第二話 諦観
「サイカ、外に出たいのか?」
アヤセの声を聞いた気がして、目が覚めた。
夢、だった。
けれど。
いつだか本当に聞かれたことのある言葉。 耳に残る、彼の苦しげな声が遠ざかっていく。
外に出たいか、なんて。
わたしは……外に、出たいのかな。 よく分からない。
外って、どんなところだろう?
想像は、何度もしてみたけれど。 想像の中の景色はいつもぼやけていて、はっきりとは結ばない。
きっと。
絵本のような場所なんて、どこにもないんだろう。
ベッドから身を起こし、軽く伸びをする。
ランタンの淡い光に照らされたこの牢には、昼夜の区別なんて存在しない。 だからわたしは。寝たいときに寝て、起きたいときに起きることにしていた。
案外、この生活は地上の時間と合っているらしい。
壁に囲まれて、物音ひとつ聞こえないのに。 たまに地上へ連れ出されたとき。 窓の隙間から差し込む光が、わたしの感覚と重なっていると、少しだけ誇らしい気持ちになる。
ベッドの向こう側にある小さな洗面台で、顔を洗う。
横に掛けてある布で、濡れた顔を拭った。 動くたびに、足に繋がれた鎖が、不愉快な音を立てる。
ほどなくして。 今日も、呼び出しがかかった。
アヤセが、食事以外の時間にやってきて。 わたしの足枷、鎖の鍵を外した。 ……それだけで、行き先は分かる。
「……検査の時間だ。さっさと来い」
嫌だ。
行きたくない。
わたしは、つい俯いて、手をぎゅっと握りしめた。
待っているアヤセに、ぎこちなく頷く。
後について、部屋を出る。
彼は、わたしが頷くのを見るやいなや、振り向きもせずに歩き出した。 また、舌を打つ音が聞こえる。
行かなければならない。
「ケンサ」は痛いから、嫌だ。
けれど。行かなければ。 我慢、しなくちゃいけない。
じゃないと。 ごはんを、もらえなくなってしまうから。
「頑張らない子には、ご褒美はないんだよ」 いつか、誰かがそう教えてくれた。 だから、頑張らなきゃ。
痛いのも、きっと。 わたしのための痛みだから。
わたしの「悪いところ」を治すために、調べなきゃいけないから。 そう教えてもらったから。
ジャラリと重い音を引きずりながら、アヤセの背中を、ただ追いかけた。




