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転生テロ令息は盤面を覆す ~悪役令嬢奪還作戦~  作者: 兎波 走


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14 再会

「廉(れん)くん!」


 コルネリア嬢が弾かれたように椅子から立ち上がり、尻から根っこが生えたように椅子から動けない僕に駆け寄って飛びつく勢いで抱き着いた。


「……本当に、琴音(ことね)、なのか……?」

「うん……うん……っ!」


 ああ、やっぱり守れてなかったのか。

 せめて琴音だけでも鉄骨の落下範囲から押し出そうと、必死で手を伸ばした。

 僕の前世の記憶はそこで途切れている。

 琴音のお父さんとお母さんに申し訳ない。姉ちゃんがいる家(うち)と違って、一人娘だったのに。


「……ごめ……ごめんな、琴音……」

「なんで、謝るの……?」


 さっきまで令嬢らしく上品で澄ましていた琴音の声が震えている。シャツの肩口あたりに、濡れた感触がある。


「だって俺、お前を守るって約束……」

「守ってくれたよ、ちゃんと!」

「え?」

「あの時も廉くんは、車道側にいたじゃない。一人で逃げたら助かってたかもしれないのに、私に手を伸ばしてくれた」

「でも、駄目だった」


 死んでなきゃ、ここにはいないだろ? つまり俺はしくじったってことだ。


「駄目じゃないよ。……私ね、全然怖くなかったの。『ああ、死んじゃうんだ』、『私たちの家族は悲しむだろうな』って、確かに思った。でもね、それ以上に、嬉しかったの。死ぬ時まで廉くんと一緒にいられたんだもの」

「琴音……」


 抱き着いていた公女が顔を上げて、俺の両手を取った。

そのまま自分自身の肩の上に乗せるのは「ぎゅっとして」の合図。見た目は全く似ていないのに、仕草が一緒だ。

 ああ、琴音だ。十年ぶりの琴音だ。

 大きな掌で心臓を強く握られたような錯覚。胸と喉が熱い。涙が込み上げて、堪らなくなって、強く抱きしめた。


「廉くんのおかげで、私、最期の思い出が『嬉しい』だった。独りだったら、きっと怖くて、痛くて、苦しかったと思う。廉くんは? あの時、辛くなかった?」

「俺は……お前に手を伸ばしたところで記憶が終わってる」

「そっか……じゃあ、痛くなかったのかな」

「多分な」


 少し離れたところから、微かな息遣いの音が聞こえた。それでようやく思い出す。

 しまった。

 頭から音を立てて血の気が引いていく。

 この場にいるのは俺たちだけじゃなかった。琴音に逢えた衝撃ですっかり忘れてたけど、前世があるなんて公爵に知られるのは……


「ああ、お父様ならご存じよ、記憶が戻った時に全部話したもの。だから大丈夫」

「え、そうなの?」


 娘の言葉にうんうんと頷いて肯定の意を示す閣下は、静かに貰い泣き中だった。

 ハンカチでそっと目元を押さえる仕草まで上品でノーブルだ、さすが最上位貴族。鼻水垂らしたりとか絶対しないんだろうな。


「改めて、ありがとう。そして私の方こそごめんなさい。あの時、私が立ち止まらなかったら」

「それは琴音のせいじゃないだろ」

「だったら、廉くんのせいでもないよ。そうでしょ?」

「うー……」


 公爵が立ち上がり、俺たち──あ、「俺」に戻っちゃってる。まあいいか──の方へ歩み寄ってきた。


「今日は何と佳き日か。さあ、二人とも立ちたまえ。あちらの椅子は二人掛けだ、こちらの椅子には私が座ろう」


 そして、直前まで自分が娘と座っていた椅子を芝居がかった仕草で示す。


「閣下……」

「お父さ、」


 琴音が呼びかけて、途中で小さく咳をした。


「ああ、その前に茶を換えさせようか。コルネリア、一旦戻っておいで。席の移動は後だ」

「はい」


 新しいお茶を乗せたワゴンを押してきたメイドは子供二人に泣いた跡があることに少々驚いていたが、入室を許可する前に公爵が娘の膝の上に置いた、いくらかページをめくった状態の調査書の写しをちらっと見て納得したような顔をしていた。今日屋敷に一人で招かれた令息の事情は、働く者たちの間にも共有されているらしい。

 腹芸は貴族の嗜みというけど、さすが公爵ともなれば無駄がなくてスマートだ。貰い泣きの形跡も全く見えないし。しかも理由を都合よく想像させて勘違いを誘発しただけで、誰も嘘を吐いてない。凄いなあ。


 メイドが去った後、俺と公爵はそれぞれ自分のお茶を持って席を移動する。ちょっと楽しそうなのは何でですか閣下。というか、身分とか座席順は……うん、もう気にしないでおこう。


「──さて、それでは仕切り直しと行こうか」


 喉を潤して人心地ついた琴音は、椅子の座面の上で俺の手を握っている。小さくて柔らかくて、温かい。子供の手の平だ。


「少しばかり作戦の練り直しが必要だ。それも早急に」


 閣下の顔から笑みと温度が消えた。自然と、こちらの背筋も伸びる。


「これまでは、我が娘が第一子誕生後も無事に生存することが我が公爵家の最終防衛線であった。しかしレオネル令息がレント君だったなら話は変わってくる。何としても婚約を破棄し、我が娘を次期公爵にせねばならぬ。そうであろう、未来の婿殿?」

「!」


 そうだ。今生の俺は、クソ王子や王家から琴音を守り、戦い、勝ち取らなきゃいけない。


「はい!」


 B(ぼくが)S(さきに)S(すきだったのに)? バウムクーヘンエンド? 冗談じゃない。

 ふざけた婚約も、クソ野郎共のくだらない思惑とやらも、全部ぶち壊してやる。

 王子、琴音は必ず返してもらうぞ。

 合法的に、且(か)つ、琴音には非のない状態でな!



 お読みいただき、ありがとうございました。

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