第七話 預言の魔女
アヤセはこのところ酷く静かで、何か言いたげに私を見た。
あ、これ。
私はなんだか心細くなって、唇を嚙むことが増えた。
だって、その行動は、いつも世話役が変わる前に見せる仕草だった。
皆、だんだんそういった悲しそうな複雑な顔をして、いつも急に来なくなって、また次の人が来る。
優しかった人も、怖かった人も。
私が嫌になったから、いなくなったんだって。
ケンサの時の白い服の人が教えてくれた。
アヤセも、この人も、私が嫌いで、もういなくなるのかな……?
いやだな……。
そんな風に感じるのが、なんでかなんて分からないけど。
その日、盆がおかれる音が、いつもより静かだった。
私はスープを混ぜながら、珍しくまだ牢にいるアヤセを見上げる。
アヤセは壁にもたれて、疲れたような暗い顔をしていた。
「……なあ、サイカ」
呼びかける声は、いつもより柔らかい。
「お前さ、
その……『救って死ぬ』って話、聞いたことあるだろ?」
私はスプーンを止めた。
「なに、それ」
アヤセがわずかに眉を動かす。
「……ほら、あの預言の話だよ。
『魔女が、命を使って、国を救う』ってやつ。
たぶんお前の……まあ、運命みたいなもんだ」
言いづらそうに告げるアヤセの言葉に、私は目を丸くした。
「……知らねえのか?」
沈黙。
私は、ゆっくりと瞬きをした。
胸の奥がざわざわする。
理由はわからないけど、なんだか気持ち悪い。
アヤセは気まずそうに、目をそらした。
「悪い……。
てっきり、とっくに誰かが話してるもんかと……」
珍しく弱気なアヤセの下がり眉を見た、その瞬間だった。
胸の奥で、ざわつきが一気に燃え上がった。
体が熱い。
一拍置いて、呼吸が荒くなる。
スプーンを取り落とした。
自分の胸元を強く掴む。
「私が、」
声がかすれる。
「……私が死ぬって、誰のために?」
この国のために?
こんな奴らのために?
今まで受けてきた仕打ちが、閃いては消える。
アヤセが言葉に詰まる。
反対に私は、ひどく静かだった。
けれども、冷えていて、同時に酷く熱かった。
「私が、ここに閉じ込められていたのは、……『変だから』じゃなかったの……?」
胸が痛い。
こんなに強い感情、今までなかった。
「私が何かやったんでもなくて、私の変なところを治すためでもなくて……死ぬためだったの?」
涙が出てきた。泣きたくないのに。
爆発しそうだ。
アヤセが慌てて手を伸ばしてくる。
「おい、落ち着け。違う、そういう意味じゃ——」
「違わない!」
私の叫び声は、狭い牢によく響いた。
「どうして……!
どうして、あなたたちのために死ななきゃいけないの!?
私……!」
ぽろりと、涙がこぼれる。
「私、あなたたちのこと……大嫌いなのに!」
アヤセの目が見開かれる。
何を驚くの?
痛いことをしてくる人たちを、どうして好きになれる?
「ずっと……変だから閉じ込められてるんだって思ってた。
私が、悪いんだって、思ってた」
涙が止まらない。
「でも……違ったんだ?
最初から、死ぬためだったんだ……?」
アヤセは何も言わない。
ただ立っていた。
私は、アヤセから離れるように、牢の奥へ後ずさる。
「……いやだ、」
小さな声が、漏れる。
「いやだよ……どうして」
涙で滲む視界で後ずさって、私はバランスを崩しそうになる。
アヤセは、また慌てて手を伸ばしてきたが、私は半ば反射で振り払った。
「触らないで!」
バチッと、小さな雷が走り、アヤセが一歩引く。
「っ!……もういや!あっちへ行って!
消えてよ!
……二度と、私に死ねなんて言わないで!」
騒ぎは、階上に伝わっているようだった。
その後、慌ててやってきた人たちに、アヤセが連行される横で、私は牢の奥で座り込んで涙をこらえていた。
もう誰も信じられない。
アヤセも、今まで傍に来てくれた優しい人も、こないだ見たお姫様みたいな人も。
みんな、私が死ぬことを願ってるんだ。
死んでほしいときに、死ぬことを。
悲しくて、苦しくて、許せなくて、大嫌い。
私の世界は、この日、初めて大きく揺らいだ。




