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ようこそエディット離婚相談所へ  作者: 黒星★チーコ(黑星ちい子)


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第二十七話 アーノルド VS メルトバレー子爵

「そちらから渡される宝石は正に玉石混交です。だが、その中から『玉』だけを意図的に抜き出されたら、こちらはやっていられません。だから、先日僕はジャックにこう言っただけですよ」


 アーノルドの口調が更に鋭く厳しく、抜き身の剣を突きつけたかのように冷ややかになった。


「メルトバレー子爵。貴方が爵位を息子に譲らないのならば、僕はそちらとの取引を打ち切る、とね」

「なっ……!」


 子爵の顔色は赤くなったり青くなったりと忙しい。青いまま口の中でなにか呟いていたが、ふと思いついたらしく顔色が少し戻った。


「……アーノルド、随分と強気じゃないか。たかが伯爵令息の分際で」

「!」


 エリザベスはピリリとした緊張感を覚える。確かに子爵家と伯爵家、二流以下の宝石の卸元とそれを大量に引き取ってくれるお得意様という関係性で見れば、優位なのはアーノルドだ。しかし爵位を持つ子爵本人と伯爵家令息という立場では、身分はメルトバレー子爵のほうが上である。


「君のお父上が先日病床についたと聞いているよ。コゼット伯爵が伏せっているのを良いことに伯爵家の権威を振りかざし、あまつさえ家を左右するような取引を勝手に打ち切ろうとは、少々やりすぎじゃないかね?」

「ああ、色々(・・)と勘違いをされているようだ。父が寝込んでいるのは事実ですが、大病ではありません。ただの心労ですよ」

「フフフ、では益々まずいのでは? 伯爵が知らぬ間にご子息が勝手に動き、我が家の継承問題を誘導したとなれば明らかな過干渉……いや、子爵家乗っ取りを企んだとして法務院に訴えてもいい件だ! 伯爵はもっと大きな心労を抱えるだろうね」


(……こんなの、この場しのぎのハッタリだわ!)


 エリザベスは思った。子爵は一見して筋の通ったことを言っている。確かにアーノルドが令息の立場から親の威光を振りかざして子爵に進退を迫るのはやり過ぎだと言えよう。

 しかしその論は「子爵が伯爵家に卸す宝石に手を出さなければ、そもそもの問題が発生せずに済んだのに」という、グニャグニャの土台の上でかろうじて立っているに過ぎない。

 彼は今、なんとかこの場を切り抜けさえすれば良いと考えているのではないか。後で子爵令息には威圧的に、そして夫人には優しく愛しているフリで接すれば丸め込めるという思惑だろう。


 彼女は再び夫人に目をやる。賢明な子爵夫人も同じ事を考えているのか、夫の言うことに困惑している様子だった。エリザベスは心の中でホッと息を吐く。


(大丈夫。夫人が丸め込まれることはなさそうね)


 それなら目下の心配はアーノルドが一旦子爵と和解できるかどうかだけと思い横を見る。と、何故か彼は余裕たっぷりに微笑みを返してみせた。そして子爵に向き直り再び口を開く。


「なるほど……法務院に訴えると? どうぞお好きに。ああ、その際には『コゼット伯爵に干渉された』と告発するようお間違いなく」

「ふっ、都合が悪くなると親の陰に身を隠す卑怯者だな! ハ、ハハハ……!」


 子爵は高笑いを始めた。少々ぎこちなくはあったが、おそらく彼の勝利宣言であったのだろう。しかしアーノルドはその笑いをぶった斬る。


「いいえ、僕は逃げも隠れもしませんよ。なにせ、僕がコゼット伯爵本人なので。先日父から爵位を継ぎました」

「……ハ?」

「は?」

「え?」

「えっ?」


 待機室の中にいた人物のうち、アーノルドの言葉に唯一驚かなかったのは子爵令息である。メルトバレー子爵が首を振り、アーノルドの次に息子の顔を見ると、彼はゆっくりと頷いた。子爵はもう一度アーノルドに顔を向ける。その灰褐色の目には驚愕と怯えとが映っていた。


「……馬鹿な!? 代替わりなど聞いていないぞ!?」

「だから心労だと言ったではありませんか。父は長い間、息子()が縁談から逃げ続けて女の影も一切無いことに悩み、爵位を継承したくてもできずにいたんです。けれど漸く、僕がこのひとと婚約したのでね」


 アーノルドは傍らのエリザベスの肩をぐっと抱き寄せる。


「伯爵位を譲って、ほっと安心したらそれまでの心労が一気に出たようで倒れたんですよ。ですから僕も父の容体が良くなるまでは爵位継承のお披露目を控えている状況でしてね」

「そ、そ、そんなぁ……?」


 子爵が頬の肉をぶるぶると震わせる。アーノルドは元の、人を食ったような態度を復活させた。


「……で? 過干渉どころか子爵家乗っ取りの疑惑でしたっけ? とんだ誤解ですよ。ここを乗っ取ろうとするほど僕は暇じゃない。なにせコゼット領をうまく治めるのと、この素敵なエリザの相手をするので手一杯ですから。そこから更に厄介事が起きれば僕の器ではとてもとても(ぎょ)しきれません」


 今度ばかりは気のせいでも被害妄想でもなさそうだ。アーノルドはエリザベスが嫌というほど見慣れた、皮肉げなニヤリとした笑みを見せる。


「ですから、厄介事の素とは縁を切らねば。子爵、貴方のことですよ。爵位をジャックに譲るか、僕との取引を打ち切るか、ふたつにひとつ。選んでいただきましょう」


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三年前に描いた推理ものです。
※犯人は逮捕されますが、後味の良くない結末です。

羊の見る夢は彼女を殺す



短めの短編もよろしくお願いします!
5分前後でサクッと読めるやつ あれこれ
(バナーは楠木結衣様からのご厚意で頂きました♪)


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