第八話 断食
翌日。
その日の食事は、扉の前に置かれていた。
誰が持ってきたのかは、わからない。
いつの間にか置かれていたから。
うたたねから起きたら、すでにあった。
私は、しばらく盆を見つめ、そのまま視線をそらした。
食べたくなかった。
お腹が空いていても。
「生きるために食べる」という当たり前のことが、ひどく嫌だった。
——死ぬために、育てられてきた。
その言葉が、頭に残って離れない。
私は、そのまま布団の中に戻った。
おなかすいた……。
死にたいわけじゃない。生きたくない。
大人からすれば、子供のわがままにしか見えなくても。
でも、私にとっては、精一杯の抵抗だった。
次の日も、その次の日も、その繰り返し。
盆は片づけられ、新しい盆が置かれる。
私は、ただ毎日それを睨んで、背を向けるだけだった。
それが続いた三日目の夜。
乱暴に開いた扉の音に、振り返る。
あの日から姿を見せなかったアヤセだった。
「おい、お前。……食ってねえだろ?」
無視。
私は、壁に直って、布団をかぶり直す。
アヤセは舌を打ち、ため息を吐いた。
「これは、流石に上に報告……ほかのやつに言わねえとなんねえぞ?」
私は、布団の中から、応える。
「……言えばいいでしょ」
くぐもった声が、響いた。
怒りはもう湧いてこない。慣れた諦めが、胸にあった。
アヤセは、一瞬言葉を詰まらせた。
「……死ぬぞ、お前」
「別に……いいよ」
薄い布団を握りしめ、そう言うと、舌打ちの音がした。
そして、乱雑な足音。
アヤセが、近づいてくる。
扉が閉まる音。
アヤセは、私を見下ろして、目を合わせた。
珍しい。
そんなことすら、ここの人はしてくれなかった。
今更気づいて、傷つく心から、意識をそらす。
「……お前の死は、役目として決まってるんだろ?
ここで死ぬのは、違うだろ。
……お前はこんなところで、死ぬべきじゃない。
死ぬなよ、なあ」
「うるさい!」
私は、やけに真剣に言葉を紡ぐアヤセから目をそらし、耳を塞ぐ。
沈黙。
「……わかった。もう他所に言うからな。いいな?」
「……勝手にすれば」
足音が遠ざかっていく。
時々、立ち止まりながら、アヤセは牢を去っていった。
扉の閉まる音が、どうしてか寂しげに感じて、耳障りだった。
「……もう嫌」
私は、勝手に流れてくる涙を、袖で拭った。




