の手札がなくなった時の最終手段と思っていただければ」


 一応、予防線は張っておこう。この世界、前世の日本と違って人の命がめちゃくちゃ軽いので。

 

 お読みいただき、ありがとうございました。

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